第22話 フレンチトーストを作ろう
ソフィーちゃんはびっくりするくらい手際が良かった。ボールに卵を割ってぽとりと落とす。牛乳をカップで測り、泡だて器で軽く混ぜ合わせ、さらに砂糖を加えて混ぜ合わせる。あたしはボールを支えていただけで、あっという間に卵液が出来上がってしまった。
次にまな板の上で食パンを四等分に切っていく。「食パンは分厚い方がたっぷりふわふわに焼き上がるから」って、豪華に四枚切りの大きさだった。それを何と3斤分も用意してあった。
あたしはまな板を押さえながら聞いた。
「すごい、食パン多いね?」
「うん。みんなの分とそれから料理長さんたちにもお礼にあげるの」
「さっすがソフィーちゃん。優しいね」
「そうかな? 当たり前のことをしているだけよ」
── それをさらっと言えちゃうソフィーちゃんってやっぱり素敵だよねー。
平たいバットがいくつも並べてあるのはそういうことだったんだね。作っている液の量もずいぶん多いなって思ってたんだ。あたしたちは協力してバットに食パンを並べると、ボールを傾けて少しずつ卵液を流し込んでいく。
「しばらく漬けておいて、それからひっくり返すんだよ。しっかり液が染み込むまで何回かやれば、後は焼いて出来上がり!」
「うふふ、出来上がりが楽しみね。みんなにも焼き立て食べてもらいたいな」
あたしはホットプレートを見てびっくりした。
── ダイヤルじゃなくて、デジタル表示でメニューを選ぶだけなんだって!
設定温度になるとランプが光って教えてくれるところは同じだった。
ランプが光ったので、液がたーっぷり染み込んだ食パンをいよいよホットプレートで焼こうとしていたとき、
バタンと荒々しく食堂のドアが開いて、
「ちょっと! 校内を見知らぬ女の子がうろついてるって噂になってるんだけど……あーっ! やっぱりしーちゃんがいる! どういうことなの?」
銀色の髪を振り乱したリーゼお姉ちゃんが飛び込んで来た。
「あ、リーゼお姉ちゃん。お邪魔してまーす」
「リーゼさん、おかえりなさい。今しーちゃんとパンペルデュ作っているんです。もう少しで出来ますよ」
「ああ、ソフィーちゃんの手作りおやつぅ……って、今はあとよ。どうしてここにしーちゃんがいるの!」
一瞬へにゃっと表情が崩れたのに、すぐにキリっとした顔に戻って睨まれた。
「え? なんでって……呼ばれたから来ただけなんだけど?」
「リーゼさん、わたしがしーちゃんをおやつ作りに誘ったんですよ」
「いや、だからそもそもどうしてここにしーちゃんがいるわけ! どうやってここに?」
「だから、呼ばれたから来たよ?」
「そうじゃなくて! あー!」
「リーゼ、落ち着いて」
リーゼお姉ちゃんがそう言って頭を抱えたとき、後ろから言乃花お姉ちゃんが現れて、ぽんと肩に手を置くと言った。
「言乃花、だって……」
「こんなことしーちゃん一人で出来るわけがないでしょう? 確実にあの人が関わってるわよ」
ため息をつきながら言乃花お姉ちゃんはポンポンと優しくリーゼお姉ちゃんの肩を叩いている。
── なんだかわかんないけど大丈夫そうだよね?
「ソフィーちゃん、焼いちゃおっか」
「うん、しーちゃん。手伝ってくれる?」
あたしはソフィーちゃんと二人でホットプレートにバターを置いて溶かしながら、たっぷり液を吸い込んでふにゃふにゃになった食パンを並べていく。後は焦げ目がついてきたらひっくり返して焼いていくだけだ。ふわっとバターの香りが漂ってきた。
── うーん、いい匂い。もうお腹が空いてきた気がするよっ。
ホットプレートに食パンを置くと、じゅわーっと音がして細かい泡がぷくぷくっと浮かんでくる。
「しーちゃん、急いでパンを並べてね。全部並べ終わったら蓋をして蒸し焼きにするとおいしいんだって」
「へー、そうなの?」
話しているうちに、香ばしい香りがしてくる。バターの焦げる匂いだ。ここでソフィーちゃんは蓋をしめる。
「5分たったら、ひっくり返すのよ」
「うわあ、あたしもうお腹空いてきたよ」
「あら、これはパンペルデュかしら?」
「あ、言乃花お姉ちゃんこんにちはー。こっちではそういうみたいだね。あたしの世界ではフレンチトーストって言うんだよ」
「そう。ねえしーちゃん、今日はどうやってここに来たのかしら?」
言乃花お姉ちゃんはにっこり笑って聞いているのに、なぜか背中がゾクッとした。
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