第1話:ここはどこ?

夜の風がカーテンを揺らしていた。

窓を閉める前に見上げた空には、月が静かに浮かんでいる。

「ふぅ……」

新学期、クラス替え、久しぶりの再会。

色々なことがあった一日を思い返しながらいつものように自分の部屋に戻った。

制服のままベッドに飛び込もうとする。

その時だった。

「……ん?」

ベッドの上に、見慣れない封筒が置いてあった。

誰かがいた気配はない。

でも、確かにそこに、“最初からあったように”置かれている。

表には、宛名も何も書かれていない。ただ、白くて分厚い封筒。

私はゆっくりと封を切った。

中に入っていたのは──たった一枚の、透き通るような花びらだった。

ほんのりと、光を帯びている。

「……きれい……」

そうつぶやいた瞬間。

部屋の空気が凍りついたように静まり返った。

花びらが、私の手の中でふわりと舞い──

次の瞬間、私は──ここじゃない、どこかへと引き込まれていた。


「──え……?」

気がついたとき、私は広い部屋の中に立っていた。

天井が高く、壁は大理石のように白く輝いている。

そして正面の、豪華な玉座には──一人の女性が、静かに座っていた。

まるでおとぎ話に出てくる王女様。

金色の髪、気品ある瞳、そしてこちらを優しく見つめる微笑。

でもそれ以上に、私の目を引いたのは──その横に立つ3人の姿だった。

「……陽弥くん!? 澄空……葉琉くんも……!?」

浅野陽弥、砂走澄空、伊藤葉琉。

私の知っている、あの3人が、私と同じ制服のままでそこにいた。

「澪菜!?お前も来たのか!」

陽弥が駆け寄ってきた。いつもの元気な声に、思わず胸がホッとする。

「うん……陽弥くんの顔見たら、ちょっと安心した……」

そう口にした瞬間、陽弥の耳が、ほんのり赤くなった。

「な、なんだよ急に……」

あたふたする陽弥の後ろで、澄空が腕を組んで小さくため息をついた。

「……はいはい、いつも通りね。」

葉琉は無言で頷いていたけど、その頬はほんのり笑っている気がした。

空気が、すこしだけ和らぐ。

「……ってかさ、ほんとにここどこなん?」

陽弥の声が響くこの空間には、まだ現実味がなかった。

玉座の前に立つ王女様らしき人は、何も言わず、ただ微笑んでいる。

すると──

「うわっ、なんかめっちゃ広〜い!なんだこれ!」

ドアが開いた瞬間、そこに現れたのは石森風華。

制服のままなのに、どこかドレスを着てるみたいな存在感。

その瞬間、場の空気がふわっと華やいだ。

「うわ、なんかテーマパークのVIPルームかと思った!え、みんなもいるじゃん!すみあ〜〜!みおな〜!」

ふうかが軽快に駆け寄ってきた。

金髪の王女と並んでも全く負けないビジュアル。流石すぎるよ...

「ってか、はるもいる〜!やば、なんかみんなでお泊まり会とか始まりそうな雰囲気なんだけど〜!」

「いや、全然そんなノリじゃないからな?」

陽弥がちょっと笑いながらもツッコむ。

「……ふうか、落ち着いて」

澄空がボソッと一言。

でも、こうやって明るく入ってきてくれるふうかの存在に、どこかホッとしたのも事実だった。

──しかし

その和やかな空気をぶち壊すように。

「ッ……なに今の音!?」

天井から、何かが──いや、誰かが、音を立てて落ちてきた。


ドスン!


「……いてぇ……どこだここ……」

そこにいたのは、高橋猛真。制服のまま、床に座り込んで頭を抱えている。

「……え、高橋くん?」

思わず口から名前が出た。

「え、なんでアイツ?」

陽弥が眉をひそめ、風華も一瞬口をつぐむ。

澄空は一歩引いた位置で静かに観察している。

猛真は、起き上がりながら、全員の顔を順に見渡した。

「……あー同じ学年の...わからね。」

その声に返事をする者はいなかった。

私たちは、彼とほとんど話したことがなかったから。

教室の隅の“イケメンでモテるけど、どこか遠い人”。

そんな彼が、突然ここに現れたことで、空気が一変した。



「ようこそ、みなさん!!」

王女は私たちをじっと見つめて、静かに話し始めた。

「皆さんが来てくれるのをどれだけ待ったことか!現実世界の皆さんをこの国に入れる魔法を探すところから始まって…感極まってきました…うぅ…」

「えーと…」

陽弥が首を傾げている他のみんなもキョトンとしている。

さっきまで威厳があった王女が涙ぐんでいるんだ、そりゃそーだよね。

ちなみに私もキョトンとしているうちの一人なんだけど。

「よくわからないから早く説明をしてほしいんですけど」

澄空が王女に向かって言った。

「あぁ、ごめんね。私の名前はフローリア・リゼルナ。フローリアって呼んでいいから!ここフローリゼルは、あなたたちの世界とつながりを持つ国。

昔、六人の魔法使いたちが現実世界とフローリゼルをつなげ、自然の恵みを両方に平等に行き渡らせられるように調整したの。」

「え…魔法使いって存在したんだ」

私は驚いて声を漏らす。だって空想の世界にしかいないと思ってたから。

澄空が冷静に続ける。

「それで、今は違うと?」

王女は少し息をついて話した。

「魔法使いは結構いたのよ、この国。今はあまりいないんだけどね。その中の老いた魔女がフローリゼルだけに自然の恵みを与えたくて反抗し始めたの。なんでかは謎なんだけど。んで現実世界に魔法で作った魔物を送りはじめて、当時の王女の強い魔力によって封じられたんだけど、最後の力でどちらかの世界が滅びればもう一方も滅ぶという呪いをかけたの。」

陽弥が大きく目を見開いて言った。

「え、ちょ、待てよ。なんかいきなり怖い話すんなよ!」

風華も不安そうに声を上げる。

「呪いって、どういうこと?全然わからないよ。」

王女は頷きながら説明した。

「今、その魔女の子孫が動き始め、少しずつ現実世界に魔物を送り込んでいる。

そしてその入り口が、あなたたちの通う“鶴花高等学校”がある場所なの。あなたたちの世界もそろそろ魔物が現れてくるわ。どちらかの世界が滅びればもう片方も滅びる。それを防ぐためにあなたたちを呼んだの」

葉琉が戸惑いながら尋ねた。

「なぜ僕たちだったの?」

王女は答えた。

「もう頑張ったの魔法を探すの!そしたらね、宝石が選ぶ的なこと書いてあって魔法をかけてそしたら高校で話したり寝てるあなたたちが映ってて、それで呼んだって感じ!なんで宝石があなた達を選んだかはわからないわ!」

「そこはわからないんかい!」

陽弥がツッコむ。女王の全く威厳の感じない話し方で少しずつ空気が和らいでいる。

…謎なのは変わらないけど。

「で、宝石ってなに?」

澄空が話を戻す。

フローリアはゆっくりと立ち上がり、静かに手を差し出した。

「今、あなたたちにはそれぞれ、特別な“属性”が宿ってるの。

このペンダントに入ってる宝石がさっき言ったものよ。なければ魔法は使えない。どうか、常に身につけていてね。

普段は現実世界の人には見えないけど、魔法を使う時は見えるわ」

「え、私たち魔法使えちゃうの!」

風華が大はしゃぎ。フローリアはにっこり頷く。

「その魔法を使って魔物を倒してほしいのよ。」

「「「「「は?」」」」」

「なにそれプ◯キュアみたーい!!!」

風華は相変わらず大興奮。その他5人はぽかん。

いきなり現実世界の平和を任されたってことだよね、?

これもしかして戦って命落とすみたいなのとかあるのかな?

私はいくら考えても答えが出ないのを頭の中でぐるぐる考えていた。

フローリアが私の前に来たから一旦置いとくとしよう。

彼女の差し出した箱が開くと、中には1枚の花びらの形をしたペンダントが並んでいた。

一人ひとりに渡されてすべて違う色で輝いている。

「一人ひとりに魔法の内容を伝えるわね。まずは澪菜。」

いきなり真剣な眼差しでフローリアが私を見つめてくる。

「青──水。あなたは水を自在に操ることができます。水を生み出したり、水中では人魚のような姿になることもね。」

青い花びらのペンダントが手渡される。

私は少し戸惑いながらも、しっかり受け取った。

「えっ、私が水…? なんか想像つかないけど、キレイそう。」

「次は澄空。あなたは水色、氷です。自由な形に氷を作り、物を凍らせることもできます。雪を降らせることもできるでしょう。」

澄空に水色のペンダントが手渡された。

彼女は冷静な目でペンダントを見つめ、落ち着いた声でつぶやく。

「凍らせる…少しは役に立ちそうだね。」

「次は風華ね。風の魔法よ。竜巻を起こしたり、風を自在に吹かせることができます。空を飛ぶこともできるわ。」

風華には透明なペンダントが渡される。

「え!飛べるって!めっちゃテンション上がる!!」

「炎は火を生み出し、燃やすことができます。」

陽弥に赤いペンダントが渡される。

「うわ、熱っ……って、マジかよ。俺、炎?てか説明他の三人より短すぎない?」

「動物の力は、好きな動物の能力を使えます。牙や爪、俊敏な足など、自在に変化できるのです。」

猛真にオレンジのペンダントが渡された。

彼はずっと黙ってたけど個々で初めて喋った。

「動物の力か…ちょっと面白そうだな。」

欠伸をしながら言った。

「最後は植物。自由に植物を操れます。ツルを伸ばして移動したり、縛ったりも可能です。ただし花を咲かせることはまだできません。」

葉琉に緑のペンダントが渡された。

彼は優しく微笑みながら言った。

「自然の力…守る力になりたいな。」

フローリアは全員の顔を見渡しながら、優しく言葉を続けた。

「これからあなたたちは、この力を使い、現実世界に現れる魔物を倒してください。私たちも研究を続けます。質問はあるかしら?」

「ねぇ、それっていつまでやるん?」

猛真が言った。ダルそうな感じで。

「今のところその魔女の子孫を封印するには水晶玉が必要ってことしかわかってなくて、何個必要とかどこにあるかとかもわかってないの。研究が進み次第あなた達に伝えるわね。」

「まだわかってねぇのか、じゃあとりあえず魔物から現実世界を守ることしかできないってわけだな」

続いて風華が

「ねぇねぇ!こーゆーのって大体規則とかあるじゃない?そーゆーのないの?」

「あっ忘れてた!!!!あなたファインプレーよ!!」

フローリアがそばの机の棚から巻物を取り出した。

「この規則読んでおいてね!破ったら魔法消えちゃうから!」

「えっ、一番忘れちゃだめなやつでしょ、、」

澄空がツッコむ。本当に女王って感じがしないな。

「それじゃあそろそろ時間だから現実世界に返すわね。この国にいた時間は現実世界は止まってるから一分も進んでないわ。だけどずっとこっちの世界にいるとあなた達が疲れちゃうから。」

さっきの花びらは消え、次はペンダントが光りだした。

「まったねー!」

風華の声を最後に私達の周りは暗くなった。

そしてベッドの前に戻っていた。


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【魔法使用に関する規則】

第一条

魔法の使用は周囲の安全と調和を最優先とし、無闇な暴走や乱用は禁止される。


第二条

魔法の行使は体力と精神力に負担をかける。過度な使用は疲労や意識障害を招くため、適切な休息を必ず取ること。回復魔法は疲労回復に役立つが、万能ではない。


第三条

魔法はペンダントを通じてのみ発動可能であり、ペンダントを紛失・破損した場合は魔法の使用が不可能となる。


第四条

ペンダントは現実世界の人間には見えないため、常時身につけて隠密性を保つことが求められる。


第五条

魔法の力は仲間同士で共有し、助け合うこと。個人の能力に過信せず、チームワークを重視すること。


第六条

規則違反や無謀な魔法使用が確認された場合、即座に魔法の使用権を停止される可能性がある。


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