好きになってしまう私が嫌い
きりんくま
第1話 彼女との出会い
私は恋愛依存だと思う。
生きていると実感できる時間のほとんどを、恋人を中心に過ごしているからだ。
私の大切な、大切な恋人は女性。
レズビアンで、恋愛依存。そんな私の話。
彼女と出会ったのは、女性のみ入店できる、いわゆるレズビアンBARだった。
ただ、そこはレズビアンに限らず、ノンケ(異性愛者)でも入店できるお店で、理解のある人たちが集まっていた。人目を気にせず、自分らしくいられる場所だった。
あの頃の私は、3年付き合った恋人に振られて、東京から地元に戻ってきたばかり。
「もう恋人なんていらない」「二度と恋愛なんてしない」「辛い思いはもう懲り懲り」――そう思いながら、酒や遊びに逃げていた。
そんなある日、高校時代の友人Hが「レズビアンBARに興味がある」と言い出した。
Hは、私がレズビアンであることを知っている唯一のノンケの友達。東京の元恋人にも会わせたことがあり、地元に帰ってきてからは、何かと気遣って慰め会を開いてくれていた。
「いらっしゃい! 今日はかわいい子と一緒だね」
BARのドアを開けると、店長がニコニコと笑顔で出迎えてくれた。
「高校の同級生だよ、ノンケ」
そう伝えると、店長は「いつでもかわいい子は大歓迎」と笑いながら、私たちをソファ席に通してくれた。
いつも一人で来るときはカウンターばかりだったから、ソファ席は少し落ち着かなかった。でもHは目を輝かせながら「本当に女の子ばっかりだね」なんて、当たり前のことを言ってきて、思わず笑ってしまった。
そのあとは、たわいない話をしながらお酒を楽しんだ。
酔いがまわってきたころ、店長に借りたトランプでババ抜きを始めたが、Hが「二人だとすぐ終わってつまんない!」と拗ね始めた。
「いらっしゃい!」
店長の明るい声とともに、一人の女性が入店してきた。
カシャン、カシャンと腰につけた鍵を鳴らしながら入ってきたその人を、私は思わず目で追っていた。
「……ね!」
「……、だね!」
「ねえ! 聞いてる?」
Hの声で我に返り、「え? 何?」と聞き返す。
「あの人、すっごいタイプじゃない? 好きそうだね!」
ニヤニヤするHとは裏腹に、私は自分の心の反応に戸惑っていた。
もう恋人はいらないと思っていたのに――。
彼女を見た瞬間から、鼓動が速くなっているのを、はっきりと感じていた。
その女性は、カウンターに座って店長と談笑していた。
私はというと、ただ彼女から目を離せずにいた。
「そんなに気になるなら、一緒にトランプしてみたら?」
向かいに座るHが、からかうように言ってきたそのとき――
その会話を聞きつけた店長が、こちらを見ながら言った。
「あの人たちとトランプしてきたら?」
「? どの人?」
店長の指をたどって振り返った瞬間、彼女と目が合った。
全身に鳥肌が立つのが、自分でも分かった。
「ほな、参加しよか!」
関西弁が印象的だった。
ニヤッと笑ったその顔に、さらに鳥肌が立つ。――もう、遅かった。一目惚れだった。
「私はA! よろしく!」
ニコニコと笑いながら座る彼女。お酒が入っていたのか、もともとそういうキャラなのか、それとも人見知りゆえのテンションなのか。
今でも、あのときの彼女の空気を、鮮明に覚えている。
これが、彼女との出会いだった。
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