第8話 男爵様のお悩み事一
僕たちは牛車に乗って村の中心部にやって来たよ。この村は中心部に住宅街があって、僕たちが入ってきた西側に畑があり、東側には家畜小屋があるんだって。南側はこの村を治める領主が今後の為にと整地だけしてあって、北側に領主である伯爵家の別邸と代官として寄子である男爵の屋敷があるそうだよ。
誰に教えてもらったかって? 今僕の目の前にいる商業ギルドのギルドマスターにだよ。
結局僕は身分証明を商業ギルドで作る事にしたんだ。ギルド会員になる為に必要なのは一人銀貨五枚だったから小町とついでにセレネスのも作ったよ。
「あの、マンバさん。
なんてセレネスは言うけどあのアルバート王国の王家の者だなんて知られたらあちこちで問題が起こりそうだからね。だから、
「いやいや、庶民の振りをして貰わないと僕たちが困るからね。セレネスさんの親御さんは色々と問題がありそうだから普段はこの身分証明を使うようにしてよ」
そう言ってセレネスにも納得して貰ったよ。
「それでですね、マンバ様。もしよろしければ
「それはどれぐらいですか?」
僕がそう聞くとギルドマスターのランクーンさんはソロバンを出して計算しだしたよ。
パチパチ弾いてるけどあれは計算してるんじゃなくて頭の中を整理してるんだと思う。
「取りあえずのところですが、作る許可という事で金貨五枚。それと一台売れる事に売り上げの五パーセントをマンバ様の口座に振り込み致します。いかがでしょうか?」
不労所得って良いよね!
僕の亡くなった祖父ちゃんも良く言ってたよ。
『
そういう祖父ちゃんは働かないで収入を得ていたよ。年金っていう名の不労所得をね…… 若い頃はがむしゃらに働いてたそうだけど、僕には若い内から働かずに済む方法を考えろって口癖のように言ってたよ。
だから何にせよ働かずに得られる収入は確保しておかないとね。僕は契約書をランクーンさんとちゃんとかわすことにしたよ。
一字一句をしっかりと読んでこちらに不利になるような条項が無いことを確認して僕はサインをしてからランクーンさんに言ったよ。
「この契約は神様との約束となります。なのでどちらかが条項を破った場合には神罰が降る事になりますからね」
「はっ、はい! 勿論です!」
ちょっと脅したようになっちゃったけどまあそこは許して欲しいかな。さてとそれじゃ牛車を見てもらおう。
表に出て停めてある牛車をランクーンさんと職人さんに見てもらう。勿論だけど中は平安時代の牛車仕様にしてあるよ。
「なるほど、外見よりも中は少し広く感じられるのはこの板が薄いからですか」
職人さんが気がついた事をポツリと呟いた。
「村から街などへの移動には向かないかも知れませんが、村の中や他の街の中での移動には良いかもしれませんね」
この世界には魔物や魔獣が居るからね。僕たちのように神様を牽引牛として扱えるならともかく普通の牛だと魔物や魔獣にはご馳走が歩いてるって見られても仕方がないからね。
「そうだな。出来上がったならば男爵様に先ずは献上してみて反応を見てみることにしよう」
ランクーンさんは職人さんとそう話をして僕たちの方に向き直った。
「マンバ様、貴方様が何処か別の国の貴族であらせられる事は私どもには分かっております。なのでもしもよろしければ私共の村全体の統治をされております男爵様にお会いになって下さいませんか? 男爵様はこの村を含む領地を陛下より任されております伯爵様の弟君なのですが、最近は何かお悩みのご様子なのです…… 私どもには心配するなといつも笑顔でお応えして下さいますがお顔の色が優れない日が続いておりまして…… もちろん、マンバ様にも何も言わないかもしれませんがどうかお願い出来ますでしょうか?」
ちょっとちょっと、確かに僕の職能は平安貴族だけれどもその前はただの田舎の高校生だったんだよ。それもヲタクで陰キャの…… そんな僕がこの世界のお貴族様の悩みなんて聞いても何も解決なんて出来ないよ。
そう思って断ろうとしたんだけどここで小町が口を挟んできたんだ。
「急ぐ訳じゃないし〜、良いんじゃない万っち〜」
「有難うございます、奥方様!!」
ランクーンさんが盛大な勘違いを発揮してくれたよ! 小町は僕の奥方様じゃないですよ!?
けれどもランクーンさんの言葉を聞いた小町が浮かれている。
「エヘヘ、奥方様ってことはアタシが万っちの奥様って事よね? エヘヘ、周りからはそう見えてるのかな? ハッ!? それじゃセレちゃんはどう見えてるのかしら? 二号さんかな?」
何やらブツブツ言ってるが勘違いしたランクーンさんが話を進めていた。
「いま男爵様に魔法通信を送りまして了承のお返事をいただけました。マンバ様、これからご案内致しますので男爵様のお屋敷に参りましょう!!」
いやあの、僕は了承してないんですけどね…… って言っても通じなさそうだね。
仕方がないから僕も頷いて了承したんだ。
で、ランクーンさんはロバに乗ってカッポカッポとのんびり案内してくれて、僕たちも牛車でギシギシ言わせながらのんびりと男爵様のお屋敷に向かったんだ。
屋敷はとても大きくてびっくりしたけどこれでも小さい方なんだって。ここは村だからこの規模らしいんだけど街のお貴族様の屋敷ってこれより大きいんだと思ったよ。
門を通って敷地内に入ると玄関前に使用人らしき人たちがズラリと並んでいるよ。玄関前には一組のご夫婦らしき人が立っている。
あの人が男爵様だろうね。確かにランクーンさんが言う通り何か思い悩んでいる顔をしているね。ちょっとやつれ気味に見えるよ。
ランクーンさんが手前でロバから降りたので僕たちも牛車を停めて降りる事にした。
降りると並んでる人たちに一斉に頭を下げられたからびっくりしたよ。おっかなびっくりで前を進むランクーンさんについていく。
玄関前に立つ二人の前につくとランクーンさんが僕らを二人に紹介してくれたんだ。
「イモネ様、アリア様、お元気そうで何よりでございます。今回は急な事をお願いしたにも関わらずにこうしてお時間を取っていただき誠に有難うございます。こちらにおられるのが他国の貴族さまであるマンバ様と奥方様のコマチ様にございます。セレネス様については内密にお願い致しますね……」
ん? 何だかセレネスについて知ってるみたいだけど……
「気にするなランクーン。お前の頼みならば聞いておかないと後が怖いからな。初めましてマンバ殿、コマチ殿。お見受けしたところ東方のお国の出だと思われますが。私は兄よりこの村の統治を任されておりますイモネと申します。こちらは妻のアリアです」
「初めましてイモネ殿。僕は確かに東方の貴族ですが今はお忍びですのでどうかご内密にお願い致します」
まで言ったところで小町から脇腹をツンツンされた。分かってるよ小町。誤解をちゃんと解いておかないとね。
「それからこちらは僕の友人である小町とセレネスです」
そう言って紹介したら小町から膝カックンされてその場で
「はしめまして〜。アタシは万っちの奥方でコマチって言います〜。セレちゃんは万っちの二号さんです〜」
ちょっ!? 何を言っちゃってるのかな小町?
僕が転けたまま呆然としてたらイモネさんが何やら納得してるよ。
「なるほど、セレネス様をお守りする為にそのような偽装をされているのか。さすが噂に聞く東方の貴族だ」
うん、何だか分からないけど偽装だって思ってくれてるなら良いかな。それにしてもイモネさんもランクーンさんもセレネスの正体に気がついてるみたいだね。
「このような場所で長話をするのは失礼にあたる。どうぞ中に入って下さい」
「それではイモネ様、私はこれにて失礼します」
「ああ、ランクーン。有難う」
そうしてランクーンさんがロバに乗って去った後に僕たちはお屋敷の中に招待されたんだけど、何故か女性たちは女性たちだけで、僕は対面でイモネさんと向かい合っていた。
「その〜、何だ、マンバ殿」
「はい何でしょうイモネ殿?」
何やら言いづらそうにしているイモネさん。けれども僕は聞き返す事しか出来ない。陰キャの僕に相談事なんて無理だからね。
「ランクーンから何か聞いてはいないか?」
「イモネ殿が何かに悩んでおられるようだとしか聞いてませんけど」
うん、丁寧語だと噛みそうになるよ。使い慣れてないからな〜……
「そうなのだ、私には切実な悩みがあるのだが庶民に相談などできなくてな…… それでランクーンからマンバ殿が他国の貴族で誠実な人柄であると聞いてな…… どうか私の悩みを聞いてくれないだろうか? 解決策を出して欲しいというのではなく、ただ話を聞いてくれるだけで良いのだ」
話を聞くだけなら何の問題も無いよね。
「良いですよイモネ殿。話をお聞きしますよ」
僕の返答にホッとした顔をしながらイモネさんは悩みについて話し始めたんだ。
うん、聞くんじゃなかったよ。僕はイモネさんにリア充(タヒ)ねって殺意を抱いたからね!
貴族? いいえ平安貴族です! しょうわな人 @Chou03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。貴族? いいえ平安貴族です!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます