第19話 お祭りの手伝い
お待たせしました。
こちらの事情により、更新がかなり遅れましたがこれから毎日投稿を再開したいと思います。
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神代神社にお参りと境内の掃除をした次の日。
私とホミは歩いて山を下り、麓の街にやって来た。
街と言っても村の規模で、
けど、子供の声がして少しだけ賑やかだ。
「あそこだね」
「あれか…」
私たちがやってきたのは、夏祭りの会場になる公園。
参拝と収穫物を捧げるために山に登るとは言え、お祭り自体は麓の村の広い場所でやるらしい。
というか、昨日聞いた昔話の内容では村は3つある。
そのうちの1つの村でお祭りをやるために集まって、年に一度の大騒ぎをしていたんだろう。
その風習が、今も続いている。
そんなところだろうか?
「こんにちは〜」
「あらホミちゃん。今年もよろしくね〜」
公園にやってくると、ホミが色々な人に挨拶をして回る。
私もそれについて行って、何度か挨拶した。
けど、人見知りを理解しているホミは、私に代わって説明してくれるのでそれほど目立たず済んだ。
いやまあ…こんな田舎の村に余所者が来てる時点でだいぶ目立ってるんだけど。
「じゃあ始めようか」
「何を?」
「草むしりだよ。グラウンドの砂の部分に生えてる草は全部抜くよ」
「わかった」
「抜いたあとは穴を埋めてね?」
「は〜い」
学校のグラウンドのように砂地の公園…のグラウンド。
手入れがあまり行き届いていないのか、所々に雑草が目立つ。
既に年齢層がバラバラな地元民の女性と、子供たちが草むしりを始めているけれど…グラウンドはそこそこ広いため、まだ時間がかかりそうだ。
そのお手伝いを私もやる。
草むしりならホミの畑で何度もやったので慣れてるし、何も困ることはないね。
むしろ私が困るのは…
「へぇ〜?家出少女?〇〇市って…また随分都会なところから来たねぇ?」
「そうですよ?サカイは都会育ちだからお米のの炊き方も知らないし、コンポストに一切近づけないお嬢様なんです」
「ホミ…恥ずかしい…」
「お米の炊き方を知らないって…それでお嫁に行けるの?」
「都会じゃそういう発想は二の次三の次。学歴やら就活やらが重視されるのよ」
「へぇ〜?大変ねぇ〜」
見ない顔の私におばさんたちが群がってきて、人見知りの私には居心地が悪いことこの上ない。
しかもホミが余計なことを言うものだから、変な勘違いや偏見を持たれて気分が悪い。
でも、村社会で変なことをすると大変なことになるってのは、私もよくするところだから、大人しくする。
…とはいえ大人しすぎるのも問題で、少しはコミュニケーションが取れないとそれはそれで面倒だ。
「その…今時スマホで何でも調べられるので…」
「スマホねぇ…?」
「都会のバスに乗ってご覧なさい?み~んなスマホを無言で見つめて…気味が悪いわよねぇ?」
「都会の人はスマホに取り憑かれてるのかってくらい、ず〜っとスマホを持ってるわよね」
何とか私から話題を振ってみるも、飛び出したのは都会の人への偏見。
…いや、あながち間違いではないし、見方を変えてみると、みんなスマホを見ている光景は確かに異様だ。
そういう目で見られるのも仕方がないのかもしれない…
なんだか疎外感と小さな悪意を感じ、よそ者への排他思想を受けている気がした。
「大多数の人はそうかもしれませんけど、サカイはずっとスマホを触ってるような人間じゃないですよ」
そんな私のために、ホミがその考えを否定してくれた。
ホミの言葉に、おばさんたちはきょとんとした表情を見せる。
しかし、すぐにニコニコした暖かい笑みが戻ってきた。
「あらそうなの?ちゃんとお手伝いしてくれる?」
「ええ。サカイは良い子ですよ?疲れて寝てしまった私の為に、お昼ご飯を作ろうとしてくれたんです」
「まあ!…でも、お米の炊き方も分からないようじゃ…」
「危うく火事になりかけましたよ。焦げ臭いニオイに気付いていなければ、危なかったと思います」
ホミの話を聞いて、おばさんたちは顔を見合わせてくすくすと笑い始める。
「なんだかうちの昔の主人みたいね。主人ったらずっと強火で炒め物を作ってたから、すぐに焦げ付かせてフライパンをダメにしてたの」
「そうよね!うちのあの人は今でもそんな感じで…もし私が先に死んだらどうするんだって感じ」
「やぁねえ。まだ50代でしょう?」
「『まだ』ってのは『すぐ』なのよ」
『『アハハハ!!!』』
旦那の悪口で盛り上がるおばさんたち。
あまり笑い事じゃなさそうな話も聞こえたけど、同じ年代の同じコミュニティに属するからこそのジョークなんだろう。
そう思っておばさんたちの話は真に受けないことにした。
そして、私はホミに寄り添って話しかける。
「ありがとう」
「ん~?私が何かした?」
「…そう思うなら忘れて。けど、私はこの恩を忘れないよ」
「ふふふ…何かっこつけて言ってるんだか」
おばさんたちが話している横で、私たちも身内の話をする。
私の立場は、ホミがいることで何とか成り立っている。
ホミは私のすべて。
ホミがいるからこそ、私はここで生きていける。
衣食住という意味でも、精神的な意味でも。
だからいつか、絶対ホミにこの恩を返したい。
返しきれないほど沢山与えてくれるホミに、私からも受け取り切れないほど返したいんだ。
「ねえホミ…ここのお祭りって、屋台とかあるの?」
「屋台、か。あるけどサカイが想像してるものとは違うよ?」
「そうなの?」
「うん。町民全員に人数分のチケットが配布されて、それでいろいろな屋台の商品と交換できる。けど、余分に用意されてるからその分は買うことになるね」
「えっとつまり…?」
「サカイが想像するお祭りの屋台。あれを完全に内輪かつ自治会主催でやるから、営利目的というよりは祭りの1つのプログラム。お祭りの屋台風に見せかけた、3町合同宴会だね」
お祭りの屋台風宴会か…
宴会ってことは、お酒を飲んでおいしいもの食べてどんちゃん騒ぎ。
確かに私の想像しているお祭りとは違いそうだ。
「だからまあ、少し離れたところにある大きな神社でやる夏祭りの時に、二人で行こうか?」
「ホミ…私の考えはお見通しって事か」
「当然だよ。サカイの浴衣姿、楽しみにしてる」
「うん……でも、私浴衣の着方わからないから教えてね?」
「そこは任せてよ。サカイはいつも通り、私があげるもの全部を笑顔で受け取ってくれるだけで、恩返しになるからさ」
笑顔で与えられたものを受け取る。
それだけで恩返し…なんて、そんな都合のいい話、ホミは良くても私は良くない。
いつか絶対、ちゃんとした恩返しがしたい。
…でも今は、何もできないからホミの言う通りにするのが一番の恩返しだ。
ああ、なるほど…
ホミが言いたいのは、こういうことか。
「勝てないなぁ…ホミには」
「え?何が?」
「何でもないよ。…ただ、このままホミのすねをかじるだけの人生でもいいかも、なんて思っただけ」
「さすがに大人になったら何かしらで働いてよ…?フリーターとかでもいいから」
「ふふっ、大人になってもここに居て良いの?」
「なに言ってるのさ。サカイが帰ってくる場所は、私の家でしょ?」
「…そういうところだよ。私がホミに勝てないのは」
本当に…そういうことを言うのはやめてほしい。
ホミと暮らし始めて、私は変わりたいと本気で思えるようになった。
それなのに、何の見返りも期待せず私に尽くしてくれるホミがいると、その気持ちに迷いが生まれちゃう。
そのくらい、ホミは私の心をぐちゃぐちゃにするのが上手だ。
もしくは、私がホミに弱すぎるのか。
「手が止まってるよ。草むしり、ちゃんとやってよね」
「はいはい。どうせ私は都会の温室育ちのひ弱な女の子ですよ~」
「そんなこと言ってないじゃん。卑屈にならないでよ」
「ホミのそういう可愛い反応が好きだからやってるの」
「……バカ」
顔を赤くして、私に背を向けるホミ。
そのしぐさも可愛くて、私はもっとホミをいじりたくなった。
「なになに?私の顔を正面から見られないの?今更?」
「うるさい!まじめにやりなさい!」
「ちゃんとやってるよ。ほら?…ああごめんね。ホミは恥ずかしくて私の方を見られないから、私がちゃんとやってるか分かんないよね」
「…そろそろ怒るよ?」
「うっ…すみませんでした…」
「ふんっ!今日の夜ご飯は白ご飯と漬け物だけね?」
「そんなぁ!ホミのお味噌汁大好きなんだよ、だからお味噌汁もお願い!」
「…好きなのは味噌汁だけなの?」
「まさか。私は、ホミが好きだよ」
「……やっぱり、夜ご飯抜き」
「なんで!?」
ホミと話すのが楽しくて、つい周りの目を気にせずいつものようにふるまってしまう。
視線がどうだったかは覚えてないけど、私とホミの会話はどのように見えていたのだろう?
仲のいい友達に見えていたのかな?
それとも…同性愛、という言葉が当てはまる関係に見えただろうか?
…きっと前者だ。
微塵も興味がない学校生活でクラスの女子生徒のこういうじゃれ合いはよく見てた。
今時の若者の普通。
そう言い切ってしまえば、そういうものだと理解されるだろう。
心のどこかで世間体を気にしつつ、それでも今更取り繕うこともできないので、諦めて自然体でホミと接する。
お陰で楽しく作業ができた。
グラウンドのお祭りの準備はお昼ごろには終わり、あとは神社の方の準備。
しかしそれは後日ということになり、今日は解散。
山にある家に歩いて帰るのは普通に大変なので、お昼ご飯の時間がずれてしまったけれど…それでも労働の後のホミのご飯は絶品だったので、今夜は気持ちよく眠れそうだ。
…ちなみに本当に晩御飯を抜きにされて、夜中にホミが寝た後に冷蔵庫を漁ることになったのは内緒。
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