第5話 フサフサと勇者と誤解の乱闘

 勇者召喚騒動が落ち着いた数日後、校門前にて新たな異変が起きた。


 校長先生はいつものように掃除をしていた。その頭頂部には金色に輝く雑草生命体、通称フサフサが鎮座している。


 そのフサフサが、遠くから歩いてくる勇者アステリオス・ディケーの金髪を鋭く見据えた。


「……おや、あれは」


 僕、ナゲキ・ルイは、校門前の掃除を任されつつ状況を察した。


「やめるんだフサフサ、敵じゃないよ」


 だがフサフサは聞く耳持たず、校長先生の頭からするりと伸びた腕のような髪束を勢いよくアステリオスへ伸ばした。


「むむ?突然何を――む、敵意!?」


 アステリオスも即座に聖剣を抜く。光り輝くエクスカリバーの刃がフサフサを切り裂こうと振り下ろされた。


 しかしその瞬間、フサフサの形が変わる。金色の髪束が瞬時に広がり、盾のような形状へと変化する。


 キィィィィン!!


 鋭い音を立てて、アステリオスの聖剣が止められた。


「馬鹿な、聖剣を防ぐとは……!」


 アステリオスとフサフサの攻防はしばらく続いたが、次第にフサフサはアステリオスの髪にそっと触れる。


 さわさわ……(ドウゾク、チガウ?)


 どうやら自分の勘違いに気づいたフサフサは、もじゃっとした髪束で「メンゴメンゴ」と謝罪ジェスチャーをする。さらに髪の先を器用に丸めて握手の形を作った。


「……妙な生命体だが、礼儀はあるようだな」


 アステリオスも苦笑いしつつ、フサフサと握手を交わす。


 後ろで掃除をしていた校長先生は、威厳ある声で静かに言った。


「フサフサよ、次からは敵かどうかしっかり確認してから動くんだ。同族との縄張り争いだとしてもやりすぎだよ」


 フサフサは頭の上からぴょこりと、いやスルリと校長先生の肩に戻る。

 校長は心なしかさみしそうに頭を触る。





 ルイはその様子を遠めに見て。

「……フサフサ、着脱可能なのかよ……」


 こうして、金色の誤解は解け、今日も魔術学園は混沌に満ちていくのだった。

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