フェンタニルの町、名古屋で死に戻る ―だみんちゃん二十回目の朝―
だみんちゃん
第一話 死の町で目覚める
2030年、名古屋。
かつて「ものづくりの街」と呼ばれたこの都市は、今や「フェンタニルの町」として悪名を轟かせている。
駅前の金時計はどこかくすんで見え、街を歩く人々の表情もどこか曇っていた。
白い粉――フェンタニル。
それは日常の隙間に静かに忍び込み、老若男女を問わず人々の心身を蝕んでいた。
VTuber「だみんちゃん」として活動する私は、今日も配信を終え、夜の名古屋を歩いていた。
「今日も無事に終わった……」
そう思った矢先、裏路地から現れた黒い影に腕をつかまれた。
「おい、ちょっと待てよ」
振り返る間もなく、口元に押し当てられた布から甘い薬品の匂いがした。
意識が遠のく。
「やめて……だれか……」
世界が暗転する。
――気がつくと、私は冷たいアスファルトの上に横たわっていた。
遠くでサイレンの音が聞こえる。
体が動かない。指先が痺れている。
「……ああ、私、死ぬんだ」
ぼんやりと、そんな思いが頭をよぎった。
次の瞬間、まぶしい光に包まれた。
*
「……え?」
目を開けると、そこは見慣れた天井だった。
壁には2010年のアイドルポスター。
机の上には古びたノートパソコン。
カーテンの隙間から差し込む朝日。
私は自分の手を見つめた。
小さくて、まだ子どものような手。
「なんで……?」
スマートフォンを手に取ると、画面には「2010年4月1日」の表示。
20年前の名古屋、私の部屋だった。
現実感がないまま、私は窓を開けた。
外には、まだフェンタニルの影が差す前の、どこかのんびりとした名古屋の街並みが広がっていた。
「夢……なの?」
だが、頬をつねっても痛みはしっかりとある。
私は確かに、2030年の名古屋で死んだはずだった。
「……これから、何が起こるの?」
私はまだ知らなかった。
これが、終わりなき死と再生のループの始まりであることを――。
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