第25話 学園長室へ

 あたしとソフィーちゃんは、学園長のぶんのパンペルデュを届けるために四階の廊下を歩いていた。


「ソフィーちゃん、すっごく美味しかったね。すっごく楽しかったね!」

「しーちゃん、わたしもすごく楽しかったよ。いつもは一人で作ってるんだけど、二人で作るのってこんなに楽しいのね。リーゼさんも手伝ってくれてうれしかったね」


 ── あー、ソフィーちゃんの笑顔、ほんと癒されるーっ!


 おしゃべりしながら歩いていると、ソフィーちゃんが大きな木の扉の前で立ち止まった。ここが学園長室みたいだ。


 コンコン。


 ソフィーちゃんがノックすると、


「どうぞ」  


 と学園長さんの声がした。


「失礼します」

「失礼しまーす」


 中に入ると広い部屋になっていて、真ん中にソファーがある。その前のテーブルを挟むように二脚の立派な椅子が置かれている。床には深い色合いのカーペットが敷かれていて、奥に大きな机と椅子。いかにも学園長室って感じだ。突き当たりには大きな窓があり、濃い赤のカーテンが両端にまとめられている。


「学園長、パンペルデュをお持ちしました」

「ありがとう。後でいただくよ」


 学園長さんがいつもの優しい笑顔で受け取ってくれたけれど……。


「焼き立てはすっごく美味しかったよ。でも冷めちゃったからあんまり美味しくないかも」

「大丈夫。あれがあるからね」


 学園長の指差した方向には見覚えのあるモノが置いてあった。


「げっ、あれって師匠の?」

「ん? ああ、食堂のアレか。大丈夫、これは普通の電子レンジだよ。玲士くんの会社で作っているから同じ形をしているけれどね」


 クスクスと笑う学園長さん。そこには電子レンジと全く同じものが置いてあった。でも、師匠が改造しているものではないみたい。


 ── あー、びっくりした。


 学園長さんは受け取ったお皿をコトリと奥の机の上に置くと言った。


「さて、用事は全て終わったかな、詩雛くん?」

「はい、とっても楽しかったです! ……そうだ、学園長さん。帰りってどうやって帰ったらいいですか?」

「アプリを開いて帰ることも出来るよ。でもせっかく僕がいるんだから今日は僕がゲートを開いてあげようね」

「ありがとうございます! ……あの、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだい?」


 学園長さんが聞いてくるのと同時にソフィーちゃんも首をかしげた。


「どうしたの、しーちゃん?」

「あの、帰るときってどこでゲートを開いたらいいのかなと思って。あれ、あんまり他の人に見せちゃダメなんですよね?」

「なるほど、確かにそうだね。それならば帰りはこの部屋で開くといいんじゃないかな。ここには一般生徒は入ってこないからね。僕がいない時でも、自由に入って使ってくれたらいいよ」


 ── 良かったー、ホッとしたよ。ここなら見られる心配なく使えそうだよね。


「詩雛くんはしっかりしているね。きちんと自分で考えて答えが出せている。……そんなところが気に入られたのかな?」

「え?」


 なんのことか意味がよくわからなかったけれど、


「それじゃ、ゲートを開こうか」


と言われたので、そこでハッと思い出したあたしは、ポケットから小さな封筒を取り出した。


「ソフィーちゃん、これどうぞ」

「あら、お手紙?」

「わわ、ソフィーちゃんストップ、ストップ!」


 早速封筒を開けようとするソフィーちゃんの手を慌てて止めて言った。


「それ、後で気をつけて開けてね。中に花の種が入ってるんだ」

「お花の種?」


 ソフィーちゃんの瞳がキラキラと輝いている。


 ── うぅ、めっちゃくちゃカワイイっ! 


 思わず見とれてしまい、


 ──はっ、あぶないあぶない。説明の途中だったよ。


 慌てて早口で説明した。


「うん。今植えると秋に花が咲くよ。コスモスっていう花なんだ」

「ありがとう、しーちゃん。明日さっそく花壇に植えてみるね」


 そう言ったソフィーちゃんの耳がフルフルと震えていた。

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