第6話 二人でチケットを使う?
みくは一週間悩んだ。
しゅんたは相変わらず一人で頑張っている。でも、プリン同盟(みくが勝手に命名)のおかげか、最近は給食を全部食べるようになった。
「今日の給食は何かな〜」
朝の会で、ゆうたが給食メニューを見ている。
「やった!唐揚げだ!」
「私はデザートのゼリーが楽しみ!」
みんなが盛り上がる中、みくはカバンの中のチケットのことで頭がいっぱいだった。
(どうしよう……やっぱり使った方が……)
「みく?地球から高野みくさーん?」
あやかが目の前で手を振っている。
「は、はい!現在地、教室です!」
「何それ〜」
クラスのみんなが笑った。
---
お昼休み、みくとしゅんたは図書室にいた。二人のお気に入りの場所。料理の本がたくさんあるから、しゅんたはよくレシピを見ている。
「この『簡単!10分クッキング』って本、すごくいいよ」
しゅんたが嬉しそうに本を見せる。
「へぇ〜。しゅんたくん、将来コックさんになるの?」
「うーん、それもいいかも」
二人で本を見ていると、窓から差し込む光が眩しくて——
「あ、そうだ」
みくは意を決した。
「しゅんたくん、ちょっと見せたいものがあるんだ」
「何?」
みくはあたりを見回してから、カバンからチケットを取り出した。
「これ……紙?」
「神令チケットっていうんだって。願いを書けば叶うの」
しゅんたの目が点になった。
「嘘でしょ?そんなの……マンガの読みすぎじゃない?」
「ほんとだよ!これ見て!」
みくがチケットを掲げると——
ピカッ!
急に強い光を放った。
「わっ!」
しゅんたが驚いて本を落とす。『簡単!10分クッキング』が派手な音を立てた。
「しーっ!」
二人で慌てて口を押さえる。
「す、すごい……本物なの?」
チケットは脈打つように光っては消え、光っては消えを繰り返している。まるでクリスマスツリーのイルミネーションみたい。
「うん。黒い猫のクロノって子からもらったんだ」
「黒猫?魔女の使い魔みたい」
「あ、それ言ったらクロノ怒るよ。『僕は使い魔じゃない!』って」
みくがクロノの真似をすると、しゅんたが小さく笑った。
みくは、あやかのこと、筆箱が消えたこと、全部話した。しゅんたは真剣な顔で聞いている。
「それで、みくはどうしたいの?」
「私は……しゅんたくんを助けたい」
しゅんたの顔が曇った。
「……やっぱり知ってたんだ」
「ごめん。この前、ついて行っちゃって……」
「ストーカーみく」
「ち、違う!心配みく!」
二人で小さく笑い合った。でも、すぐにしゅんたの表情が真剣になる。
「でも、いいよ」
「え?」
「チケット、使わなくていい」
みくは身を乗り出した。
「でも、お母さんを元気にできるかも!このチケットを使えば!」
しゅんたは窓の外を見た。校庭では、低学年の子たちが楽しそうに遊んでいる。
「……でも、それで治っても、うれしくない」
「どうして?」
みくには理解できなかった。
「だって、ズルじゃん」
しゅんたは静かに言った。
「お母さんは今、病院で一生懸命治療してる。お医者さんも看護師さんも頑張ってくれてる。僕も、毎日お味噌汁作って待ってる」
「しゅんたくん……」
「昨日なんて、初めて肉じゃが成功したんだ。お母さんが退院したら、最初に食べてもらうんだ」
しゅんたの目がキラキラしている。
「それを、魔法みたいなもので治しちゃったら……僕の肉じゃがの立場は?」
「肉じゃがの立場……」
みくは想像した。一生懸命作られた肉じゃがが、隅っこで泣いている姿を。
(確かにかわいそう)
「ごめん、みく。せっかく心配してくれたのに」
「ううん!謝らないで!」
みくは首を振った。
「しゅんたくんの肉じゃが愛、すごく伝わった!」
「肉じゃが愛って……」
二人でまた笑った。
でも、みくの手の中で、チケットはまだ光っている。まるで「使って使って」と言っているみたい。
---
その時、図書室の入り口で物音がした。
「誰かいるの?」
れいかだった。学級委員の仕事で本の整理をしに来たらしい。
みくは慌ててチケットをカバンにしまった。でも、光が漏れている。
「あ、れいかちゃん!」
「みくさん、しゅんたくん。勉強?」
れいかが近づいてくる。その目が、みくの光るカバンをちらりと見た。
「あ、これは……ほら、新しいキラキラペンを買ったから!」
みくが苦しい言い訳をする。
「キラキラペン?」
「そう!すごく光るの!LEDペン!」
「……そう」
れいかの眼鏡がキラリと光った。まるで「嘘でしょ」と言っているみたい。
「そろそろ掃除の時間よ。戻りましょう」
「う、うん!」
三人で図書室を出る。廊下を歩きながら、れいかが言った。
「みくさん」
「は、はい!」
「最近、顔色悪いわよ。ちゃんと寝てる?」
「ね、寝てる!8時間睡眠!」
実際は、チケットのことで3時間しか寝てない。
「そう。でも、何か悩みがあるなら相談して。私、学級委員だから」
れいかの言葉は優しいけど、なんだか探るような感じもした。
しゅんたが助け舟を出す。
「みくは最近、プリン同盟の活動で忙しいんだよね?」
「そ、そう!プリン同盟!」
「プリン同盟?」
れいかが首をかしげる。
「プリンを広める活動です!」
みくが適当なことを言うと、れいかはため息をついた。
「……まぁ、いいわ」
---
教室に戻ると、掃除の時間が始まっていた。
「みく〜、一緒に窓拭きしよう!」
あやかが手を振っている。
「うん!」
窓を拭きながら、みくはさっきのことを考えていた。
(しゅんたくん、強いな……)
でも同時に、不安もある。
(本当に大丈夫かな)
(もし、お母さんの具合が悪くなったら?)
(その時は……)
「みく、手が止まってるよ?」
「あ、ごめん!」
窓に映る自分の顔を見て、みくは思った。
(私、すごく悩んでる顔してる)
その時、窓の外を黒い影が横切った。
(クロノ?)
でも、よく見ると、ただのカラスだった。
「なんだ、カラスか……」
「え?」
「ううん、なんでもない!」
みくは窓拭きに集中することにした。
でも、カバンの中でチケットがまだ光っているのが気になって、なかなか集中できなかった。
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大切な人のためでも、ズルは嫌?
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