第14話 漬け物

おまたせしました!

現在忙しい時期で投稿が不安定になっています。

8月にはまた毎日投稿を出来るようになると思われます。


――――――――――――――――――


街での買い物が終わって帰ってくると、車を降りる時に石山さんに「ちょっと待ってて」と呼び止められた。

一旦家に戻った石山さんは、しばらくして何かポリ袋を持ってきた。


「はい。キュウリと茄子の浅漬けと、あんまりしっかり浸かってないけどキュウリのぬか漬けよ」

「いいんですか?今お返しできるものありませんけど…」

「いいのよ。沢山作ってあるから持って帰って」

「ありがとうございます!」


石山さんから漬け物を貰った。

漬け物はホミが受け取り、すごく嬉しそうだ。

しかも、今年の出来栄えはどうとか、あの漬物が美味しいとか、井戸端会議を始める始末。

…その後ろで荷物を持たされ、私が踏ん張っているのは見えないらしい。


そろそろ怒ってやろうかと我慢が限界に達しそうになった時、石山さんが察してくれてようやく帰ることになった。

暑さと重いエコバッグの二重苦で、汗を滝のようにかきながら、なんとか家に帰ってくる。

片付けはすべてホミに任せて居間に行き、エアコンを付けて扇風機を回して体を冷やす。

エアコンが効いてきて、体が冷えてきたころ、ホミが石山さんの漬物を切って麦茶と一緒に持ってきてくれた。


「汗をかいた体には、塩気の効いた漬物が美味しく感じるんだよ。はい、どうぞ」

「ありがとう。んん〜!ちょっと効きすぎなくらいの塩っぱさが体に染み渡る〜!」


石山さんの漬物は、浅漬けでもちょっと塩気が効きすぎているくらいの辛口。

しかしそれが、汗をかいた今の私にはとても美味しく思える。

次々と手が出て、塩気が口に広がるたびに幸せゲージが溜まっていくのだ。

そしてこれだけ漬け物を食べると、やっぱり喉が渇く。

そこに、キンキンに冷えた麦茶を流し込む。


「あ゛ぁ〜〜!!最高!」

「おっさんみたいだよ、サカイ」


ゴクッ!ゴクッ!と喉を鳴らし、らしくない大きな声を出した。

ホミに笑われてしまうが関係ない、また漬け物を食べて、麦茶を飲んでを繰り返す。

すると…


「あれ…?」


気が付くと漬け物はなくなっていて、爪楊枝が皿を突く。

結構な量の漬け物があったはずなんだけど……


チラリとホミの方を見ると、ニコニコと誇らしげに笑っている。


「おか―――」

「おかわりは無いよ。塩分摂りすぎ」

「むっ…」


おかわりを頼もうとしたら、塩分の摂りすぎになるからダメだと言われてしまった。

けど…食べたい。

あの塩分が全身に染み渡る感覚を楽しみたい。

どうやったら美味しい漬け物を食べられる?


塩分の摂りすぎを咎められるってことは、塩分が必要な状況になればいいってことだ。

それはつまり…汗をかけばいい。


「ホミ!畑に行こう!」

「はぁ?なんで?」

「沢山汗をかいたら漬け物食べていいでしょ?塩分摂りすぎにならないからね」


食べた分を汗として排出して塩分摂りすぎにならないようにすればいい。

沢山汗をかいて、服をベタベタにしてホミから漬け物を食べる権利を勝ちるんだ。

さらに、汗をかけばその分体が塩分を求めてさらにおいし漬け物を食べられる。

まさに一石二鳥だ。

クローゼットから畑仕事用の服を引っ張り出してきてそれに着替え、嫌がるホミを無理やり連れて畑に向かった。







畑仕事と言っても、やることは草むしりくらい。

ホミは野菜の収穫なんかもやってるけど…私はとにかく草むしり。

畑に生えている雑草をすべて引き抜くくらいの気持ちで雑草を抜き、畑を綺麗にしていく。

綺麗になった畑はじりじりと照らす太陽によって熱され、どんどん気温を上げるのだ。

おかげで汗が止まらない。


「あっつ…マジで飲み物がないとやってられないや」

「ちゃんと水分補給してよ?また熱中症で倒れられたら困るからね」

「分かってるよ。体調管理はしっかりしてるから安心して」

「ほんとかなぁ?」


ペットボトルに入れられた麦茶がうまい。

さっき家で飲んだ麦茶も美味しかったけど、エアコンの効いた部屋で飲む麦茶と、熱々の炎天下で飲む麦茶のおいしさは別物だ。

あっという間に500lmのペットボトルが半分空になり、それに応じて汗の出がよくなる。

この汗で体の中にたまった老廃物もすべて出して、塩分も出し切って漬物を食べよう!

そう張り切って一層激しく草を抜いていく。

残りの麦茶もすぐに飲み干し、ホミが心配したのかそわそわし始めたけど…この通り私はぴんぴんしている。

しかしそれでもやっぱり心配だったようで、ホミがこっちにやってきた。


「サカイ。これ食べて」

「ん?トマト?」

「そう。みずみずしいでしょ?水分がたっぷり詰まってるから、水分補給になるよ」

「なるほどね~」


ホミがトマトを差し出してきた。

これを食べて水分を補給しろとのこと。

せっかくなので、とれたて生トマトに豪快にかぶりつく。


「んんっ!おいしい!ってか、甘い!?」


新鮮な生トマトはどういうわけか甘く、それでいて酸味の主張も激しくて疲労の溜まり始めた体によく効く。

酸っぱいのは、まだ完熟からさらに熟成させて酸味を飛ばしてないからだろうけど…この甘みは一体?


「冷えたトマトはおいしいけど、その分甘みを感じられなくなるんだよね。お日様に照らされて、赤く暖かくなったトマトは甘いんだよ」

「そうなんだ…」

「でも、この時期に食べるならやっぱり、氷水で冷やして皮をむいて塩をたっぷっり振りかけて食べる塩トマトだよね」

「お昼ごはんそれにして!!」

「いい食いつきだね。私は嬉しいよ」


よく冷えた塩トマト。

そんなの美味しいに決まってる。

漬け物に塩トマト。

塩分過多にならないように、一層精を出して汗をかかないと!


貰ったトマトを食べきると、草むしりに戻ってびっしょり汗をかく。

ホミが『帰るよ』と言うまで鬼のように働いて、もう体に塩分も水分も残っていない状態。

漬け物を食べようとしたけれど、もうお昼の時間だとホミに言われてしまったので少しだけ我慢。

今日のお昼はそうめんで、氷水でよく冷やされたそうめんはすごく美味しかった。

シメに食べた漬け物も最高で、お昼からもバリバリ働こうとしたその時――


「あれぇ…?」


立ち上がろうとしたらバランスを崩して倒れてしまった。

体に力が入らない。


「もうっ!無茶するから!」


熱中症ではないものの…働き過ぎで倒れてしまった。

心は元気でも、私のひ弱な体は限界。

ホミには『もっと加減を考えなさい』と怒られ、塩気の強いものを食べるために運動するのは禁止されてしまった。

くそぅ…私の完璧な計画が…!

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