3-14

「ほい」


 加瀬くんから手渡されたワイヤレスイヤホンを耳に入れると、流れ出す、メロディー。

 Na na naとは全く違うその曲は、とてもポップで可愛らしい。

 決して激しくはないのだけれど、サビの繰り返し部分でキュンとするメロディーが流れるのが好き。

 聞きながら多分ニヤけてたんだと思う、加瀬くんが私の反応に釣られて笑ってる。


「どう?」

「どうしよ、可愛くて大好き! ねえ、加瀬くんこの曲、文化祭にやろう! やりたい!」


 めちゃくちゃ可愛い、とはしゃぐ私に加瀬くんも安心したように微笑んで、そして。


「ありがと、この曲ね、」

「うん?」

「片山さんっぽいなって思って作った」


 あはは、と照れくさそうに笑う加瀬くん。

 

「……私って、こんな感じ?」


 私っぽい?

 可愛くて大好き、とか言っちゃったよ。

 まるでナルシストみたいじゃない?

 恥ずかしさマックスで俯く私に、


「曲作りながら片山さんのことイメージしてた、ずっと」


 何か照れるね、って笑う加瀬くんを見れず私も笑って誤魔化す。

 加瀬くんがイメージする私ってこんな感じ?

 それがとっても嬉しいのと恥ずかしいのとで、全然加瀬くんの顔が見れない。


「早めに歌詞つけてくるよ、コンテストが終わったらまた皆で音つけよ? あ、もうアオイと抜け駆けはなしだからね」

「どうしよ、加瀬くん」

「ん?」

「私ね、もうイメージできちゃってる。音作れるかも」

「うそ! めっちゃ楽しみじゃん! でもまだコンテスト終わるまでは内緒ね、まずはそこに集中しないと!」

「うん」


 練習に向かうバスの中でも。

 もう一回聴いてもいい? と確認してからその可愛いメロディーを堪能しつつ。

 膝の上で、指でトントンとリズム取ってたら私の顔覗き込んだ加瀬くんが「気に入ってくれてありがと」と笑った。

 その笑顔を真っすぐに見られない。

 サビの部分みたいに、加瀬くんの笑顔にキュンとなってる、自分に気づいてしまったからだ。

 ……そっか、やっぱりそうみたい。

 私の知らなかった感情。

加瀬くんといると嬉しくて、一緒にいると楽しくて、隣にいると幸せで。

 笑顔を見るとキュンとなるのは。

 私、加瀬くんに恋をしてる。

 初めて自覚した、夏の昼下がり。

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