4.真夏、好きがいっぱい
4-1
「目、瞑ってろ! 海音」
そう言って私の後ろの席に座り私の目を隠す周。
「はい、もう何も聞こえないね」
とやはり後ろから私の耳を塞ぐアオイくん。
そして震えを止めるようにしっかりと隣で私の手を握ってくれている加瀬くん。
自分たちの順番三十分前まではどこにいてもいいとのことだったから、他のバンド演奏を聞いて待とうと会場に入ったまでは良かった。
「……、おい、海音、お前震えてね?」
異変に最初に気づいたのは周だった。
「大丈夫」
そう言いながら、きっと青白い顔で震えながら引きつっていたんだと思う。
その結果、こうして目も耳も塞がれて震えを止められてるという妙な状態になってしまった。
最終的にこれはもうダメだと三人に外に連れ出され、会場の外にある公園に行き、青空の下で深呼吸をさせられる。
「いいから、落ち着け」
と周が呆れたように見下ろしている。
「……わかってる」
わかってるんだけど、体がついてこない。
吹奏楽のコンクールでも本番前はいつもそうだった。
酷いときは嘔吐するくらいの緊張しいだ。
やだな、もう。
この緊張癖は全然治ってなかったようだ。
ベンチに座らせられた私の目の前に加瀬くんがしゃがみこんで、
「大丈夫、片山さんは、やでばできる子」
ね、と私の両手を包み込むように握ってくれた。
「片山さんはできる、片山さんならできる、片山さんは無敵! やり遂げられる!」
まるで呪文のようなそれに吹き出すと。
「うん、海音ちゃんならできるよ。あんだけ練習したんだから、ね?」
アオイくんもしゃがみこんで、安心させるようにと私の顔を覗いて笑ってくれる。
「やれんだよ、お前は! ただ自信がないだけ」
後ろから周の声がかかってグシャグシャっと私の頭を乱暴に撫でる。
三人の励ましに私も自信を取り戻しつつ、頑張ろうと思えてくる。
できる、きっとできる!
「うん、絶対やりきる!」
大きく深呼吸して立ち上がり三人を見回すと、笑顔で頷いてくれた。
「よし、円陣組もっか」
加瀬くんの言葉に生まれて初めての円陣を組んでみる。
私の隣には周とアオイくん、向かい側に加瀬くんがいて、めっちゃ皆顔が近くて恥ずかしくなるけれど。
「思い切りやろう、オレたちらしくやり遂げるぞ、行くぞ!!」
「おー!!」
気合いを入れてから皆でハイタッチ。
本番に臨むときには私の震えも止まっていた。
ステージの上でいつものように加瀬くんが私を振り返りピースサインと笑顔を送ってくれたから、私も笑顔でハジマリの音を叩いた。
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