六花一輪
@tamatamanarunaru
第0話:始まりのはじまり
春の光が教室に差し込んで、机の上をほんのり金色に照らしていた。
私は伊東澪菜(みおな)。高校2年生。
まだ4月。けれど桜はもうほとんど散って、風に運ばれた花びらが、窓際の席にふわりと落ちてきた。
「……また落ちてるよ、いる?」
目の前の男子が、そっと花びらを摘んで私の机に置いた。
彼の名は伊藤 葉琉(はる)。出席番号が近いから、2年A組で自然と前後の席になった。
「もらおっかな、きれいだし、!はるくんありがとう!」
彼は一回頷くとクルッと前を向いて読書を始めた。
「みおな、これ、家庭科のプリント。配ってって先生が」
後ろから声をかけてきたのは、砂走 澄空(すみあ)。
無口で冷静。でも、私が困る前にいつも手を伸ばしてくれる。
何も言わなくても、彼女の視線はずっと私を見てる気がする。
たぶん、誰よりも私を分かってくれてる──そんな幼馴染。
「は〜〜い、ちょっとどいてどいてぇ〜!」
教室のドアがバンッと開いて、ひときわ明るい声が響いた。
石森 風華(ふうか)が、両手にプリントを抱えて登場する。
「みおな聞いてよ!今日も先生に“また居眠りしてたな”って言われてさ〜」
彼女はとにかく可愛い、そしてモテる。
入ってきただけ教室内の数人の男子の目はハートに、、
私と澄空とは幼馴染。昔から一緒で、すぐ笑って、すぐすねる。
でも、ふうかはそういうところも含めてだいすきなんだ。
「何また騒いでんだよー、うるさいぞー?」
浅野 陽弥(はるや)。
別クラスになっても、私の幼馴染で、昔からずっとそばにいてくれる。
そのくせ、「家が近所だから」って何でも片付けられるけど私のこと助けてくれるお兄ちゃん的存在。
「ふうか、お前今日も寝てただろ。英語のノート取ってなくて、貸せって言ったくせに返ってこねぇし」
「うっさい!その話は終了〜!はい、陽弥もプリント手伝って〜」
「……はいはい、うるさい」
二人の口喧嘩(?)をすみあが止める。このやり取りを何回見たんだろうか。
そんなにぎやかな空気の中、ひときわゆっくり、ひとりの男子が教室に入ってきた。
高橋 猛真(けんま)。
2年C組で、学校中の女子に人気なイケメン界の寝坊助代表と噂されている。
ファンクラブもあるらしい。
「伊東さんだっけ、?ごめんだけどB組の分のプリント混じってない?」
「あ、もしかしてこれかも!どーぞ!」
「さんきゅ」
ちょっと目をこすりながらプリントを受け取り欠伸をしながら教室を出ていった。
教室にはもう夕方の光が差し込み始めていた。
風がふわっと吹き抜けて、花びらが、六枚──どこからか、ふわりと舞い込んだ。
「……花って、一枚だけじゃ咲かないんだって」
ふうかがぽつりとつぶやいた。
私が「え?」と聞き返す前に、陽弥が笑った。
「そりゃそーだろ」
だけど、その言葉の意味が、ほんの少しだけ胸に残った。
いつもの放課後。
だけど、何かが少しずつ動き始めている──
そんな気がした。
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