第10話:特別な日じゃなくても
月曜の昼休み。
オフィスの窓際、少し離れた場所で、俺と桐谷は並んで座っていた。
机の上には、自分で作ったお弁当と、彼女の買ってきたサンドイッチ。
「やっぱり朝倉くん、器用だよねー。煮物まで入ってるし」
「節約のためだよ。毎日外食だと金かかるしな」
「うちのごはんと交換してくれない?」
「やめとけ、サンドイッチ2切れじゃ釣り合わん」
「ちぇっ」
他愛もないやり取り。
でも、それが嬉しかった。
(こんなふうに、肩の力を抜いていられる相手って、そう多くない)
言葉にするのは、少し照れくさかったけど――
確かに、恋人じゃないけど特別な関係は、少しずつ確かな形を持ちはじめていた。
***
そんなある日、部内の歓迎会が開かれることになった。
「場所は駅前の焼き鳥屋です~! みなさんふるって参加を~!」
幹事の後輩・田嶋が元気に声を上げる。
俺も桐谷も出席の返事をしていたが、案の定、宴は飲み放題で大盛り上がりに。
「朝倉くん、飲んでる~?」
「ほどほどにな」
「うわ、桐谷さん、強っ……え、3杯目!?」
「ふふ、実は酒に強いのです」
場の空気に合わせて笑っていたけれど、
時折、彼女が俺のほうをちらっと見てくる。
(……言葉じゃないけど、ちゃんとわかる)
帰り道。
「ちょっと、酔ったかも」
「大丈夫か? 駅まで歩ける?」
「うん、ちょっとだけフラフラするけど……朝倉くん、隣いてくれればいける」
その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、これでも掴んでろよ」
そっと手を差し出す。
彼女は一瞬きょとんとしたけど、すぐに微笑んで手を伸ばしてきた。
「……あったかいね」
「そっちこそ。ほんとに酔ってる?」
「うーん、半分くらいは素面。
でも、こういうときじゃないと言えないこともあるでしょ?」
俺は、彼女の言葉の続きを待った。
「……アタシね。たぶん、もうちゃんと“好き”って言っていいんだと思う。
それも、ちゃんと“恋人になりたい”って意味で」
俺の足が、一瞬止まりそうになった。
(今、聞いた言葉って……)
「朝倉くんが待ってくれるって思ってたから、甘えてた。
でも、もう大丈夫。ちゃんと、“答え”出せるから」
そう言って、桐谷は俺の手をぎゅっと握った。
「だから……そろそろ、恋人になってもいい?」
彼女は、恥ずかしそうに笑った。
俺は、その笑顔を見ながら、静かにうなずいた。
「……ああ。俺も、そう思ってた」
特別な日じゃない。
月曜の、雨上がりの夜。
でも、ふたりにとっては――
この日が始まりになった。
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