森谷亮1
学校で殺人事件が起きた。
発見したのは俺のクラスの同級生で、それを確認しに行ったのは現社の先生。
こんな面白いシチュエーションはないだろう。
学校も早く帰れて、次の日からしばらく休校になるという。
『なぁ、遊びに行かん?』
『はぁ? こんな時にか?』
中学から仲のいい田村にメッセージを送ると、何故か乗り気ではない。
『暇じゃん? どうせ休みなんだしさ、カラオケでも行くべ』
『あのな、人が死んでるんだぞ? さすがにさ、遊ぶのはよくないだろ。それに、学校から「極力外出はするな」って言われてんじゃん』
休校の間は、事が事だけに何が起こるか分からないため外出を控えるようにと言われてるけど、そんなの律儀に守る必要を感じない。
確かに秋山まりってやつは殺されたんだろうけど、俺は男だし、小柄な女子みたいにただやられたりするはずがない。
そもそも、今ならあちこちにマスコミや警察がウロウロしてるんだから、危険なことなんか起きるはずもない。
『お前、真面目か?』
『お前が不謹慎すぎんだよ』
『草』
『大人しくしてようぜ』
全くつまんねぇ。
「あー、つまんねぇな!」
テレビをつけると聞き飽きた報道ばかりが流れている。
秋山まりは一躍スターにでもなったようにあちこちで名前を上げられているし、うちの学校も超有名になった。
たまにマスコミに捕まったんだろうやつらが顔にモザイクをかけられてインタビューに答えてるけど、その中に絶対にあいつだと分かるやつらもいたりする。
「俺もインタビューされてぇよな」
されたところで秋山まりってやつのことなんて何も知らないが、カメラの回る中でマイクを向けられる経験なんて一生に一度あるかも分かんないんだから、一度くらい経験してみたいもんだ。
「
部屋の外から母ちゃんの声がした。
「えー、俺忙しいんだけど」
母ちゃんの手伝いは面倒くさいことが多いためそう言ってみたけど、「いいから手伝って!」と押し切られた。
「はい、これお願いします」
目の前には大量の絹さや。
「筋取り手伝ってよ」
「また遠藤のじいちゃんからもらったん?」
「ハウスで育ててるからってね、くれたのよ」
近所に住んでる遠藤のじいちゃんは、元々は手広く農家をやっていたらしいけど、最近はそれをやめて、趣味だと言いながらビニールハウスで野菜を育てている。
色んな野菜を作っては近所に配っていて、俺んちにもそれがよく届いている。
「どうやってやんの?」
「ほら、ここをこうしてね、ピーッてやると筋が取れるのよ」
母ちゃんのやるのを見て、同じように筋を取っていく。
「……あんな事件があったでしょう?」
「ん? あぁ、まぁね」
「受験、大丈夫そう?」
「何で?」
言われてる意味が分からない。
俺とあの事件とは何の関係もないわけで、別にそれで受験できなくなるわけでもない。
「ショックじゃない?」
「分からんけど、何が?」
「……あんたは大丈夫そうね」
母ちゃんが苦笑していた。
何が大丈夫そうなんだろうか? あれ? ひょっとして、今俺、馬鹿にされた?
「繊細じゃなくて悪かったですね」
「そういうことじゃないんだけどね」
二人で黙々と絹さやの筋取りをし、残りも半分以下になってきたところで母ちゃんが口を開いた。
「母さんね、あの子知ってたのよ」
「ん? 誰?」
「秋山まり」
「は? 何で?」
「あの子ね、アインツによく来てたのよね、買い物に」
アインツは母ちゃんがパートで働いてるスーパーだ。
週四日、母ちゃんはアインツで朝から夕方まで働いているため、俺はそこには近寄らないようにしている。
親が働いてるところに買い物に行くのは恥ずかしいし、母ちゃん以外にも俺を知ってるおばちゃん達がいっぱいいるから、行けば必ずあれこれ声をかけられるから嫌だった。
「いつもお野菜とか買ってて、制服が中崎西のだったから『何年生?』って声かけたのよね」
「へぇ……」
正直どうでもよかったけど、母ちゃんは話したいみたいだから何も言わずに聞いていた。
「お使いなの? って聞いたら、一人暮らしだって言うから、簡単に作れる料理のレシピなんかも教えてあげてたのよ。あの子、他のパートさんにもあれこれ声かけられててね。ほら、可愛い子だったでしょ」
「いや、顔知らねぇし」
「そっか……可愛い顔してた子だったのよ、この辺じゃちょっといない感じでね。たまにお母さんも来ててね、仲良さそうで、うちにも娘がいたらあんな感じだったかなーなんて思って見てたんだ」
「男で悪かったですね」
「そういうんじゃないんだって」
うちは男兄弟三人で、母ちゃんが娘を欲しがっていたのはよく聞いていた。
「男の子もいいんだけど、一人くらい女の子が欲しかった。あんた、何で付けて出てきたのよ」
末っ子の俺にそんなことを平気で言う。
本気で言ってるんじゃないのは分かるってるから俺も言い返す。
「産み分けってのがあるんだろ? 母ちゃんが下手だっただけじゃんよ」
そんなことを言い合えるのだから、うちはまぁ仲がいい方なんだと思う。
「一人娘だったらしいのよね……あの子のお母さん、大丈夫かしらね……」
そんな話をしている間に絹さやは全て筋取りが終わっていた。
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