こころのかべ

杜隯いろり

自己紹介

「こころってなんだろう。

まだ幼い時、小学校低学年くらいだっただろうか。

ふと、そんなことを思ったのを未だに憶えている。

抜群に知能が優れているわけではないけど、

小さい時から、感受性の高い子供だったと思う。

見えるものから見えないものまで、物事の本質について考察しては納得するまで考えて、ささやかな哲学を発見するのが好きだった。


でも心が何なのか、人間の論理では

到底因果に辿りつかない。

僕もその例の一人だ。


僕が死んだとして。

どこかで生まれた新しい人間が自我を持った時、もしその景色を見、痛みを感じ、お腹を空かせるのが「僕」なら。

それを魂や輪廻と表現するのもまあ一つの帰結だろう。

こんなことを考えながら子供の頃の僕は一つの想像をした。


もしもこの先、「僕」が形を変えて存在して行くのなら

「僕」は「あなた」だったかも知れない


あなたは身体と魂の形を変えただけの、僕かも知れない。


この仮説ははとても幻想的で神秘的だが、

同時にとても脆弱だ。

自我というのは、結局は脳の認知機能の一つとして

便宜的に成り立つものでしかない。


こころは決して外からは見えない。

僕はあなたにはなれない。

あなたには、僕のことはわからない。


頭ではわかってるんだ。ずっとわかってる。

僕は僕としてしか生きられない。


でもこれだけは、まだ割り切れないんだ。

あなたの気持ちも、自分自身の気持ちも分からないことが。

僕があなたになれないことが。

あなたが僕を知らないことが。

なぜこんなに切ないんだろう。寂しいんだろう。


神に登ることを禁じられたこの高い高い心の壁。

これに挑み続けたら、また一つ哲学を得られるだろうか。

もっと綺麗に諦められるだろうか。

いつか誰かを愛せるだろうか。

少しは自分を、好きになれるだろうか。」




——何ともまあ、冗長な自己紹介になったものだ。


ああ、もうこんな時間か。

明日からまた学校か。もう寝ないと。

一つ息をついて、僕は枕元の明かりを消した。

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