1-6
「じゃあさ、一回だけセッションしてみん?」
「え?」
「オレらとセッションしてみて、それでどうしてもヤダ! やっぱ、無理って片山さんが言うならオレらも諦める! だから、一回だけ! お願い!」
セッションって皆で演奏してみる、ってことだよね?
一回だけを強調し人差指立ててる加瀬くん。
そんな私と加瀬くんのやり取りを、祈るような顔で見守るアオイくんと周のジリジリとした視線に最後は耐えられなくなった。
「……、じゃあ一回だけ。でも絶対に期待しないで欲しいんです! セッションしたら加瀬くんたちの方から、お断りされるようなレベルだと思うし」
それでお互いに納得してやっぱり無理だね、になればと、一回だけのその誘いに乗ってみることにした。
じゃあ、また明日学校で、とバス組の加瀬くんとアオイくんと別れ、周と二人で路面電車に乗り帰路につく。
最寄りの停車場も一緒だからいつかは一緒になるかもと思ったけれど、入学初日にこうなるとは。
しかも何考えてるのかブスッとしているし、隣り合わせに座ったまま、私も周からそっぽ向いて窓の外の景色を眺め今日の出来事を一人考えていた。
「……、急に、……」
「ん?」
周が何か言ったような気がして顔を向ける。
「急に誘って悪かったな」
周が謝った!? らしくない!
思わず笑ってしまいそうになるの我慢して、
「周が強引なのは昔からでしょ」
クスクス笑った私にチッと舌打ちして、周はまた顔を背けた。
そこからまた会話もせずに停車場に着くまで、私もまた外を眺める。
らしくない、謝るなんて周らしくない。
だって、そうでしょ? いつだって周は強引だったもの。
目立つことが大嫌いな私をいつだって周は前に引っ張り出す。
私が半泣きになっても、お構いなしの嫌がらせレベルだったよね。
中一から中三までの後期のクラス委員は、ずっと周に推薦されてやらなきゃいけない状態になった。
最も周も一緒にやってくれたから、どうにかこなせたけれど、それでも鈍くさいと怒られてばっかりだったな。
「んじゃ、次の土曜日。アオイの家でセッションだからな。九時にここで待ち合わせんぞ?」
電車から降りてボソリとそれだけを私に伝えて、じゃあな、って背中を向けてとっとと歩き出していく。
私の家と周の家は真逆だ。
周の背中を見送りながら、そういえば、と思い出す。
「周、あのね」
「あ?」
呼び止められ不機嫌そうにこっちを向いた周に、
「ありがと、演奏褒めてくれて」
「……、別に」
ふん、とぶっきらぼうな態度でまた背中を向けたから、しばらくその背中を見送る。
見えなくなってから
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