エピソード25

しばらく移動したのち、車は柴田先生の自宅前に停車した。


「着いたぞ」


どうやら俺は、その間ずっと寝ていたらしい。

後部座席のドアが開き、虎時が手を差し伸べてくる。


「お姫様かよ」


苦笑しながら、その手を振り払って車を降りた。


柴田先生の家は、古い木製の門と生垣に囲まれた、昔ながらの造りだった。

住宅街からは少し離れているらしく、周囲に民家の姿はない。

木製の表札には、達筆な文字で「柴田」と記されている。


チャイムのようなものは見当たらない。

俺は仕方なく、門の前でできる限りの大声を張り上げた。


「柴田先生ー! いらっしゃいますかー!」


門の奥、やや引っ込んだ玄関が視界に入るが、人の気配は感じられない。

もう一度、声を張る。


「……おかしいな……」


背後から、虎時が無言で門を押し開けた。


「おい、待てって」


慌てて制止しようとするが、虎時は気にも留めず中へ入っていく。


「これ、不法侵入になんじゃねえのか……?」

「お前が頼まれて来たんだろ? だったら大丈夫だよ」


と、当然のように言う。


「そんなもんかね……?」


釈然としないまま、俺も虎時の後を追った。


玄関の戸に手を掛けてみたが、施錠されている。


「……やっぱ留守か」


そう呟いたのも束の間、虎時は家の横手へ回り込む。

仕方なく俺もついていくと、そこには――


縁側に腰を下ろし、庭をぼんやり眺める柴田先生の姿があった。


「柴田先生?」


声をかけると、先生はゆっくりとこちらに顔を向けた。


「ああ、すまんね。気づかなんだわ。ははは」


柔らかな笑みを浮かべ、先生は俺たちを迎えてくれた。

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