第4話/ニート・広美「今日の予定」


広美は、今日も両親の朝食に間に合わなかった。

寝過ごした。


彼女がリビングに現れたときには、両親はすでに仕事に出かけていて、部屋には静けさと空のマグカップだけが残されていた。


テレビをつけて、とりあえずパンを焼く。

画面にはニュースが流れている。物価高だとか円安だとか、未来が不安になるような単語が並んでいるが、広美にとってはどうでもよかった。


それよりも重要なのは──ドラクエである。


自キャラの職業が「盗賊」なせいで、昨夜もボス戦に勝てなかったのだ。

魔法使いとか戦士とか、あと武道家だったら余裕で倒せるボスなのに。

盗賊では中途半端すぎて、攻めてもイマイチ、回復もできず、何度も全滅。

オンラインでパーティ募集をかけても、「あ、盗賊ですか……間に合ってます」とお断りされる日々。


トーストをかじりながら、スマホで攻略サイトを開く。

「やっぱ、レベル上げしないとなぁ……」と小さくつぶやく。


予定は、ない。

家を出る理由も、特にない。

つまり──今日はまるまる、ゲームができる。


これを無駄と言うか、無限の可能性と言うかは、人それぞれだ。


パンを食べ終え、のんびり伸びをしたあと、広美は再び自室に籠もった。

世界の平和は、彼女のレベルアップにかかっている。

現実は……まあ、そのうち考える。

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