第七話 夏祭りの夜
「沖縄のお祭りはどんな感じ?」
白地に赤い花火柄の浴衣姿の
「うん、やっぱり、エイサー祭りかな。毎年旧盆明けの最初の週末の三日間に行われるお祭りで、今年は9月12日の金曜日から日曜日の14日までかな。元々、お盆に来たご先祖様を迎えたり、返りたがらないご先祖様を送り出すお祭りで。沖縄中から集まった青年会の人達が三味線と太鼓を演奏しながら、唄いながら踊って町を練り歩く。
怜は美里に借りた青地に黄色い
何となく怜らしい浴衣のチョイスである。
「なるほど、楽しそうね。怜ちゃんの地元はどんな祭りなの?」
沈着冷静な薫らしい。
「私の地元は那覇市の
地元の祭りの話をしている怜は楽しい記憶を思い出しているのか、だんだん、元気になって生き生きとしてきた。
それを見た
涼介の浴衣は紺色の生地に白い丸や十字が手描き風に描かれた柄である。
地味でぼんやりとした模様が残念イケメンの涼介らしいとも言えた。
「一回百円の金魚すくいだよ。左目がないので安くしとくよ。もし、すくえなくても、三匹サービスしとくよ。」
売り子は案の定、坂本くんである。
ヨーヨー風船釣りの屋台のおじさんのお店の片隅を間借りし、丸い小さな青いナイロン製のプールに、赤、黄、黒色の様々な模様の金魚が泳いでいる。
坂本君の浴衣は黒一色で金色の派手な帯をしている。
帯に白い扇子を挿している。
「その赤い鬼はいくら?」
四歳ぐらいの小さな赤い浴衣の女の子が尋ねた。
赤い小鬼のようなキムジナーがプールの傍に三匹いるが、見える人には見えるらしい。
「この赤い鬼は売り物じゃない。遊び友達にはなれるけどね」
「そうなの? 一緒に遊びたい!」
女の子は目を輝かせた。
「ちょっと待ってね。いでよ、
坂本君が白い扇子を広げて一振りすると、おかっぱ頭の雛人形のような式神が現れた。
「ご主人様、何の御用でしょうか?」
「この女の子を守護して、キジムナーと遊んでやってくれ」
「
雛御前は女の子の手を引いて、一匹の赤キムジナーを連れてお面などを売っている
雛御前はあの陰陽師の安倍晴明も使役していて、成長すると強力な式神になる。
坂本君の式神使いの能力はかなり高いようだ。
†
「坂本君は『式神使い』かあ。どうりでキジムナーとかとも仲良くなれる訳だ。ということは、ご両親は陰陽師とかの系統?」
薫が珍しく男子に興味を持っている。
どうせ、『鏡の民』系の呪術能力を極める一助にならないかと思ってる可能性が高いが、二人並んで歩いてる姿は仲の良い恋人のようにも見える。
そのすぐ後ろを涼介、怜、美里の三人が並んで歩いている。
牛焼肉の串、リンゴ飴、イカ焼きなどそれぞれが好きな物を食べながら歩く。
薫と坂本君はかき氷を食べている。
「うん、オヤジが剣系で母方が鏡系なんだ。母親が京都の陰陽師の家系で、オヤジは四国の高知のガチガチの剣の家系だよ。頑固オヤジだし、ちょっと苦手なんだよ」
何となく想像がつく。
同性の親は苦手なものだ。
「そういえば、怜ちゃんはお姉さんとか、兄弟とかいないの?」
美里が興味深そうに怜の顔を覗き込んでる。
天上天下唯我独尊の自分にしか興味のない美里にしては珍しい。
「姉が二人います。もう女系家族というか、沖縄は全般的にそうですが、母方が強すぎて、父親は全国を
「なるほど。母方は巫女の家系で、父親はヤクザ系だったりして? 流石にそれはないか」
流石にそれはないだろ。
「父親は文化人類学者というか、沖縄にユタとかノロの研究に来ていて母に知り合ったという、良くあるパターンです。母は
「そうかあ。巫女の家系か。ということは、坂本君と同じで式神とかも使えるの?」
神社の家系は秦氏などの陰陽師が多く、安倍晴明、その師匠の賀茂氏系の人々は必然的に式神を使役できる事が多い。
「式神というより……、龍使いです」
怜はためらいつつ、小さな声で言った。
白い麦わら帽子から、ヨクちゃんというか小さな翼竜が顔を出してキョロキョロした。
「そっか、そっか。それで」
美里は自分の
「那覇市の
「だけど、本当に龍が実在するとは思わなかったわ」
美里は珍しく感心している。
「キジムナー同様に、龍は高次元存在でもあるので、
「なるほど。そこは巫女でもある怜ちゃんが龍をサポートする修業中ということなんだろうね」
「美里さん、よく分りますね!」
怜は次に言おうとした事を当てられて目を丸くした。
「私も同じような事があったのよ。ある『聖刀』を渡されたけど、使えこなせていないし。素手とかで殴ってばかりだし」
美里は少し自信無げな表情をした。
その『聖刀』については聞いたことはあるけど、涼介も自身の能力の開花には程遠い状態なので気持ちは解る。
特に勾玉系の能力者は支援呪術とか未来視とか、成長や成果が実感しにくいものだが、開花すればチーム全体の能力の絶大な底上げに繋がる。
みんなの話を聞いてみたら、それぞれ色んな悩みがあるようだが、自分自身の問題が一番、深刻かもしれないとひとり落ち込む涼介であった。
とはいえ、みんなと過ごす祭りは気晴らしにもなってとても楽しかった。
そんな事を考えて思い悩んでいた涼介の視線の先に、青い星のように不思議な光を放つ瞳の少女が見えた。
幽霊なのか精霊なのか判別しにくい、幻のような映像が数秒間、涼介の目に映った。
それも祭りで行きかう人々で隠れてしまって、次の瞬間にふっと消えてしまった。
メガネ先生が言っていた青い目をした不思議な女の子かもしれないと思った。
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