07. 馬車を救ったら
「ユージ殿下、敵側に魔法使いがいます!」
「魔法使いがそんなにごろごろいるものかな?」
魔法使いとは、世界にたった1%しか存在しない超人種とされており、新たに発見されれば国家間のパワーバランスすら左右する存在だ。
開戦寸前まで激化している帝国とのある交渉に失敗し、その帰り道で突然地面の岩があちこち隆起したと思ったら、馬車の速度が落ちたところを襲撃されている。
国境を越えた国内で、一本道を挟むように謎の覆面集団に囲まれたのだ。
「国内に刺客がいるぞ……」
側にいる部下が息を飲んだ。
魔法による岩の砲弾により、騎士たちが徐々に押されているようだ。自国の兵士は決して弱くは無いが、剣で魔法使い相手は分が悪い。
外の喧騒が徐々に聞こえなくなってくる。
このままでは御者もいなくなるな。
傍らにいる文官に武術の才はなく、この状況で戦わせれば確実に命を落としてしまうだろう。兄上から預かっている大切な部下を死なせるわけにはいかない。
「仕方ない……」
ある程度の魔法使いなら、己の
自分が出るしかない、と馬車の扉を開けた時。"黒髪"の青年が扉の前に立っていた。
「大丈夫か!?」
外の騎士たちは無事だが負傷しており、中にいる非戦闘員の部下が自分を庇うように前に出ている状況だった。
「君は……」
ユージは驚愕する。
今頃指名手配して囚われているはずの"黒猫"が、素顔を晒してしきりに「怪我はないか!?」などと確認してくるからだ。
思っていたより若く、可愛らしい風貌をしていることにも驚いたが、何より犯罪者特有の邪気が全く感じられない。
馬車の中を一度確認した後、再び背を向けて駆け出す彼は、"
魔法と剣技を合わせて、剣を振り回して魔法を放っているのだ。この世に生まれたならば、英雄になることを約束されたような能力だ。どのように構築されて放たれるものなのか、詠唱無しの魔法威力も相当なものだった。
あっという間に、騎士団が手こずる集団を壊滅させ、何の警戒もせずに汗で濡れた黒髪を額に張り付かせながら振り返った。
「終わったぞ!」
「ふっ……」
ユージは、思わず笑ってしまった。
僕の顔を知らずとも、馬車の紋章を見れば王族だと判るだろう。そのような一般常識すら知らないように見える。
自分を捕える指示を出した親玉とも知らずに……。
「この者は……!」
側にいた文官の部下が、案の定何か言おうとしたのを手で制し、ユージは言った。
「ありがとうございます、助かりました」
「別に、困ってる奴がいたら、助けるのは当たり前だろ」
「…………」
屈託無く白い歯を見せて笑っている。
アーモンド型の大きな瞳、子供がそのまま大人になったような顔立ちの青年だ。
肌が白いんだけど、どことなく陶器のような柔らかな白さで、黒髪のせいか頬や目元の血色の良さが分かりやすい、ちょっと見ない肌色だ。
この亜熱帯の気候の一般人で、こんなにきめ細かい肌はとても珍しい。
「ふぅん……」
背丈もそんなに自分と変わらない。
彼は一度見たら忘れられないような、とても美しい顔をしていた。
見た目もすごいが、その身体の内側からうっすら発光する白い光……
「?」
沈黙してしまったからか、こちらの様子を伺っている。
笑っている時と黙っている時のギャップが凄まじいな……。
ある程度の地位の人間が、大金を支払って手に入れたいと思う種類の人間だ。
一生傍で愛でるもよし、快楽に染め上げて飼うもよし、か。いつだったか、奴隷商人に言われた言葉を思い出す。あの時はあの下衆な言葉の意味が理解出来なかったが、今なら少しだけ解るような気がするよ。
普通に人買いに拐われそうな見た目に反して強いから、ここまで危機感が無いのだろう。
とりあえず、捕まえてしまおうか。
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