花の魔法は役立たずと言われましたが、王家直属の騎士に「白薔薇」と呼ばれ見出されました
茉莉佳
第1話 舞踏会に咲いた小さな花
「もう……嫌だな」
リサ・エルディアは深紅のドレスの裾をそっと握り、王都エルヴィナの舞踏会場の片隅に立っていた。
眩しいシャンデリアの光、貴族たちの優雅な笑い声。すべてが華やかで完璧に見えるのに、自分には遠い世界に感じる。
「エルディア令嬢の花魔法、聞いた? 」
「戦には役立たないらしいわ」
「せめて癒しの魔法くらい使えればいいのにね」
耳元で交わされる囁きに、リサは俯いた。
花と魔法が好きで、子どもの頃から夢中で研究してきた。けれどそれは「戦に使えない無用な力」だと周囲に笑われ続けてきた。
(……私、ここにいていいのかな)
心が苦しくなり、テラスに向かおうと歩みを進めたときだった。
視界の隅に黒衣の騎士が現れた。
王家直属の警備隊の紋章を胸に刻んだ、威圧感すら漂う男。
彼はリサと目が合うと足を止め、真っ直ぐに視線を注いだ。赤い瞳が冷たく光る。
「君がリサ・エルディアか」
低く澄んだ声。思わず背筋が伸びる。
「……はい」
「君の魔法は、人を傷つけない。俺は――嫌いじゃない」
一瞬、空気が止まった。
その言葉にリサの胸が震える。心臓が早鐘を打ち、指先まで熱くなる。
(この人は、何者……?)
男は無言で去った。残されたリサは、胸の奥で小さな火種が灯るのを感じていた。
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