第2話 独に慎むこと

独に慎むこと

― 誰も見ていないとき、志はどう呼吸するか ―



【官邸 地下対話室】


カーテンは重く閉ざされ、時の針は音もなく巡る。

部屋の片隅、空調の律動と、光男首相が机を指先で刻む律動。

沈黙の狭間に、問いが落ちる。


光男首相:


なあ、官房長官。

ワシ、時々わからんようになるんや。

誰にも見られてへん時のワシ……

果たして“それ”に志は宿っとるんやろかって。


ワシの正義はカメラの前限定やったんかもしれへん。

ほんまは、「ええカッコ」してただけなんちゃうか……?




官房長官:


首相、それは“誰しもが持つ匿名人格”の話やと思います。


見られてるときだけ起動する“公的人格モード”

見られてへんときの“推奨設定モード”


SNSアカウントみたいに人格を切り替える癖が、

我々の“志”そのものを分裂させとるのです。


けど――

志とは「ログアウト後」にこそ、試されるもんやと私は思うてます。




光男首相:


それが政治に通用するんか?


見られてへん善行、ニュースにもならへん、票にも繋がらん。

そんなもん、自己満やないか?


今の時代、「志」よりも「通知回数」が価値あるんやぞ。




官房長官:


首相、それは“志のマネタイズ失敗”にすぎません。


けど、志とは元来、“誰にも説明せんまま消えていく行動”のこと。


ましてや政治家が、「見られること」基準で動き始めたら――

いずれ「見られる嘘」が「見られぬ誠」を駆逐するようになる。


それが、この国でいま静かに起きとることです。




🗒️ 官房長官の志語:


志とは、他者の視線が外れた後も、己に見られ続ける技術である。

“ログアウト後の自分”を、自ら審問する覚悟の名や。




光男首相:


……なるほどな。

ほんまの志ってのは、

裏アカでもブレへん一貫性のことかもしれんのう。


官房長官、次に教えてくれ。


“見られること”ばっかり気にしとる奴が――

志を語る資格、あるんか?


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