第23話 吾妻ヒカリ登場!

 ――朝。


「ん……んぁ……さむっ……!」

 目が覚めた瞬間、柔らかいナニカが俺に密着していた。

 布団が半分以上めくれていて、布団の代わりばりに俺の上半身にそれが乗っている。つややかな黒髪が目に入った。


 白雪しらゆきノノだ!

「……へーた(平太)……へ〜たぁ(平太)……♡」

 寝言を言いながら本人はまだ寝ているようだった。なんの夢を見ているのか、頬がとろんとして口がちょっと開いてる。


 ノノの向こう側、インフさんはいなくて、如月きさらぎが寝相わるく布団を蹴り上げて、腹を出しながら寝ている。赤髪のショートヘアはかなり乱れている。


「お……おい、ノノ?」

 俺の声かけ。しかしノノは寝息を立てたまま、ちいにゅうを俺に押し当てて寝ている。

「おい。ノノ、起きろ。ドエロいことに……いやドエライことになってるんだ」


 すると、やっとノノは、むにゃむにゃしながら目を開けた。


「おはよ、へーた♡ ……あれ? なんで顔真っ赤なの?」

「いや、この状況に違和感を感じろ!俺の上に乗って寝てるんだぞ」

「え〜?無意識無意識♡……夢でへーたが『あったかくして?』って言ってたから〜」

「今は夏だ。やめてください」


「オイてめぇこのクソビッチ!!!!」如月の怒声が炸裂した。

 俺もノノも慌てて如月を見たら、如月は寝たままだった。

 どうやら寝言だったらしい。

 なんだよこれ……。



 顔を洗い、リビングへ行くと、インフさんが丸テーブルに朝食を並べていた。

 金髪の髪の毛がまるで輝いているようだ。

「お、みんなおはよう。ほら、朝ごはん食べよ」

 食卓の上には、インフさん特製のふわふわスクランブルエッグとウィンナー、それからトースト。


「スクランブルエッグおいしい」

 俺は思わず言った。


「ねえ、インフさん、料理するなら私の火を使ってよ」と如月。

「アカネはお疲れだったでしょ。IHの電気で料理したよ」

「ふうん、なんか浮気された感じだな」

「アカネ……電気で何か思うことある?」


 ん?

 インフさんが何やら意味深なことを言い出した。

 すると如月も、「……え?もしかして」とか言い出す。


 何事かと俺は、箸を止めてコップに入った冷たい麦茶を飲み干す。


「もしかしてヒカリが来るのか?」


「ご名答」とインフさんは笑った。


「ヒカリ?」と俺は繰り返す。「誰だそれ」


「新しい同居人よ」とインフさんが言った。

 ええええええ!

「本当はね、もっと早くあなたたちと住んでもらう予定だったんだけど……」


 そういやタワマンのとき、寝室が一つ余っていたがそういうわけだったのか。


「……他の任務で、アメリカに行ってたの。間に合うように飛行機の予約も取ってたんだけど、アクシデントが起きてね。向こうで、対応に追われてたってわけ」



 その時だった。


 ――ゴロゴロゴロゴロ……ッ!!


 不意に、雷の音が鳴った。

 全員の動きが止まる。


「……え、今……雷?」ノノがおびえて窓の外を見る。

 しかしながら、空は晴れたままだった。


「チッ、来やがったか」


 そして。

 バンッ!!!

 玄関のドアが勢いよく開いた。


 「なっ……!?」


 そこに立っていたのは、一人の少女。

 肌の白さが際立つ、明るいベージュ色のロングヘア。巻きがゆるく、風にふわりと揺れる。

 目元は濃いめのメイクに縁取られ、まつげは信じられないほど長い。目つきは鋭いのに、目鼻立ちは整っていて、文句なしに美少女と呼べる顔だった。


 ゆるダボのオーバーサイズTシャツに、黒のショートパンツ。足はすらりと長く、左耳に光る3連ピアスが揺れるたび、小さな音を立てる。

 ネイルはピカピカのイエロー。元気そうな色なのに、彼女自身はまるで真逆、どこか気だるげで、生気が薄い。


 その表情は、今この瞬間すら「もう飽きた」と言わんばかりの、退屈そうな顔だった。


 「……いつぶりだ。ヒカリ」


 如月が警戒気味に声をかける。

 少女は返事をせず、ポケットをまさぐる。

 取り出したのは……乾電池だった。


 「……え?」


 彼女は無言のままスニーカーを脱ぎ、ペタペタと床を歩いて近づいてくる。

 そして、乾電池を俺の胸に、ぽんと当てた。


「これ、私の電気が入ってるから。……記念に取っといて」


「……ヒカリ?」と俺は確認する。


「吾妻ヒカリ」


 名乗る声は低くて淡々。

 そして、口元でガリっと何かを噛む音がした。

 彼女はポケットからミントタブレットを取り出し、なぜか俺の手のひらに数粒そっと乗せる。


「ミントと電気が私の特徴だから。……ついてく。あんたに」


 その言葉と同時に、ようやく視線が俺に向けられる。

 その瞳は、まるでスキャンするかのように冷たく正確で――でも、どこか深く、俺の中を見透かしているようだった。


 まるで、ずっと前から俺を知っているような――そんな目。


「……よ、よろしく……」


 混乱する俺をよそに、ヒカリは体育座りで部屋のすみに座り込む。


 こうして俺たちの共同生活に、

 無口で、無表情で、でも妙に可愛いギャル・吾妻ヒカリが加わった。


 男1:女3―――。

 これからどうなる。


 


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