長野由貴2
田舎で起きた事件は瞬く間にそこら中に広がり、まりと仲が良かった私の元へそれまではほとんど連絡さえしてこなかった中学の時の同級生や、高一の時に連絡先を交換した子達から探るような連絡が来始めた。
『由貴、久しぶり! 元気にしてる?』
『あのさ、ちょっと聞いちゃったんだよね、事件のこと。殺されちゃった子と仲良かったって本当?』
『あのニュースの被害者って由貴の友達ってマジ?』
『秋山まりってどんな子だったの? 友達だったんでしょ?』
みんな私から何を聞き出したいのか理解ができない。
『自分の友達が同じことになっても、そんなふうに聞けるの? そんなふうに聞かれても平気なの?』
そう尋ねたら大抵が黙ってしまうか『ごめんね』と言って連絡が途絶えた。
「好奇心は猫をも殺す」なんて言葉がある。
過剰な好奇心は身を滅ぼしかねない、そんな意味だったと思う。
「そんなことわざに猫を出してくるなんて悪趣味だよね」
動物が好きなまりはそう言っていた。
「豚に真珠だって失礼だと思うんだ。子豚が真珠のネックレス付けてたら間違いなく可愛いでしょ?」
「まあ確かに可愛いとは思う」
「でしょ?! 縁起物としてわざわざ猫に小判を持たせてるのに、ことわざでは無駄な物扱いしてるし」
「招き猫のこと? まあそうだね」
「そもそもことわざっておかしいの多いでしょ? 二階から目薬とかあるけど、どこの世界に二階からわざわざ目薬さしてもらう人いる?」
「普通はしないね」
「でしょ?」
まりは時々そんなことを言い出すことがあった。
そんなふうに思ったこともなかった私からしたらとても新鮮で、楽しかった。
「まり……」
未だに夢の中にいるようにまりが死んだという報道は私の中で噛み合わず、まりと交わしたメッセージをぼんやりと眺める。
その時、それまで未読状態だった私が送ったメッセージに既読が付いたことに気がついた。
「え?」
慌てて飛び起き既読の付いたメッセージをきちんと確認する。
「既読、付いた」
あの報道は誤報で、死んだのは別の誰かで、まりが生きているんだと思って泣きそうになった。
『まり! 生きてたんだね! 死ぬわけないもんね!』
既読が付いたことが嬉しくて、すかさずまりにメッセージを送った。
そのまま部屋を飛び出して、母親にまりへのメッセージに既読が付いたことを報告すると、母親はおかしな顔をした。
「何言ってるの? まりちゃんのスマホ、みつかってないのよ?」
「え? だって、ほら」
「それ、誰が見てるの? 誰が既読付けてるの?」
「そんなのまりしかいないじゃん!」
「まりちゃんは死んじゃったのよ?! スマホもみつかってないの! そのスマホを持ってるやつが犯人なんじゃないの?!」
「そ、そんな……」
手から力が抜け、スマホを床に落としてしまった。
まりへのメッセージにはしっかりと既読という小さな文字が刻まれている。
「スマホ貸しなさい!」
母親がすかさず私のスマホを取ると、まりへのメッセージを確認した。
「これ、いつ既読付いたの?」
「……さっき」
「警察に電話するわ」
母親は怖い顔をして、私のスマホを持ったまま警察に電話を始めた。
まりへ送った最後のメッセージにも既読が付いていて、さっきまで嬉しくなっていた心が一気に恐怖へと変わっていくのが分かった。
「誰が既読付けてるの?」
母親が電話で話している間も、得体の知れない恐怖が近づいてくるようで体が震えた。
家で飼っているミニチュアダックスの『ララ』が心配そうに足元から私を見上げていたので、ララを抱きしめてその温もりを感じながら生を実感したような気がした。
その後、うちに警察がきて、私のスマホが確認されることになった。
「あの……まりは本当に、死んじゃったんですか?」
うちにきた二人の警察官にそう尋ねると、二人共が頷いた。
「そっか……まり、死んじゃったんだ……」
それまでどうしても受け入れたくなかった現実。
それが私の中でしっかりと重なった瞬間だったと思う。
死んだのだという現実はあまりにも辛く、私は崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込むと、みっともないくらいに泣いた。
ララが私の膝の上に乗って、何度も顔を舐めてきたし、母親も私の肩をそっと抱いて頭や背中を撫でてくれた。
私のスマホは警察に持っていかれ、その日は母親と一緒に眠った。
うちは父親が単身赴任中で、我が家には母と私とララしかいない。
ララは番犬としては頼りないけど、二人と一匹で固まるように眠った。
警察はうちの周辺のパトロールを強化してくれるらしい。
まりへ送ったメッセージに既読が付いたことで、その既読を付けた相手が犯人だとした場合、私の身も危険かもしれないとのことで。
最初は嬉しかったあの既読の小さな文字は、次に恐怖に変わり、今は怒りに変わっている。
何のつもりで既読を付けたのかは分からない。
でも、何かの目的があって私と接触しようとしたんなら、その目的ごと犯人を暴いて、まりの仇を取ってやりたい。
眠る母親の寝息を聞きながらそんなことを考えていたら、ふと思い出した。
「あれ? まりのスマホって確か指紋認証されてたはず」
まりはスマホを開く時、背面にある指紋認証の丸い部分に指を添えていた。
「点をつなぐやつ、変なのにしすぎて忘れちゃうと思って。指紋ならすぐでしょ? 暗証番号は誕生日にしちゃうから何かあった時すぐ誰かに開けられそうだしね」
そんなことを言っていたのを思い出した。
「誰がどうやってスマホを開いたの?」
まりの指が切り取られていたなんて報道はなかったはずだ。
ぼんやりとしか聞いてなかったけど、必死に思い出した内容の中にはそんなこと一言もなかった。
「誰が……」
肝心のスマホは手元にない。
私は顔も分からない犯人への怒りだけを募らせていくことになる。
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