第2話 今にも張り裂けんばかりの大きな巨乳

 ――数分後。


 俺はリビングのソファテーブルを前にカーペットの上に正座していた。

 向かいには、制服のままソファに座る如月きさらぎアカネ。


 さっきは顔の造形の美しさに見とれて気づかなかったが、この如月は結構大胆なボディをしている。制服の紺色ジャケットの下は白地のシャツで、そのシャツはもう今にも張り裂けんばかりの大きな巨乳をしているのである。


「ちょ、矢口……」と如月きさらぎが言う。


「え?」


「お前、どこ見てんの……?」


 はぅ!!!

 思わず驚きがてらガン見してしまっていた。


「あああぁ、いや違うんだ。見てないよ。見てないからね。これは……その!!!!」

 と言い訳してるようで何も言い訳できていない。


 如月きさらぎはまるで汚物でも見るような視線を俺に向けてくる。

 はい、すみません……。

 俺は正座してるのでこのまま土下座するにはちょうどよかった。


 だが、如月は大きなため息をつき、


「もういいから。早く食べろよ。……弁当」

 と言った。


 彼女が持ってきた弁当がテーブルの上に置かれている。

  喉を鳴らし俺はお弁当の蓋を開けた。


「うぉおお!」


 鶏の照り焼き、だし巻き玉子、ほうれん草のごま和えに、つやつやの白ごはん。彩り完璧で食欲が爆進する。手作りのお弁当って感じがまたいい。


 嬉しすぎて箸を持つ手が震えた。

「……これ、ほんとに作ってくれたの?」

「うっさいわね。別に、あんたのために作ったわけじゃないし。私は私のタスクをこなしたまでだから」


 来た、出た、典型的なツンデレのやつ。

 とはいえ、如月は微妙に落ち着かない様子で、手持ち無沙汰ぶさたに髪をいじったり、胸元のボタンをいじったりしている。

 そのたびに、シャツの間からチラ見えする胸の谷間に視線が吸い寄せられる。


「どこ見てんのよ……早く食べれば!? ……あ、ちょっと待って、その鶏の照り焼きもうちょっとあぶったほうがおいしいかも」


「え?」


 如月は急に唇をすぼめたかと思うと、そこから細い炎を吹き出した。まるでガスバーナーの火のようで箸でつかんでいた鶏肉がジュっと音を立てて香ばしい香りが広がったのである。


「うおおおお! すげええええええええ!!!!!」


 炎のギフトなんて、さすが政府お抱えの能力者だ。

 火や電気、水といった属性のギフトを持つ人間は、超がつくほど貴重な存在。

 そんな連中は、人類全体の0.1%にも満たない。

 これを総称して≪Sランク≫と世間で呼ばれている。


「ほら、これでおいしいよ」

 如月は肩をすくめて、やれやれって顔をした。

 その動作が妙に大人びてて、ちょっとドキッとした。


 そこから俺は一心不乱に弁当を食べた。

 数日何も食べていなかったからという理由もあるが、何よりこの弁当はめっちゃうまかったんだ。


「如月、これマジでうまいよ。料理の才能あるんだな!」


「は、はあ? お前に褒められたからって嬉しくないし」

 そう言いながらも如月は嬉しそうにニヤニヤしてて、顔を赤らめていた。

 なんだコイツ。かわいい奴じゃないか。


「と、とにかく今日から一緒に暮らすんだから、よろしくね。ごはんは私が作るって決まってるから。な、なんか食べたいものあれば毎日ちゃんと言ってよね。こっちだって献立考えるの大変なんだし」


「え~、嬉しいな。ありがとう」

 俺がそう言うとチラっとこっちを見て、さらに顔を赤くした。


 そして食事が終わり、如月が温かいお茶を入れてくれたのでそれをのんびり飲んでいた。如月も同じように湯呑でお茶を飲む。その間には、市販のおせんべいがあり、彼女はそれをバリバリ食べている。


「でもさあ、どうして如月がここで同居することに選ばれたんだ?」

 俺は疑問に感じたことをそのまま言った。


「ああ、それ、私も言われたんだよね。政府の担当者――インフさんっていう人が私の管理者なんだけど、その人いわく、私にはもっと協調性が必要なんだって。だから、共同生活を通じてそれを学びなさいってことみたい。実はさ、私……昔、能力が暴走して火事起こしたことがあるんだよね」


 ……………………はい?


「キレるとさ、炎の渦を生み出しちゃって、周囲が全部丸焦げになるんだよね。もちろん、人には当たらないようにちゃんとコントロールしてるよ? そこはマジで大丈夫。被害ゼロ。……でもまあ、私、怒るとちょっとヤバいの。いやほんと、人は巻き込んでないから! そこは信じて!」


 俺は冷や汗をかきながら「……信じたいよ。そう願ってる……」と返した。


「だから……私の機嫌は悪くしないでね?」


「それってつまり……危険な如月が暴走しないように、俺がその訓練台ってこと……?」


「たぶんそう。あんた、この国にとって、どうなってもいい存在って扱いなんだと思う。だから、私の練習台にされてるの。この部屋に閉じ込められて、実験対象として報酬は月に二百万もらえるらしいけど、そんなの自由がないんなら要らないよね」


 その瞬間、胸の奥がスーッと冷えた……が、待てよ?

 それなのに、国費で……俺にこんな最高の住環境を整えてるってことだよな…?


「やったー! 俺、勝ち組じゃぁあああん!!」


「……え、そこ喜ぶの? マジで……?」


 如月がぽかんと目を丸くする。

 その表情は、たぶん初めて見る素の顔だった。


「ちょっと黙れ。調子乗るな。こっちは好きで来たわけじゃないんだから。私と仲良く楽しく暮らせるなんて思うなよカス!」


「ぐははははッ、何を言われても俺はダメージを受けません! だってもう、俺には最高の住まいと金に困らない収入が入ってくるのだから!」


「お……お前、大人だろ。もう18歳だろ……そんなクズ発言を」


「うるせえ。いいんだよこれで。俺は国からお願いされてこうしてやってるんだ! ぐがはははっはははは」


「うわぁクズだわ。マジで」


「でもぉ、そんなクズにお弁当を作ってきてくれたJKさんは誰かなぁ???」


「……い、家出る前に、インフさんに言われたのよ。最初の印象が大事よって。男子は胃袋つかめって。はあ……マジでめんどい」

 顔をそらす彼女の頬が、ほんのり赤い。



「いや、でも」

 そこで俺はちょっと真面目モード。

「弁当ありがとう。マジでうまかったよ」

「……は? 別に嬉しくないし。バカじゃないの」

 そう言いながら、アカネはちょっとだけ笑った。

 その笑みは一瞬だったけど、やけにかわいかった。


 こうして、俺と如月アカネの政府公認の同居生活が始まった。

 ギフトはなくても、こんな人生なら全然悪くない。

 むしろ……ギフトなくてよかったくない? という意見も俺の中にある。


 そして、俺はちらっと如月を見る。いや厳密には、如月の豊満なおっぱいである。ボインとおっきい。 一緒に生活するのか……。

 むふふな想像が脳内をかけめぐる。

 

 えーと、楽しみすぎるんだが???

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