第一章 女神の代理人

女神の代理人 1


村の広場に、賑やかな子どもたちの声が響く。

夏の名残もすっかり影を潜め、柔らかい日差しが木々を優しく縁取っていた。


気持ちのいい秋風が、少女の頬を撫でる。

深緑色のローブと、長い白金色の髪が揺れ、ふわりと薬草と花の香りが広がった。なみなみと水を湛えた泉のほとりで、静かに祈るその姿は凛として清々しい。


「ねえね、お昼寝?」

 不意にかけられたあどけない声に、ささやかな結界が緩む。

胸の前で組んでいた両手を解き、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

現れた瑠璃色の瞳に子どもたちの笑顔が映る。


「ねえね、起きた!」

「違うよ、お祈りしてたんだよー」

「立ったまま寝るわけないだろ」

「またお話してー」


 屈託なく話す子どもたちにふわりと微笑み、少女が花弁のような唇を開く。


「お手伝いは、済んだの?」

「うん! リーナが一番に終わったの。それでね、みんなを呼んできたんだよ」

「うそだ、おれが一番だったんだぞ!」

はきはきと喋る女の子に、口を尖らせながら男の子が言う。

なによ、なんだよ、と眉を吊り上げる二人の頭を少女が撫でる。


「みんな、がんばったんだね。――じゃあ、お話し始めようかな」


 その言葉に、にらみ合っていたこどもたちの顔がぱっと明るくなった。

「やったあ!」

はやくはやくー、と急かす声に促され近くの木陰に腰を下ろすと、子どもたちも彼女を囲むように座った。

楽し気な眼差しに、にっこりと笑顔で応える。


「……昔むかし、そのまた昔。アルディーナの大地で、女神様と人々は仲良く暮らしていました。精霊に護られた自然はとても豊かで、人々の心も、愛と光に満ちあふれていました……」

 美しく澄んだ声に、子どもたちは並んで口を閉じると耳を傾けた。


アルディーナは、女神アールダイナをその国名の由来としている。

遙か昔、この地に降り立った女神が地上の王と約束を交わした。


 古の王は、祈った。

 どうか、この地に生きる者たちが心安らかであるようにと。


 女神は、応えた。

 ならば、私が護ろう。

 地上の王が願う限り、彼らを庇護の翼で包もう。


 王は、捧げた。

 未来永劫、変わらぬ心を。

〈慈しみ深き女神よ、我らは永遠に共にあらん〉

 

 その刹那、祈りは誓いになった。

女神と王を結んだ契りは、神声者の長と大公に継承され、その秘跡によって現在もこの国は護られ続けている。

 

話し聞かせようとしているのは、この国で語り継がれてきた神話だ。彼女たち神声者しんせいしゃが、なぜ女神の代理人と呼ばれるようになったのかを伝える物語だった。

ふと感じた気配に視線を向けると、少し離れた所に幼い姉妹が見えた。




************作者のつぶやき********

見つけてくださって、ありがとうございます。

週一で投稿しようと思っていたのですが、カクヨムは予約投稿というものができるんですね…!素敵です。

ということで、不定期ではありますがもう少し投稿の回数は増えそうです。

どうぞよろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る