1-7

 高校を経由しなければ、路面電車に乗らずにバス一本でアオイくんの家に行けるらしい。

 いつもの停車場でギターを背負った周と待ち合わせしてから、そのすぐ近くのバス停から出発し、三十分ほどで到着した住宅街の停留所で降りる。

 セッションするのにスタジオとかじゃなくていいのかな?

 何でアオイくん家なんだろう? 

 バンドって結構大きな音出るし、騒音にならない?

 お家の人に怒られたりしないの?!

 と不思議に思っていたけれど、アオイくんの家に到着し徐々にその謎が解けてくる。


「……大きいね」


 驚きのあまり、見たままの感想が自然と口をついて出た。


「オレも最初来た時はビビッた。城なんか? と」


 何だ、周もそう思ったんだ、と少し安心する。

 アオイくんの家はお父さんが建設会社の社長さん。つまりはアオイくんは、お金持ちの息子さんなのだ。

 大きな門構えと奥にそびえるこれまた大きな洋館風のお家。

 イケメン王子は住んいでる場所も一味違うのだ。

勝手に想像して不躾に見上げてしまっていたら、門まで迎えに来てくれた王子、いや、アオイくん。


「いらっしゃい、海音ちゃん、待ってたよ~! 入って入って」


 笑顔で出迎えてくれたアオイくんはやっぱり眩しすぎる。

 私服のごく普通の白い長袖Tシャツすら、特別なものに見えてくる。


「オレもいるんだけど?」


 まるで私以外見えてなさげなアオイくんからの扱いにムスッとしてる周の言葉はスルーされた。


「じゃあ、こっちにどうぞ」


アオイくんに案内されたのは玄関、ではない。その横の通路を抜けた先にある小さなお家の方だった。


「ここさ、元は親父の趣味部屋だったの。麻雀だったり、カラオケだったりしていた場所だから、防音はバッチリなんだ! どうぞ~」


 ガチャリと開けてくれた厚いドアの向こうから、聞こえてきたのはギターの音だった。

 切ないメロディー、心地いい音に聴き入ってしまう。

 それを奏でていたのは加瀬くんだった。

 ソファーに座ってギターを弾き集中してるせいか、私たちには全然気づいていない。ものすごく真剣な横顔だった。

 隣の席にいる加瀬くんがギターを弾いてるのが不思議な気がした。

 入学式翌日の昨日も、学校で見かけるふにゃっとした可愛い笑顔の加瀬くんじゃない。

 その姿に目が釘付けとなってしまって、しばし動けないでいた私の背中を周がとっとと入れとばかりに押してくる。

 その騒がしさにようやく加瀬くんも気付いたようで、私たちを見て「いらっしゃい」と笑ってくれた。


「お邪魔します」

と、靴を脱ぎ上がると。


「いいの? ドラム叩くとき、足」

「大丈夫です、上履き持ってきたから! あ、洗ってるやつですからね」


 ご迷惑はかけられないし、と必死に言い訳する私にアオイくんも加瀬くんも笑っている。


「大丈夫、女子の上履きは汚くないって思ってるし」


 アオイくんの冗談に苦笑した。


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