空と海のエルヴィーネ
藍凪みいろ
第一章 過去を辿る航海
序章
私は知らなかった。
空の色も、海の色も、夜空の色も。
どれも始めて見る景色のように思えた。
目の前に広がる色を失くした世界は私が真実を知りたいと思わなければ壊れることがなかったのかもしれない。
もう、私には何もない。どんなに嘆いても、悔やんでも、今更、全てが遅いのだ。
もしも、最初から全てやり直せるのなら、私は……
◆ ◆ ◆
時折、聴こえてくる鳥の声が私にとってうるさく聴こえてしまうのは、自分に『自由』が与えられていないという現実に現在進行形でイライラしてるからである。
「私、いつになったらこの塔から出られるのかしら。本当、何年、幽閉するつもよ……!」
日に日に怒りと不満が溜まっていく中、私の唯一の話し相手であり、朝昼晩の食事を届けてくれる少女より歳が少し離れているであろう女性"アイリス"の声がドア越しに聞こえたことによって、私は気持ちを落ち着かせる為に深く息を吐く。
「リティアー! 夜ご飯持ってきたわよ〜」
アイリスの声が私の耳に届く。
私は先程までの興奮気味に怒りの言葉を露わにし吐き捨てていた事など嘘のように落ち着いた声で、食事を運んできてくれたアイリスに礼の言葉を伝える。
「ありがとう、アイリス」
「ええ、ねえ、リティア。最近、ちょっと顔色悪いけど、ちゃんとご飯は残さず食べているの?」
アイリスの心配そうな声が聞こえたが、私にはその心配がとても不快に感じられた。
心配するくらいなら、いい加減に鎖を外して、この部屋から出して欲しい。
それが私の本音であったが、そんな本心をアイリスに言う程の勇気を私は持ち合わせていなかった。
「ええ、食べてるわよ」
「なら、良いんだけど。じゃあ、食べ終わったら、いつも通りそこの窓からお皿、外に置いておいてね」
アイリスの言葉に私はドアの床下ギリギリにある皿がドアの外に出せる程度の横長に空いている隙間を見る。
この隙間から私はいつも食べ終わった皿をドアの外に出しているのだ。
「わかったわ」
私がそう返答したのを確認し、アイリスの足音は遠ざかって行く。
「顔色がここ最近、悪いのは、身体的にも精神的にもそろそろ我慢の限界だからよ」
苛立ちを滲ませた声で私は一人呟きながら皿に盛られている貧相な食事に手をつけていた。
部屋の天井近くの壁に一つだけある窓を見上げれば開け放たれている窓から見えた空にはゆっくりと雲が流れている。
私はこの先、自分はどうなってしまうのか。そんな不安を抱えながらも今日という1日が少しずつ終わりに近づき始めていた。
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