フェンタニルの町、名古屋で死に戻る ―だみんちゃん二十回目の朝―

だみんちゃん

第一話 死の町で目覚める

2030年、名古屋。


かつて「ものづくりの街」と呼ばれたこの都市は、今や「フェンタニルの町」として悪名を轟かせている。

駅前の金時計はどこかくすんで見え、街を歩く人々の表情もどこか曇っていた。


白い粉――フェンタニル。

それは日常の隙間に静かに忍び込み、老若男女を問わず人々の心身を蝕んでいた。


VTuber「だみんちゃん」として活動する私は、今日も配信を終え、夜の名古屋を歩いていた。

「今日も無事に終わった……」

そう思った矢先、裏路地から現れた黒い影に腕をつかまれた。


「おい、ちょっと待てよ」


振り返る間もなく、口元に押し当てられた布から甘い薬品の匂いがした。

意識が遠のく。

「やめて……だれか……」


世界が暗転する。


――気がつくと、私は冷たいアスファルトの上に横たわっていた。

遠くでサイレンの音が聞こえる。

体が動かない。指先が痺れている。

「……ああ、私、死ぬんだ」

ぼんやりと、そんな思いが頭をよぎった。


次の瞬間、まぶしい光に包まれた。



「……え?」


目を開けると、そこは見慣れた天井だった。

壁には2010年のアイドルポスター。

机の上には古びたノートパソコン。

カーテンの隙間から差し込む朝日。

私は自分の手を見つめた。

小さくて、まだ子どものような手。


「なんで……?」


スマートフォンを手に取ると、画面には「2010年4月1日」の表示。

20年前の名古屋、私の部屋だった。


現実感がないまま、私は窓を開けた。

外には、まだフェンタニルの影が差す前の、どこかのんびりとした名古屋の街並みが広がっていた。


「夢……なの?」


だが、頬をつねっても痛みはしっかりとある。

私は確かに、2030年の名古屋で死んだはずだった。


「……これから、何が起こるの?」


私はまだ知らなかった。

これが、終わりなき死と再生のループの始まりであることを――。

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