異世界オプションウォーズ

猫ドラゴン

第1話:〜22時の魔導決戦〜

異界から来た少年・ルキは、薄暗い市場都市“ニューヨルク”の広場で、時を刻む魔鐘の音を聞いた。




「あと10秒でカットタイムが始まる――」




頭上の空に、マナレート155.00が赤く浮かび上がる。各派の魔導師が手を翳し、一斉に詠唱を始めた。




「この価格帯を支配する者が、明日の王になるのよ」




少女トレ子が不敵に笑う。闇ギルド《ヘッジファンド》に所属する彼女は、ルキを見据えながら囁いた。




「フフ、地獄へ、ようこそ♡」




魔鐘の最後の音が消えた瞬間――




空を満たす“マナ価格”の流れが、突如として凍ったように止まった。


155.00の座標が、まるで心臓のように脈打ち、周囲の価格帯を呑み込むように膨張してゆく。




「――始まったわね。魔道カット(オプションカット)」




トレ子が軽く呟くと、広場を囲む魔導師たちが同時に詠唱を放った。


青白い光が天へと伸び、赤く染まった155.00の焦点に収束する。




「……うわ、なんだこれ……!」




ルキの目の前で、空が割れた。


買い側と売り側の魔導師たちが放つ魔力が、空間を捻じ曲げ、価格を巡る綱引きを始める。




「見てなさい。価格ってのは、


 時にこうやって引き寄せられるのよ――人間の意志と、欲望と、恐れによってね」




トレ子はチャート盤を空にかざした。


そこには、かすかに波打つ“力の流れ”――ルキには、まるで呼吸のような微細な揺れが見えた。




「これは……動いてる……? けど、全然読めない……!」




「当然よ。初見のアンタには、ただの嵐にしか見えないでしょうね。


 でも、その中に――必ず“癖”があるのよ」




突如、空が鳴った。




雷光のような光がマナチャートを貫き、155.00にあった価格は一瞬、上へ――いや、下へ引き戻され、


そして――




ズンッ!




地響きのような振動とともに、価格は一気に156.23へ急沸した。




「ブレイク――買い側の勝ち、ね」




トレ子がにやりと笑う。


彼女の背後で、闇ギルドの旗が風に揺れていた。




「この世界じゃ、ただ見てるだけじゃ生き残れない。


 チャートの声を聞きなさい、ルキ。感じ取るのよ、マナ価格の裏にある“意図”を」




広場に静寂が戻った。


ルキの掌には、初めて感じた“マナの逆流”の名残が、ぬるく残っていた。




次回予告


第2話:契約と行使 〜魔導カットの正体〜


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