09. 押収されたタンス預金
俺は壁に張り付いたり、きょろきょろしながら家の近所を一周していた。
住所を明かしてしまったせいで、俺の家は既に占拠されているものと覚悟していたが、周辺には騎士1人いなかった。
ほっとしたのも束の間。荒らされた形跡はなかったが、タンスの中の金貨を確認したところ全て押収されていたのだった。
「うあああーっ! やられたーっ……!」
俺は頭を抱えた。転生前に失ったタンス預金を思い出す。
理由は違えど、同じこと繰り返すってどうなんだ!?
「デジャビュ……ってやつだね」
「俺の……数ヶ月が……っ」
ショックのあまり、へたり込む。
「……仕方ない、俺のミスだからな」
安易に口を滑らせた自分が悪い。頭を切り替えよう。そうして切り替えて考えたことは、もっと頭を悩ませる内容だった。
「………っ…っ…」
さっきの馬車の出来事、あれは何だったんだ!? あいつはどうかしている! 頭が理解したくないって言ってるぞ!
翡翠がいる手前、俺はその話題に触れることが出来ずに沈黙していると、察した翡翠がそれについて言及する。
「……
いつになく冷ややかな口調の翡翠にぎょっとする。
「多様な愛の形の1つとして認めようと思う、君に面と向かって挑んだ雄は彼が初めてだけどね」
何か人間を勘違いしてしまっているんじゃないか? 俺は男に迫られたことなんか一度も無い。
「違うぞ、翡翠、この国がちょっとおかしいだけで、あれを普通みたいに思っちゃ駄目だ、とにかくお前も気をつけろよ?」
「……僕は大丈夫だよ」
翡翠は遠くを見てため息をついている。
「もっとイメトレして、色んな魔法を展開出来るようにしなきゃな……」
さっきは頭が真っ白になって、何も出来なかったけど、問答無用で何か放てなきゃ意味がない。魔法って、ちゃんと集中しないと使えないものなんだな。
常に最悪を想定していたつもりだったけど、俺の中にある想定を遥かに超えていたせいでパニックを起こしたからな。
しっかりしなければ、この世界で翡翠を守りながら生きて行かなきゃいけないんだから。
「明日の朝にはここを出るぞ」
陽当たりが良くて、この部屋もやっと整えたところで気に入ってたんだけど仕方ない。
黙りこくったままの翡翠に、不安にさせたかと振り返る。
「翡翠?」
「……あのね、ホント、前から思ってたけど、律は男を
「男は雄だろ……、何言ってんだ」
「あー、僕は兄貴みたいに思ってるから、そんなことないけどさ……」
「おまっ、そこは親だろ、子猫から育ててるんだからなっ」
「今の僕、律と同い年くらいだよ」
翡翠は、猫として傍にいる時から、職場の先輩から異様な執着を受けていた律を見てきた。
自分との出会いが、それもあっての縁だということはわかっている。だから、全てを否定することは出来ないけど。本当は、あの火事の原因だって、もしかしたら……。
「翡翠……?」
「とにかく、律は
「翡翠くんは、今夜のご飯はいらない、っと」
「本当のこと言ってるだけだよ!」
「この話はやめだ!」
自分を見つめる熱を孕んだ危険な青い瞳を思い出すと、俺は思わずぶんぶんと首を振って、何もかも忘れようとバスルームに向かった。
魔法の力で冷水が温かいシャワーとなって全身に降り注いでくる。
「……明らかに男の身体だぞ、やわらかくもないし、筋肉もついてる」
あいつだけじゃない、この国の連中は何だかおかしい。もしかして、俺が女に見えているんじゃないのか??
魔法が存在する世界だ、うっかり何処かで呪いがかけられた可能性もある。
本当に、とんでもない世界に来てしまったようだ。
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