第11話 自分の立ち位置②

 「なら私からも。

 今の話は嘘ではないけど、少しブラインドがかかってる。」

 ミコさんが指摘する。


 フレスコ画もどき神父は表情を変えない。

 沈黙を続ける。

 ミコさんは自分に向られた、発言を促す沈黙ととる。


 「は、いずれ分かるからという事ですか?カンヌ神父?」


 ミコさんが問う。ダメ親父神父の名前ををまともに役職付きで呼んでるよ。

 真面目な話過ぎてこえー。

 てか「その部分」て何さ。


 「彼らから頼まれたのは伝言までだよ。それ以上も以下もない。ただ、この先はトールくんに委ねるべきだと、私は思っている。

 そのために、彼の成長を手助けすることに全力を尽くしてみようと思う。」


 やや抽象的な物言いだけど、何だか信頼はしてもらっているようだ。


 「なるほど。では彼が何者なのか理解されたのですね。」

 とミコさん。何者なんすか?自分?


 「ああ。その言い方からすると、君は私よりも早く確信を持っていたということだね。」

エセダンディ神父


 おうおう。めちゃくちゃワシ置き去りやな。


 「分かりました。あなた神父」の判断を尊重します。

 その上でここからは私が話しても?」

とシスター。

 真面目継続中中年神父はコクリと頷く。


 「トールちゃん。君はね、「魔物の王」と戦う運命を背負って生まれた、「勇者」の資質を持つ者よ。

 そして、神父とワタシは「勇者」の成長を促す「導き手」。あなたを今日から徹底的に鍛えます。」

 ポカーン。とあほズラにならないように精一杯頑張る。

 って、そういやRみたいな《特別サポート》オペレーターがついてる時点で薄々気づくべきか。

 なかなか刺激的な人生やんけ。


 「私は高位神官ハイ・プリーストなの。死者の蘇生はまでは力が及ばないけど、防御術、結界術、回復術はお手のものよ♡だから安心して無茶して良いからね♡。」

 ミコさんの目が怖い。


 「改めて、私はパラディンだ。

 剣術と光属性、聖属性攻撃全般を修めている。ご両親からすれば最低限の通過条件だ。

すぐに追い抜かれないよう精々頑張るよ。」

 贋作パラディン神父も目が怖い。


 二人とも、いきなり修行モードに入る前にもう一つ教えてクレイジー。


 「もう一つ教えて欲しいんだけど。俺の額にある石、何ですかこれ?」


 シスター・ミコが答える。


 「トールちゃんを「勇者」って断定したでしょ?そもそも私は教会にいる巫女から知らされる「神のお告げ」で勇者としての君がこの地にいる事を事前に知っていたの。

 「神のお告げ」って仰々しい言葉で伝えられるから解釈難しいんだけど、君のことに関するお告げは比較的分かりやすくてね。

 キーワードが絞り込みやすくて、ピンポイントでこの孤児院がお告げの場所だって分かったの。

 加えてもう一つの根拠が君の額に輝く「石」。

 これは特別な勇者の証よ。

 ただ、教会の記録の中にも詳しく載っていなかったわ。っていうか、少なくとも私が見てきた資料の中には数名分程度しか「石」持ちの勇者に触れている箇所がなかったの。

 長い「魔物の王」との戦い歴史、その中でも出現率の少ない希少な「勇者」なのではないかということが予想できるわ。」

 と、ミコさんがサラサラ重要ワード満載で俺の質問に3倍返しで答えてくれた。


 「私からもいくつか。

 私は王族特務所属の諜報員だ。

 二重の身分として「神父」の立場にもあった訳だが、一応「パラディン」だ。

 信仰に偽りは無いよ。


 組織の知識から掘り起こして今のシスターの説明を補足すれば、その「石」を持つ「勇者」の出現が最初に確認されたのは、3000年前だったはずだ。

 そして、人種の4分の3が失われたとされる、史上最も犠牲の大きかった「魔物の王」との戦いにおいて、命と引き換えに王を討ち取ったのは「石」を持つ「勇者」だったそうだ。

 絶望的な状況が秘めたる力を解放させたのかもしれない。

 残念ながら、その勇者も帰らぬ人になったからそれ以上の詳細は不明だ。

 いずれにしても君は貴重な存在ってことだね。」


 ・・・。

 そうか。

 俺の使命は、この世界の平和を乱す「魔物の王」を討ち果たすことか。


 ・・・

 ・・・・・

 やっべ。メチャクチャ燃えてきた。


 モチベーションブチ上がりだ。

 後でRともミーティングしないとな。

 無駄な時間なんて1秒もねーぞ。


 「つい先日行われた「諸王会議」で、「魔物の王」出現の兆しを認めた」との公式発表が世界に向けて発信された。

 出現の「兆し」を認めてから「魔物の王」出現までの猶予は15年〜20年。

 君をはじめ「勇者」の資質を持つ者は、この間にできるだけ強くならなければならない。

 ・・・。

 覚悟は良いかね?」


 パラジクロルベンゼンパラディンが真剣な目で俺の意志を確認してくる。


 「やります。今から早速お願いします!」


 「では早速・・・と言いたいところだけど、今からするのは旅支度だ。」

 とパラディンパラフィンさん。


 ?旅?どっか行くん?


 「「導き手」と「勇者」は本当の意味で一切の時間を修行に費やすの。

 そのための「場所」が用意されているわ。

繰り返されてきた「魔物の王」の災禍にこの世界に住むものは国を超えて団結するの。

 全ての国から出資されて運営されている「修行場」へ、支度ができ次第向かうわよ。

 もちろん、あなたの希望どおり、道中も余すことなく修行三昧よ♡」


 スゲー。この世界スゲー。


 まだまだ実感が湧かないけど、元社畜だからこそ、夢みがちなファンタジーゲーム好き人間の俺はワクワクが止まらない。


 前世においては体験したことの無い、刺激的な修行と成長の日々が続くの間違い無し。


 かなり難しい課題設定だけど、至って分かりやすくて、かつ、な訳で。


 俺の性分なんだと思うけど。

 達成難易度高いけど、やればできるからマジで燃えてるよ。


 救ってやるよ世界。

 ご指名受けて腰が引けるほど廃れちゃいない。


 首洗って待ってろや。「魔物の王」。




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