エピソード25
*
しばらく移動したのち、車は柴田先生の自宅前に停車した。
「着いたぞ」
どうやら俺は、その間ずっと寝ていたらしい。
後部座席のドアが開き、虎時が手を差し伸べてくる。
「お姫様かよ」
苦笑しながら、その手を振り払って車を降りた。
柴田先生の家は、古い木製の門と生垣に囲まれた、昔ながらの造りだった。
住宅街からは少し離れているらしく、周囲に民家の姿はない。
木製の表札には、達筆な文字で「柴田」と記されている。
チャイムのようなものは見当たらない。
俺は仕方なく、門の前でできる限りの大声を張り上げた。
「柴田先生ー! いらっしゃいますかー!」
門の奥、やや引っ込んだ玄関が視界に入るが、人の気配は感じられない。
もう一度、声を張る。
「……おかしいな……」
背後から、虎時が無言で門を押し開けた。
「おい、待てって」
慌てて制止しようとするが、虎時は気にも留めず中へ入っていく。
「これ、不法侵入になんじゃねえのか……?」
「お前が頼まれて来たんだろ? だったら大丈夫だよ」
と、当然のように言う。
「そんなもんかね……?」
釈然としないまま、俺も虎時の後を追った。
玄関の戸に手を掛けてみたが、施錠されている。
「……やっぱ留守か」
そう呟いたのも束の間、虎時は家の横手へ回り込む。
仕方なく俺もついていくと、そこには――
縁側に腰を下ろし、庭をぼんやり眺める柴田先生の姿があった。
「柴田先生?」
声をかけると、先生はゆっくりとこちらに顔を向けた。
「ああ、すまんね。気づかなんだわ。ははは」
柔らかな笑みを浮かべ、先生は俺たちを迎えてくれた。
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