第5話 モアイ像……?
「白河さん、これは?」
「え? どれどれ~?」
荷ほどきを始めた僕たちだったが、荷造りの時に白河さんがダンボールに何が入っているのか書くのを忘れてしまっていたため、一つ一つ空けて中身を確認しながら部屋ごとに仕分けていく作業から必要だった。
いま僕が開けたダンボールの中には、奇抜な色の髪に露出が多いと言うか、ほぼ裸の美少女フィギュアが入っていた。
「ああっ! ミルクちゃん! こんなところにいたんだねぇ~」
ミルクちゃんって言うのか。
たしかに牛柄のビキニっぽいの着てるからかな?
少し興奮気味の白河さんが僕からミルクちゃんが入ったダンボールを受け取った。
「見てよ、麻宮君! ミルクちゃんのこの曲線美をっ! もう完璧すぎて惚れ惚れしちゃうよね~! あっ! ミルクちゃんってのは、魔法少女マスターキュリーズに登場するキャラクターでね、魔法少女で強いはずなのにいつも敵に捕まっちゃうドジっ子なんだけど、それがまた愛おしくてね~! それでこの格好なんだけど、アニメの第八話の水着回でのみ見れるレアな姿なんだけど、このフィギュアが発売されるってなったときは、私を含めミルクちゃん推しの人たちは、それはもう今までにないってくらいの歓喜の声を上げたもんだよ~~」
「へ、へぇ……」
恍惚な表情でミルクちゃんのフィギュアを持ちながら早口でまくし立ててきた白河さんに僕は圧倒されてしまった。
「えっと、麻宮君はこういうの興味ない?」
ミルクちゃんをもう一度ダンボールにしまい、冷静になった白河さんがそんなことを聞いてきた。
「えっ? そうですね、興味がないわけではないですが、そういうのに触れてこなかったので……」
「そうなんだ。ごめんね、びっくりしちゃったよね。でも自分の好きなものに対してはどうしても気持ちが前に出過ぎちゃうんだ」
白河さんは反省するように、背中を丸め、ミルクちゃんが入っているダンボールを寝室用の部屋へ運んでいく。
僕は白河さんのその背中に向かって言う。
「でも、嫌いってわけじゃないです。それに自分が好きなものに全力な人って素敵だと思います」
振り返った白河さんの表情は一瞬、驚いたように目を丸くしていたが、すぐに照れくさそうに笑った。
「え、えへへっ。ありがと、麻宮君」
「ど、どういたしまして……?」
僕はここでの生活であと何回、何十回とドキッとさせられてしまうのだろうか。
僕は邪な考えを振り払うようにかぶりを振り、次の段ボールを開けた。
「うわっ!?」
「どうしたのっ!?」
僕が驚いた声を上げると、白河さんは寝室から飛び出してきた。
「し、白河さん……。こ、これは……」
「え? なになに……? って、アハハハハハハッ!」
白河さんはお腹を押さえながら大笑いしだした
「し、白河さん……?」
「ごめんごめん。ははっ。えーっとね、これは――」
白河さんがダンボールから取り出し、
「わっ!」
「うわあっ!?」
「アハハハハッ! 麻宮君ってば、驚きすぎだよ~」
「い、いや、だってダンボール空けたらそんなのが入ってるとは思ってなくて……」
「まぁね~。でもモアイ像みたいで可愛いでしょ?」
「モアイ像……?」
白河さんが可愛いと言うそれは、人の形をした全体的にグレー色の頭部。
白河さんの言う通りたしかに見た目は完全にモアイ像だ。
なぜか妙に耳だけがリアルなのはどうしてだろう?
「白河さん。これって何なんですか?」
「これはね――」
白河さんはモアイ像の頭部の置物みたいなものを大事そうに持ち上げ、優しくモアイ像の頭を撫でる。
「私の大事な仕事道具、かな?」
優しく微笑み、モアイ像の頭を撫でる白河さんの表情は、まるで自分の子供をあやす親のように見えた。
その表情だけでこれが白河さんにとってすごく大切なものだと言うことがわかる。
だからこそ、聞いてみたくなった。
「ちなみにこれをどう使うんですか?」
「ん? 気になる?」
「え? ええ、まあ……」
すると、白河さんはいたずらっぽく笑い、スッと近づいてきて僕の耳元で囁く。
「こうやって、使うんだよ?」
「――ッ!?」
普通のことを言っているはずなのに、白河さんの声のトーンは下がっていて、さらに吐息が多めですごく湿度が高い。
顔が熱い。
「ちなみに。これ、百万以上するから」
「えっ……!?」
その一言により一瞬にして熱が冷めた。
「あはは。驚いた拍子に落とさなくてよかったね」
そう言って、どこか満足げに仕事部屋の方へ運んでいく白河さん。
結局あれの使い方は全くわからなかった。
あのモアイ像を使って一体どんな仕事をするのだろうか?
「……えっ!?」
無意識に次のダンボールを開けて見たら、さらにもう一体のモアイ像が入っていた。
本当にどんな仕事してるんですかっ!?
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