第3話・キャラ立ちについて


 文芸部の部室で、先生にすすめられた小説を読んでいると。


 その当人がバァンとけたたましい音を立てながら扉を開き、開口一番告げてくる。


「今日はキャラクターについて考えてみたい」


「お願いします」


 俺は小説を一旦鞄にしまい、教壇に立った先生に向き直る。


「小説に限らず、マンガでもアニメでも出てくる登場人物というのはやはり大切だ」


「読者が主人公に共感できるかで、先を読み進めたくなるかどうか決まりますからね。ヒロインが魅力的かどうかも重要かと」


「うむ。物語には主人公、友人、悪役、モブに至るまで様々なキャラクターが登場する。魅力のあるキャラが多いに越したことはない」


「問題なのは、どうすれば魅力的なキャラクターにできるのか、ですね」


「まさにその通り。例えどんなに美男子、美少女、スタイル抜群という設定にしても、まるで魅力の無いキャラクターとして落ちぶれてしまうことはままある」


 言われて、打ちきりになったマンガのキャラクターをいくつか思い浮かべたが。

 さすがにそれを口に出すのはやめておいた。


「そうならないようにするには、どうすればいいんでしょうか」


「そこで重要になるのはズバリ、キャラ立ち、というやつだ」


「きゃらだち。何ですかそれ?」


 俺に問いかけに対し先生は、黒板にカツカツと何か書きはじめる。


 なになに? 『カツカツすぎて、今月はろくに間食かんしょくもできない』だって?


 どうやらただの愚痴ぐちだったらしい。


「例えば、とんでもなく強面こわもての大男がいたとする。それだけならば、読者からすれば『ふーん』くらいにしか思わないだろう」


「まあ、それはそうでしょうね」


「しかしその大男が、実は小さなトカゲにもビビる小心者だったとしたらどうだ。思わずクスッとしてしまうだろう?」


「あー、ク○ヨンし○ちゃんの園長先生みたいなやつですね」


「うむ。他にも、凄く可愛らしい女の子が実はとんでもない腹黒だとか、いつもクールな美女がネコちゃんに対してだけデレデレになるとか、そんな一面を書くことで『キャラが立つ』わけだ」


「なるほど」


 ……。いま、先生しれっとネコにちゃんづけしたな。

 無意識だろうから、とりあえずつっつくのは止めておこう。


「一時期大流行したツンデレもそのたぐいだな。ツンとデレの対比こそが、読者を魅了する要素になっているのだ」


「ツンデレが人気あるのも、ちゃんと理由があってのことだったんですね。確かに、ギャップ萌えとかよく聞きますし。そこが重要なわけですか」


「いいぞ我が教え子よ、まさしくその通りだ。様々なギャップに読者は惹かれ、キャラクターにドキドキしたり感情移入したりしていくわけなのだよ」


「勉強になります! でもそうしてキャラ立ちさせた後、どうすればもっと人気を得られるんでしょうか!」


 俺の質問に、先生は軽く柏手かしわでを叩き。

 うむうむと頷きながら、意味ありげに教壇の上をうろうろとしはじめる。


 しかしそこに特に意味はないとわかっている俺である。


「いい質問だ。それには、更なるキャラ立ちが必要になってくる」


「更なるキャラ立ち、ですか」


「わかりやすいやり方で言えば、可愛らしいけど腹黒な女の子に、ものすごく重たい過去があったとしたらどうだ」


「あー、そういう展開よくありますよね」


「そう。そもそも性格というものは、一朝一夕いっちょういっせきに形成されることは少ないものだ」


「というと?」


「つまり腹黒になっても仕方ないくらい嫌な思いをしたことがあるとか、誰それに裏切られた経験があるとか、そのような過去をることにより、当事者の人格は形成されていく」


「それは現実の世界でも、そうでしょうね」


「そういうことだな。そしてそうした女の子のバックボーンを見ると、読者側のキャラの見方も変わってくるというものだろう?」


「それは間違いないですね。嫌なキャラが一転してかわいそうなキャラとして、掌返てのひらがえしされますよきっと」


「うむ。いま言った手法しゅほうの他にも、料理が苦手、高いところが苦手、射撃が上手い、どら焼きが好き、などの特徴をまじえたエピソードを書くと、どんどんキャラクターに深みが出てくるわけだ」


 そこで、下校のチャイムが鳴り響いた。


「む。もうこんな時間か。まったく、今日も無駄に長い職員会議を開きやがってあのインケンメガネめ。あれさえなければもっと早く来れたものを」


 先生は唇を尖らせ、残念そうに肩を落としたが。


 すぐにしゃっきりと背筋を伸ばし、ぐっと拳を握りしめながら言葉を発する。


「ともあれ今回の講義で、キャラクターを立たせるにはやはり、様々な一面を見せていくことが肝心ということがわかって貰えたと思う」


「はい! よく理解できました!」


「感心感心! まあ現実にしろ創作にしろ、外面が綺麗で内面も綺麗という人間は、私くらいのものだろうな!」


「…………」


「…………こら。なにかコメントしないか」


 自分で顔を赤らめるくらいなら、言わなきゃいいのに。


「ゴホン。まあ、何にせよキャラクターの書き方についてはまだまだ語るべきことは多い。今後も色々と講義は続けていくのでそのつもりで!」


「わかりました!」


「では、本日の講義はここまで!」


「ありがとうございました!」

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