第六話 全学年キジムナー対策会議
「ということで、午後からは紛糾していた『全学年キジムナー対策会議』の続きをやりますよ」
四時間目になり、ほぼ喪服の黒いスーツの上下のベアトリス先生が宣言した。
相変わらず、金髪碧眼の二十代ぐらいに見えるベアトリス先生であるが、伝統的な黒い電子黒板に『黒いキジムナー』とタッチペン的な白い電子チョークで板書し、某男子生徒Sがキムジナ―に
電子黒板の左右には中等部の一学年の問題児集団の『星組』一、二、三班、『剣組』のみの一から五班、『鏡組』のみの一から三班の各班28名の11教室が映し出されていた。
リモート会議のようになってるが、すでに各班の教室のメンバーの構成も微妙に変っている。
これは
生徒に配布されてるノートパッドPCに目の所に黒いモザイクかかった美里たちの動画があり、
その映像を見て、一学年の生徒が騒ぎ出していた。
校内を秘かに巡回してると言われている不可視の光学迷彩ドローンなどの映像が量子コンピューター実装してる
なるほど、午前中の二時間目はクラスメンバー替え、三時間目は美里たちの黒いキジムナーとの遭遇戦の情報からキムジナ―対策会議が紛糾したと推測できる。
「色々と不適切な映像がありますが、今回は非常時という事で大目にみて、某女生徒Kさんに今回の黒キムジナ―について解説してもらいます」
ノートパッドPCの画面に、目の所に黒いモザイクかかった美里が大写しになった。
途端に全教室の生徒が爆笑する。
ノートパッドPCの内臓カメラで映像を送れるようになっている。
プライバシー保護かもしれないが、もう誰かはバレバレなんでモザイク外して欲しいとも思った。
犯罪者みたいで恥ずかしいわ。
美里は白鷺データサイエンス大学付属小学四年生の時に、とある事件を引き起こして、全学年で有名人になっていた。
2019年末から中国の最先端IT都市深圳発のT4ブルーファージウィルスによる感染症が全世界に蔓延し、パンデミックが発生した。
小学四年生の黒鉄美里は2020年9月に提出した夏休みの自由研究で『マスクを外す幾つもの理由』という小論文を提出し、「マスクは感染予防にはならない」のみならず、免疫力を低下させるなどの健康被害事例が幾つも書かれたりしていた。
この小論文は東京都全域の小中高大学校で話題になり、大規模な『マスクを外そう運動』に発展して、厚生労働省に東京都のほぼ全員の生徒がマスクを外す嘆願書を提出する事件に発展していった。
美里としてはマスクがむれて、皮膚のブツブツが気になるという個人的に動機によるものだった。
「……だから、黒いキムジナ―は実体化するので物理攻撃もいけると思う。赤いキムジナ―は精霊なので、まだ分からないけど、S君の話では金魚などをくれたりしたので、半分は実体化できるのではないかと推測します」
美里は手短に事の経緯を説明して、一番大事な黒キムジナ―との遭遇戦などの情報を全生徒に共有した。
他の生徒からも赤キムジナ―と出会ったなどの事例が幾らか報告されたが、最低『勾玉』『剣』『鏡』などの異なった能力者三人一組体制での行動が推奨されていて、これといったキムジナ―による被害は無かったようだ。
美里の報告により何とか『全学年キジムナー対策会議』は話がまとまり、大体の方針は固まったようだ。
「ということで、『全学年キジムナー対策会議』はこれにて終了します。何か質問などあればノートパッドPCのボタンを押して下さい」
ベアトリス先生が話を締めようとしたが、生徒ではなく、剣組五班クラスの担任のメガネ先生から質問が来た。
メガネ先生はまだ二十代の若い先生であるが、本名は服部信三郎といい、一応、先祖は服部半蔵で忍者の血を引いてるらしいが定かではない。
「あの、ボトムストライカーで校内パトロール中に、うちの女生徒で青い目をした不思議な女の子を見かけました。突然、ふっと消えてしまって、ちょっと気になってるんですよね」
ボトムストライカーとは全高7メートルほどの人型機動兵器であるが、青い目をした不思議な女の子というのがちょっと気になった。
桜色の瞳の怜もそうだが、青い目というのがとても気になる。
桜色に比べれば、青は外国人、白人なら存在する目の色なのだが、純日本人が多いこの学園ではあまり見かけないものである。
後で外国籍の生徒をノートパッドPCで検索してみよう。
「なるほど、貴重な情報ありがとうございます。そちらの女の子については私の方でまた捜索しておきます。何らかの侵入者の可能性もあるので、生徒各自はキムジナ―同様に警戒して下さい。あと、実は副担任の
と、ベアトリス先生はようやくこの会議の終了を告げた。
副担任の
キムジナ―の出現自体が異変ではあるのだが、沖縄からの転校生である橘怜が関係しているのは誰の目にも明らかだった。
そこには生徒たちは敢えて触れないようにしているが、キムジナ―や沖縄の聖地である
「怜ちゃん、気にしないでね」
薫が怜を気遣って言葉をかけた。
「大丈夫、慣れてるから」
桜色の瞳の少女は健気に気丈に振舞っていた。
だが、特別であることが日常である怜はやはり何となく寂しそうだった。
何とかしてやりたいと涼介は強く思った。
「――そうだ。今日は夏祭りがあるから、怜ちゃんも一緒に行かないか? みんなで
涼介は怜を夏祭りに誘った。
美里も助け舟を出す。
「浴衣は私が貨すよ。だから、一緒に行こう、怜ちゃん」
「俺も夏祭りで金魚を売り捌かないといけないし」
坂本君が冗談とも本気とも取れない微妙な発言をしてみんなを笑わせた。
「うん、行こう。みんな、ありがとう」
怜は本当に楽しそうな笑顔になって桜色の瞳を細めた。
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