第3話 職能とスキル
まあ僕はお腹が減ってたから
良かったよ、冷める前に食べ始めてくれて。そして大盛りをあっという間にたいらげた御前さんはトイレに行って戻ってきて椅子に座り真剣な表情で僕に聞いてきたんだ。
「万っち…… 聞きたい事は沢山あるけど…… どうなってるの?」
さすが勉強は嫌いなだけで地頭が良い御前さんだ。聞きたい事を全て「どうなってるの?」の一言にまとめてきたよ。ならば僕も簡潔に答えないとね。
「僕の職能とスキルが良いからだよ、御前さん」
「ウソでしょ!! だってアタシも万っちも役立たずって事で追放されたんだし!」
「ああ、それはあのバカ国王や他のクラスメイトたちの勘違いなんだよ。僕もそうだけど御前さんの職能もスキルも途轍もないモノなんだよ」
僕がにこやかにそう言うと御前さんからは疑いの目が注がれているよ。ホントの事なのに……
「だってアタシの職能ってにょっ、【
僕は御前さんの言葉に陰キャの僕が絶対にやらない仕草をして否定したよ。そう、人差し指を顔の横に持ってきて左右に動かして「チッチッチッチッチッ」って昭和のイケメン俳優がやる仕草だよ。
「御前さんの職能は正しくは【上の女房】で、スキルは【
って言ったら御前さんは辛抱堪らんという感じで吹き出したんだ。
「プッ、アハハハッ!? ま、万っち、似合わないねぇーっ! アハハハッ!!」
御前さんに笑顔が戻って良かった。もちろん僕だって似合わないのを承知でやったんだからね。ホントだよ!
ひとしきり笑った後に真面目な顔に戻った御前さん。
「万っち、ステータスを確認しろって言ってもあの水晶が無いと見れないよ。アタシ、途中で【ステータス】とか【ステータス・オープン】とか小声で言ったけど出てこなかったし……」
ちょっとだけ顔を赤くして言った御前さんはとても可愛らしいね。僕はこの可愛らしい御前さんを必ず
「うん、それじゃ恥ずかしさを堪えてもう一度ステータス・オープンって言ってみてよ!」
僕の言葉に更に顔が赤くなったけどそれでもちゃんと言ってくれる御前さん。やっぱり可愛いなぁ。
「ステータス・オープン!」
「ステータス可視化!」
御前さんの言葉に合わせて僕もスキルを発動しながら言った。すると御前さんの目の前には透明ボードが現れたんだ。
「出たっ!? 出たよ、万っち!!」
「うんうん、出て良かったね御前さん」
御前さんのステータスは
【名前】
【年齢】十七歳
【性別】
【出身】やんごとなき身
【
【職能】
【心身】
体力∶五十五
気力∶六十
魔力∶百
風流∶二十
風雅∶八十
侘び寂び∶十
【
❨十二司❩
内侍司(学問や礼)
蔵司(保管)
書司(書や楽器)
薬司(薬)
兵司(兵器)
闡司(鍵)
殿司(灯油、薪炭や灯火)
掃司(掃除、清潔)
水司(水)
膳司(食事)
酒司(酒)
縫司(衣服)
ね、凄いでしょ? 一人で何でも出来るスーパーウーマンなんだよ。本来は一人で十二司なんて無理なんだけどさすが異世界だよね。スキルとして発現するんだから。
「万っち、アタシはゲームも良くしてたけど、気力や風流や風雅って何? それに侘び寂びって分かる?」
質問が来たから僕は誠実に答えたよ。
「御前さん、体力や魔力よりも大切なのが御前さんが言った気力、風流、風雅、侘び寂びだよ。平安貴族として最も重要だと言っても良いと思うよ」
誠実に答えたけれども御前さんの顔にはクエッションマークが浮かんでいるよ。勉強嫌いだったからねぇ…… でもちゃんと教えたら地頭の良い御前さんなら理解してくれる筈!!
「万っち、平安貴族って? アタシも万っちも現代に生きる人だよね?」
なるほど、そこが納得いってないんだね。ならば答えは簡単だよ!
「御前さん、職能だよ! 御前さんの職能は上の女房! つまり平安時代にあった職能なんだ! それにより多分だけど他のクラスの人たちには無い
「そ、そうなの? でも万っちは? 確か貴族だったよね?」
そこで僕は再び出番が来たと思い例の「チッチッチッ」を再演したよ。また御前さんの笑顔が弾ける。う〜ん、ホントに可愛いね。
「僕の職能は【平安貴族】だよ、御前さん。待ってね。僕のステータスも出すから」
そう言って僕は自分のステータスを出したんだ。
【名前】
【年齢】十七歳
【性別】
【出身】働かざる者
【
【職能】平安貴族
【心身】
体力∶三十
気力∶十恒河沙
魔力∶百那由多
風流∶十
風雅∶十
侘び寂び∶千阿僧祇
【
❨五十一音❩
【あ
職能【平安貴族】の補正として濁音・半濁音はオマケとしてついてくる。
「えっ!? ひっくっ! 何で僕の体力や風流や風雅はこんなに低いんだ!? これじゃ平安貴族として失格だーっ!!」
「いやいや、【そこ】もだけど、【そこ】だけじゃないってっ!! 万っち!!」
横から僕のステータスを見た御前さんからツッコミが入ったよ。でも僕はそれどころじゃないんだ。だって
「いったい万っちのスキルって何なの? 【あ行・か行・さ行・た行・な行・は行・ま行・や行・ら行・わ行・ん】で五十一音って事なのは分かったけど、ことだま? 創造? イメージ? 創造魔法って事なの?」
むう、今はそれどころじゃないけど可愛い御前さんからの質問を無視したりはできないね。
「創造魔法じゃないよ。平安貴族は【働かない人の代名詞】なんだから、働かずに生活できるようになってるだけだよ」
「いや、万っち…… そんなドヤ顔で言われてもアタシにはイマイチ分からないんだけど…… 【働かない人の代名詞】だから万っちのスキルは言葉で物を創造できるって事なの?」
「さすが御前さん! 飲み込みが早いね!」
「いや〜、それほどでも…… って飲み込んで無いからねっアタシ! やっぱりわけが分かんないよ万っち!」
あれ? 今ので聡明な御前さんなら分かってくれると思ったんだけどダメだったようだね。
「えっとね、僕は平安貴族なんだよ御前さん」
「それは分かったけど」
「という事はね、遊んで暮らす使命があるんだ!」
「いや、それが分からないの。だって平安貴族だって遊んでた訳じゃないでしょ? 左大臣や右大臣とかちゃんと仕事をしてた人も多くいたじゃない」
「それ! そこが間違いの元なんだよ御前さん。僕が思うに実際に仕事をしてたのは下々の人たちで役職についてた平安貴族は『そちの言うようにしてたもれ』って言ってただけなんだよ!」
「万っち…… まるで見てたかのように言うけど、本当なのかな?」
「間違いないよ御前さん。でも僕は御前さんを護る為には仕事をするから安心してね!」
なんて会話をしてたら僕の作った聖域にちょっかいをかけてくる人が居る。
完全なる遮音をしてるから何も聞こえないけどあの慌てぶりからして助けて下さいって言ってるように見えるね。
あ、御前さんも気がついちゃったよ。
「ねえ、万っち…… あの女の人が助けてって言ってるようにアタシには見えるんだけど」
「御前さんもそう見える? 僕にもそう見えるんだ。気が合うね僕たち」
「助けて上げないの?」
「えっ!? だってあの女の人は御前さんじゃないし、この王国の人だからひょっとしたら国王か賢者に言われて僕たちを追ってきた人かも知れないしね」
「でもあんなに必死そうだよ」
「う〜ん…… 僕としては御前さん以外の人はどうでも良いんだけどなぁ……」
「前から思ってたけど万っちって人に冷たいよね? でもアタシだけには優しいのはどうしてなの?」
「えっ!? だって御前さんだけだったからね。僕に普通に人として声をかけてきてくれたのは。他の人たちは僕なんて居ないかのように無視するか、化け物か汚物かのように嫌悪するかのどっちかだったからねぇ」
そんな話をしてたら慌ててた女の人がとうとう僕たちに背を向けて座り込んだんだ。で、その女の人が見てる方角からは大きな鬼さんが現れたよ。あれがオーガっていう魔物かな?
ヨダレを垂らしてるから完全に女の人を餌として見てるみたいだね。まあ、元の世界もそうだったけど弱肉強食は世の
って僕が心の中で女の人に手を合わせてたら御前さんが飛び出して行ってしまったよ。ああ、もう!! ホントに優しくて可愛いなぁ。
仕方がないから僕は聖域を少し変化させたよ。
「聖域展開、二点中心に変更」
という訳で僕と御前さんの二点を中心とするようにしたから現れたオーガくんは僕の聖域に含まれちゃって……
何故か御前さんに土下座してるよ。
「申し訳ございません!! あなた様の獲物とは知らずに横取りしようとしてしまいました。この罪はどうか私めだけに留めていただきますようお願い申し上げます!!」
土下座されてキョトンとなってる御前さんは可愛いね。ついでに襲われそうになってた女の人もキョトンとしてるけど……
良く見たらドレスみたいなの着てるから関わり合いになりたくないなぁ……
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