6-6

三学期、一年生最後の学期。

 うちの学校は二年生でクラス替えがある、だからなのかはわからないけれど、一年生のお別れ会的な行事があるのだ。

 各クラス何か催し物を出さないといけないということなんだけど、さっきから私は大ピンチを迎えている。


「え、いや、無理ですって、もう五ヶ月も触ってないし」


 私が必死の抵抗を見せるのに、黒板には【ドラム 片山海音】と書かれている。

 そしてその横には【ギター&ボーカル 加瀬拓海】【ベース 百瀬亮】

 ちなみに百瀬くんは同じクラスで軽音部の仲間だった人。

 彼は違うバンドのベースをしてる子だ。


「だってドラムできるの、このクラスに片山さんしかいないでしょ」


 責めるような委員長の言葉に周りも、ウンウン頷いてこっちを見てるし、その視線に居たたまれなくなって最終的には。


「……、やります、やるけど……もう腕が鈍ってるので期待だけはしないで下さい」


 消え入りそうな私の返事に周りは拍手喝采。


「では一年二組の催しはバンドに決定!」


 パチパチパチ、じゃないよ、もう。


「ねえ、Na na naやってよ~!!」

「え~? smileも聴きたい」


 事情を知らない女子たちの勝手なリクエストに、


「曲は三人で決めさせて」


 と、言う加瀬くんの言葉に皆納得しつつも、それでもあちこちでNa na naがいい、smileがいい、と小さな声が聴こえてる。

 私と加瀬くん=TAM'sのイメージはまだあるのだろう。


「片山さん、よろしく~! 早速帰りにでも打ち合わせしようよ」


 百瀬くんに連れられた加瀬くんも一緒にいて、思わず頷くと、


「片山さん、本当にいいの? 大丈夫?」


 心配そうな加瀬くんに、わからないと首を傾げる。


「多分ね、前みたいには叩けないよ! 大分鈍ってるもん。それでもいい?」


 不安げな私に、


「できるだけ簡単なのにしよっか」


 大丈夫、と気遣ってくれる加瀬くんに安心した。



 その日の帰りに三人で教室に残ってどうするか話し合い、何曲にするか、誰の曲にするか。


「TAM'sの楽曲でも別にいいよ、オレは。が、ギター一本足りないしそうなると加瀬が編曲大変?」

「ん~、ま、大変っちゃ大変だけど、それよりも」


 向けられた視線は私へ。


「そっか、そうだよなあ、片山さんブランクあるもんな、ぶっちゃけどんだけ叩けるか次第ってとこ?」


 頷く加瀬くんと、そうか、と納得してる百瀬くんに申し訳なくなる。


「まあ、当分練習するしかねえな、とはいえ片山さん軽音部辞めたから部室使えないし。あ、アオイん家の防音部屋借りられないかな?」


 思わずそれには、すぐに私が首を横に振った。


「ス、スタジオ行ってみたいな、私! 行ったことないし」


 と話の矛先を変えた。

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