真眼鑑定師の逆襲 ~軽視された俺が最強になって元パーティを見返す~

nireron

第1話 鑑定師の末路

「レン、また後ろで突っ立ってるだけかよ」


戦士のガルス・アイアンが剣を振り回しながら叫んだ。


彼の前には巨大なオーガが倒れている。


レン・シルバーは苦笑いを浮かべながら答える。


「鑑定師の俺には、これくらいしかできないからな」


レンの前には、先ほど彼が鑑定して発見した宝箱が置かれていた。


罠を見抜き、安全に開錠したのは彼の功績だ。


しかし、パーティリーダーのアリス・フレイムは不機嫌そうに髪をかき上げる。


「鑑定なんて誰でもできるじゃない。もっと役に立つことはできないの?」


アリスの赤い髪が炎のように揺れる。


彼女は火魔法の使い手で、このAランクパーティ「紅炎の剣」のリーダーだった。


レンは内心でため息をつく。


鑑定は誰でもできる技能ではない。


特に彼の鑑定レベルは相当高いはずだ。


だが、それを証明する手段がなかった。


---


僧侶のミラ・ヒールが優しい笑顔を浮かべて近づいてくる。


「レンさん、お疲れさまです。でも、もう少し積極的に戦ってくれると助かるんですけど」


表面的には優しい言葉だが、レンには非難が込められているのがわかった。


ミラは計算高い女性だ。


レンを直接批判はしないが、遠回しに圧力をかけてくる。


「俺だって戦いたいが、武器の扱いは素人同然だからな」


レンは正直に答える。


彼の役割は鑑定と罠の解除、そして戦利品の価値判定だった。


戦闘は他のメンバーに任せている。


ガルスが鼻で笑う。


「だから使えねぇって言われるんだよ。鑑定師なんて、街の商人でもできるだろ」


アリスが宝箱の中身を確認する。


「あら、これは上質な魔石ね。かなりの値段で売れそう」


レンが鑑定した結果、この魔石は市場価値の倍以上で取引される希少品だった。


しかし、その詳細を説明する前にアリスが話を進める。


「今回の報酬の分配だけど、戦闘に参加しなかったレンは10%。残りは私たちで等分よ」


---


レンの顔が青ざめる。


いつもの報酬は20%だった。


それでも他のメンバーより少ないが、今回はさらに減らされている。


「ちょっと待ってくれ。俺がいなかったら、君たちは罠で全滅していただろう」


レンは抗議する。


今回のダンジョンには、彼でなければ見抜けない高レベルの罠が仕掛けられていた。


アリスが冷たい目でレンを見る。


「罠の解除なんて、盗賊でもできるわ。あなたじゃなくても良かったのよ」


ガルスが同調する。


「そうだそうだ。おまえの代わりなんて、いくらでもいるからな」


ミラは申し訳なさそうな表情を作るが、反対はしない。


レンは拳を握りしめる。


理不尽だった。


彼の鑑定能力がなければ、このパーティは今頃全滅している。


だが、それを証明する方法がない。


---


ダンジョンから戻ったパーティは、冒険者ギルドで報告を行う。


受付嬢が笑顔で迎える。


「紅炎の剣の皆さん、お疲れさまでした。今回も素晴らしい成果ですね」


アリスが胸を張る。


「当然よ。私たちはAランクパーティなんだから」


ギルドの他の冒険者たちが振り返る。


Aランクパーティは街でも数えるほどしかない。


レンは隅の方で静かに立っている。


いつものことだが、彼だけは注目されなかった。


アリスがギルドマスターの執務室から戻ってくる。


表情が少し険しい。


「レン、ちょっと話があるの」


---


パーティの4人は、ギルドの一角にある談話室に集まった。


アリスが口を開く。


「単刀直入に言うわ。レン、あなたをパーティから外すことにしたの」


レンの心臓が止まりそうになる。


「なんで急に?」


ガルスが腕を組む。


「おまえが足手まといだからだよ。戦闘には参加しないし、鑑定なんて大したことじゃない」


ミラが申し訳なさそうに付け加える。


「レンさんの頑張りは認めてるんです。でも、パーティの成長のためには、より強いメンバーが必要で」


アリスが冷たく続ける。


「鑑定師なんて、代わりはいくらでもいるもの。でも戦闘要員は貴重よ」


レンは言葉を失う。


三年間、このパーティで頑張ってきた。


数え切れないほどの危険から、彼らを救ってきた。


それがすべて無駄だったのか。


---


「分かった」


レンは静かに立ち上がる。


「今までありがとう。君たちの成功を祈っている」


アリスが意外そうな顔をする。


「あら、意外にあっさりね。もっと食い下がるかと思ったけど」


ガルスが笑う。


「流石に自分の実力がないってことを理解してるんだろ」


ミラが心配そうに声をかける。


「レンさん、一人で大丈夫ですか?」


レンは振り返らずに答える。


「心配いらない。俺は俺で、やっていくよ」


---


ギルドを出たレンは、夜空を見上げる。


街の灯りが星を隠している。


彼の心の中で、何かが燃え上がっていた。


怒りだった。


悔しさだった。


そして、証明したいという強い意志だった。


「俺の真の力を、見せてやる」


レンの瞳が、一瞬だけ金色に光った。


それは、彼の中で眠っていた真眼鑑定が覚醒し始めた証だった。


明日から、レンの本当の冒険が始まる。

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