第20話 汗水流して

「はぁ……はぁ……」

「がんばれサカイ!もう少しだよ!」

「なんで…今時……こんな…!」


今日は神社の方のお祭りに向けた準備がある。

神社や境内の掃除については数日前に私たちがやっていたので比較的すぐに終わった。

けど問題はその後の準備。

私は軍手をつけて、工事現場のおじさんたちが着ていそうな服、つなぎを着て重たい荷物を一つ一つ手作業で運んでいた。

それも、山の麓にある専用の倉庫から神社までの距離を……


「軽トラで…運べばいいじゃん…!なんで…こんな手作業で…!?」

「そういう伝統なの。こればっかりは諦めてもらうしかないね」

「はぁ……はぁ……」


私が運んでいる荷物は、神社で組み立てて使うものらしい。

普段はばらして麓の建物で保管されてるんだけど、わざわざ麓に置く理由はその建物が神社の建物の一つだから。

敷地の外に昔からある神聖な施設で、お祭りに関する道具や物が保管されている倉庫のようなものなのだとか?

なんでこんなところに倉庫を作ったんだと思うけど…昔は山に建物を建てるのはものすごく大変な作業。

神社と立派な参道と鳥居を作ったら土地がなくなって仕方なく麓に作った…という風に解釈してるらしい。

実際のところはどうなのか分かんないからね?


……けど、無宗教の私にはまるで関係のない話。

なんでこんな非効率的なことをするんだと不満しかないけれど、この村で暮らすからには村のやり方に従わないといけないし、何よりホミの言うことを聞くという約束があるので嫌々従っている。

それはそうと文句は言うけどね!


そんな文句を口に出していいものだけを選んで言いつつ、なんとか麓から山の中腹にある神社まで運びきった。


「ああああっ!!疲れたッ!!」

「女の子とは思えない声が出てるよ、サカイ」

「疲れたんだもん。でも、これで終わりだよね?」

「まさか。運んだだけでしょ?これから組み立てが始まるよ」

「うぅ゛~!」


馬鹿みたいに重たい荷物を何とか神社まで運びきると、今度はその運んだ荷物の組み立てが始まった。

運ばされた荷物の正体だけど、簡単に言うとお神輿。

祭りのたびにその場で組み立てて、それで祭りが終わったら解体するお神輿って何なの?って思ったけど、これにも訳があるらしい。


「この村のお祭りでは、お神輿は神様が村人たちが持ってきた収穫物を持って帰るためのもの。神様が乗るわけじゃないんだよ」

「そうなの?」

「そう。元々はお神輿を麓で作って、各村の家々を回って収穫物を集め、ここに持ってくるってやり方が本来のお神輿の使い方だったらしいんだけど…いつからか神社でお神輿を作って、境内に置いておいて村人がそれぞれ収穫物を持ってきてお神輿に乗せる。そういうやり方に変わったらしいよ」

「何で変わったの?」

「さあ?やっぱり大変だったんじゃない?」

「そうだよね。大変だよね。解体したお神輿をここに置いてかない?」

「ダメだよそういう横着しちゃ。麓に置いてあるのも、何もそこが昔からの置き場所だからってだけの理由で置かれてるわけじゃないんだから」

「何か理由があるの?」

「木製のお神輿だからね。たまにお日様に当てて干したりしないといけないんだ。ここはあまり日が当たらないし、近くに沢があるから湿気も多い。ここに置いてたらお神輿に虫が湧くし、腐っちゃうよ」

「なるほど…現実的な理由だ…」


今組み立てているお神輿には、様々な歴史と背景があるらしい。

一見無意味に見える山登りも、環境と材質との兼ね合いから生まれたちゃんとした訳があり、変遷の歴史もある。

小さな村落だからと侮ってはいけない。

国の事情を揺るがすほどの大きな出来事はなくとも、小さな出来事の積み重ねによる確かな歴史がある。

そう考えると、私が汗水流してお神輿の一部を運んできたのもちゃんと意味があるってことだ。


「よし、じゃあお供え物を集めに行こうか」

「…え?」

「ん?どうしたのサカイ?」


お供え物を集める…?

私の聞き間違いかな?

…そんなことはないか。


「いや…話を聞く限り、参拝に来た人たちがそれぞれ収穫物…お供え物を持ってくるんじゃないの…?」


そう、そのはずだ。

お神輿の歴史を聞く限り、この重たいお神輿にさらにお供え物を積んで山を登るのが大変だから、神社で作って祭りのときに参拝に来た人たちにそれぞれ持ってきてもらって、お供えする。

そういうやり方じゃないの?


「昔はそうだったけど…ほら、今は少子高齢化で田舎はお年寄りが多いでしょ?この村も例外じゃないし、高齢と言わずともある程度歳をとってる人にとって、麓からここまで来るのは大変なんだよ」

「…え、いや……伝統が大事とか、横着しちゃいけないとか…」

「麓にも神代神社の小さなお社があってね。最近はそこで参拝するんだよ」

「………」


開いた口が塞がらないとはこのこと。

それでいいのか…という言葉が頭を離れないが、口からは出てこない。

言わない方ががいい気がするから…


「いやぁ~…俺ももう若くないな」

「今年で55だろ?俺たちも年を取ったもんだなぁ」

「一番若いケンちゃんももう若くねぇんだって?」

「こっちも2人目の孫ができる年になったからな~。けどまあ、中々帰ってきてくれねえから、寂しく感じるよ」


お神輿運びと組み立てのメインだった男性陣が、かなり疲れた様子で談笑している。

みんなおじさんばかりで、確かにこの重労働はこたえそうだ。

大変だね…


「去年は俺たちも手伝ってたが……サカイちゃん、だったか?都会から若い子が来てくれて助かったよ」

「え?あ、はい…」

「よろしく頼むよ。ホミちゃん、任せてもいいかい?」

「はい。その代わり―――」

「分かってるよ。お駄賃には色を付けとく」

「もう私も17歳ですからね?そのことを考慮した額でお願いします」

「そうか、もう高校2年生だもんな。昔遊びに来てた頃はあんなに小さかったのになぁ」


昔を懐かしむように「うんうん」とうなずく男性陣。

……ん?

ちょっと待って?


「え?なんか私とホミだけで集める方向で話が進んでません?」

「そうだが?」

「いや、『そうだが』じゃないんですけど…」

「なに言ってんだ。昔はケンちゃん所の息子が一人で集めてたんだぜ?結婚して引っ越したから、ホミちゃんと俺たちで集めてたが…まだまだ若いんだから、女の子でも2人居りゃ何とかなるさ」


…えぇー?

マジで言ってる?

え?これマジなの?


ホミの方を見て確認を取ると、にっこり笑って首を縦に振った。

どうやらマジらしい…


「一仕事したことだし、よく冷えたビールでも飲むか」

「いいねぇ…汗をかいた後のビールは最高だもんな」

「今年は楽で助かるよ。もっと若い子がたくさん移住してきてくれたら楽なんだがねぇ」

「それは高望みし過ぎってもんだ。よぅし飲みに行くぞ!」


ワイワイ楽しそうに騒ぎながら山を下っていく男性陣。

私はホミと一緒にゆっくり山を下りながら…もう一度聞いてみた。


「…マジで2人で集めるの?」

「まあ、ね?」

「17歳の女子2人にやらせるの?」

「これも伝統だから…」

「お祭りは簡略化したくせに?」

「仕方ないでしょ。そういうしきたりだと思って受け入れて」

「……やっぱ田舎は駄目だわ」

「これに関しては私もそう思う」


男性陣に聞こえないように、他の村の人たちに聞かれないように注意しながら2人で文句を言いまくった。

けれど、文句を言ったところで何かが変わるわけでもなく…

結局この炎天下の中を3町にあるすべての家を回ってお供え物を集め、リヤカーいっぱいに野菜を積んで山を登った。

普通に数十キロあるリヤカーを2人で押して山を登るのはかなり大変で、お神輿を神社で作る風習が生まれたのもよくわかる。

だって今は舗装されたアスファルトの道を押してるけど、昔は舗装なんてされてないでこぼこの山道を数人で、数十キロ…プラスお神輿の重さも含めたものを担いで登ってたわけだ。

うん、今の4、50代の人しかいないこの村じゃまず無理だね。

お祭りのやり方が変わった理由を実感することで改めて理解しながらも、横着して若者に重労働を押し付ける村社会に怨嗟を唱えながらなんとか山を登り切り、お神輿に野菜を積んで下山した。


「冷たいジュースが待ってるよ」

「きゅうりの漬物もお願い…熱中症で倒れちゃう…」


炎天下の中重労働をしたんだ。

尋常じゃない量の汗をかき、もうヘトヘト。

なんとか家に帰ってくると、塩気の効いたキュウリ漬けを食べ、よく冷えたジュースを流し込む。

汗水流して働いた後の塩分と水分の補給は最高だった。


それはそうと、私は村社会の理不尽を許さない。

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