第12話:旅立ち

「どうやるんですか?」


千鶴とエレナに向かって、小声で簡単に説明する。二人は揃って目を見開き「それは…」『かなり無茶~?』と苦笑い。でも、今はこれが最善な気がするのだ。

相手は想像以上に硬く、賢い。弱点はあるが、そこへの攻撃もことごとく防ぐかかわす。


………あいつは、先ほどの千鶴たちの攻撃はかわ。四足歩行で上からの攻撃を防げないか、そもそもあの威力をヴォイドで受けきれないから。


つまり、千鶴たちの攻撃はあいつに「効く」ということ。


「ここまで来たら、あいつの度肝を抜くしかないだろ」

「……わかりました、やりましょう」

「頼むぜ、これは二人にかかってる」

「そういう結城さんこそ、外さないでくださいね」


お互いにプレッシャーをかけつつ、ボスヌルへ向き直る。自分の攻撃を返された驚きで、こちらを警戒しているようだ。まだ俺たちにビビってくれているなら、好都合。


「いくぞ!」

「『はいっ!!!』」


低い姿勢で、盾を水平に構える。

そこへ走りこんできた天使が、盾に足をかけるのと同時に発声。


「オリヴィア!」

『ん、千鶴とエレナ、いってらっしゃい!』


盾の力を使って、二人を一瞬で上空へ弾き飛ばす!先ほどまでの単純な跳躍とは違って速く、高くへ到達した。当然、こちらに気を引かれていたボスヌルは反応が遅れて、まだ地上だ。


それでもこちらの狙いに気づいたのだろう。追いすがる形で、空中にいる天使に向かって、一足に跳躍。弓を射らせないために肉薄する。


「『…ッ!!!』」


先ほどまでより、さらに強く引き絞った長弓から、千鶴たちの渾身の一矢が放たれる——



「『いけええええ!!!』」

「タイミング頼むぞ、オリヴィア!」

『ん!角度まかせた!』


天使が放った全力の矢を、地上にいる俺たちが、盾で受ける。


轟音。

矢は盾に刺さらず「防ぎ退ける」力によって、弾き返される。

下からは無防備にさらされた、ボスヌルのヴォイドへ向かって、急角度で曲がった光線が突き刺さった。


<蜉ゥ繧ア繝� ヲ窶ヲ雖後ム縲∫李繧、繝ィ窶ヲ繧ェ豈阪し繝ウ窶ヲ��…!!!>


ボスヌルから、音にならない断末魔が響き渡る。

胸のヴォイドが、刺さった矢を起点に崩れ始め——


黒い巨躯が砂のように崩れ去った。


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「本当に、良いんですか?」

「あぁ。……俺はもう、この世界の人たちのことを認識できない」

「う~ん、昨日まで普通にしてたのに、みんな忘れちゃうなんてナぁ」

「もともと、俺の側が異分子だったんだろ。この世界が無理やり、俺に合わせてたんだ」

「私たちは、きちんと家族とお別れして自分たちの世界を出てきたので。何と言っていいのか、分からないというか…」

「気を使わないでくれ。どうせ、自分がどこの誰かも、まだよくわかってないんだから。未練らしい未練もないよ」


戸惑いながら、気遣ってくれる千鶴とエレナに苦笑いを返す。自虐的かもしれないが、本当のことだ。ホームから、眼下に広がる街を眺める。


自分が慣れ親しんだはずの街。

家族が、友人がいたはずの街に、別れを告げる。


「それに……俺はもう、一人じゃない」


横に立つ黄緑髪の少女が、手を握ってくる。

目を合わせて、笑いあう。


「ん。いっしょに行こう、ソーマ」

「ああ」


握った手に確かな温もりを感じながら、俺は列車へと足を踏み入れた。

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