第2話 追放

 僕と御前みさきさんが追放されようという時に最低野郎が何か「御前は俺の嫁だ!!」とかゴチャゴチャ言ってたみたいだけど、それは完璧に無視されて城門から放り出されようとした時に……


「少し待て、その者たちと話があるのだ」


 さっき国王に賢者って言われてた人が兵士に言って引き止めたんだ。


「このような事になり本当に申し訳ない…… 出来れば君たちも城で保護したかったのだが陛下の決定は覆らなかったのでな…… ここから先は内緒の話だ」


 そう言うと賢者は何か呟いた。


「これで我らの声は周りには聞こえぬ。この国は狂っているのだ…… この国の賢者たる私が言うのもなんだがな…… 陛下は魔神討伐と君たちに言ったと思うがそもそも魔神様は悪神ではない。魔法の神様として崇め奉られている神様なのだ。それを討伐しようなどと突然に言い出してな…… お諌めしたのだが聞き入れてもらえなかった。今ごろ城中では君たち以外の者たちは陛下より元の世界に戻るには魔神を討伐する以外ないと嘘を教えられているだろう。しかし魔神をもしも倒せたとしても元の世界に戻るのは出来ないのだ。君たちは元の世界では居なかった事になっているからな…… 本当に申し訳ない……」


 そこで賢者が一息ついたから僕はすかさず言ったんだ。


「いえいえお気になさらずに。それじゃ僕たちは追放された身分なのでこの辺で失礼を……」


 退場しようとしたけどダメだったよ。


「いや、待つのだ! 何も持たせずに放り出したとなれば陛下の悪名が更に広まってしまう! なのでコレだけは受け取って欲しい。銅貨、銀貨を合わせて金貨十枚分の当分の生活費だ。これだけあれば暫くは苦労せずに暮らして行けるだろう。庶民のひと月の収入が凡そ銀貨三十枚だ。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚となる」


 そう言ってクソ重たそうな革袋を僕に手渡して来たんだ。持ってみたら本当にクソ重たかったから思わずその場で要らないって言いそうになったよ。まあ受け取っておいたけどね。


「ああ、それとコレを」


 そう言って更に鞄を御前さんに手渡したよ。


「これは魔法カバンだ。中は空間魔法を使っていて思ったよりも多くの物が入るようになっている。さあ、私が出来るのはここまでだ。最後にこの王都を出ていくならば南門に向かうと見せかけて徐々に西に進路をとり西門から出ると良いだろう。南門と東門から出ると隣国までの距離が遠いうえに魔物や魔獣も多く出るのでな。なので西門から出た方が良い。それでは二人とも道中気をつけて。この程度の援助しか出来ずに済まない……」


 やっと長い話が終わったよ。僕はアッサリと賢者に向かって言った。


「うん、色々と有難うございます。それじゃ僕たちはコレで失礼しますね」


 僕はクソ重たい革袋を御前さんの持つ魔法カバンに放り込みそれを手にしてそう言ってから御前さんと一緒に賢者の前から失礼したよ。


 暫く歩いてたら御前さんが僕に話しかけてくる。


「ねえ万っち、アタシたちこれからどうするの? こんな知らない世界で生きていけるのかな?」

  

 その言葉はいつも明るい御前さんらしくないとても沈んだ声だったから僕は意識して普段は使わない声のトーンで答えたよ。


「大丈夫だよ御前さん。僕と御前さんが揃ってるんだから悠々自適で暮らしていけるよ!!」


 僕の楽天的な言葉が御前さんには全然とどいて無いのは分かったけど、まさか更に暗い声で反論されるとは思わなかったよ。いつも明るい御前さんが暗い声を出してるのはツライなぁ。


「でも、万っち…… この世界だと一人も知り合いが居ないし、親も居ないんだよ…… アタシ気がついたんだ…… アタシが自由を感じてたのは親っていう大人の保護下にあったからなんだって…… それが無いこの世界だと不安ばかりが募ってきてて……」


 う〜ん、御前さんがマイナス思考になってるね。これはダメだ。早く安心させて上げないと。でもここでは不味いなぁ。


「御前さん、僕は根拠なく大丈夫だって言ってる訳じゃ無いんだ。この王都を出たらちゃんと証明するからもう少しだけ僕を信じてついて来てくれる?」


 まあ僕は日本ならアイドルと言われてもおかしくない御前さんと一緒に居られるから本当に浮かれていたんだけど、その御前さんが安心できるように少し働く事にしたんだ。


「ん、分かった…… 万っちを信じる……」


 僕は御前さんに嘘を吐いた事が無いからね。少しは信頼されてるんだ。だからもう少ししたら御前さんを安心させて上げれるからね。


 それから僕は南に向かいながら少しずつ東にズレていく。賢者が言ったのとは逆の方向だね。


 御前さんはその事に気がついて無いけどそれはそれで良いんだ。さてと門が見えてきたよ。周りにはあまり人が居ないし僕たち二人を見てる人も居ないようだ。だから僕は僕自身と御前さんも含めるイメージをして言葉を小さく唱えたんだ。


隠蔽いんぺい……」


「ん? 今何か言った万っち?」


「ううん、何も言って無いよ。それよりあそこの門を出てから僕が良いよって言うまで喋らないようにしてね御前さん」


「う、うん。万っち分かった……」


 それから僕はそのまま門まで行って何食わぬ顔で検問を受けてる人たちを素通りして門を抜けた。

 いや〜、一仕事したからちょっと損した気分だけど平安貴族でもどうしても必要がある時は仕事をしたって読んだ事があるからこれはしょうがないと思う事にしよう。


 御前さんは僕が言った事を守ってくれている。何も喋らずに僕について来てくれてるんだ。


 僕たちが出た門から慌てたように門衛と話をして出てきた人がチラホラ居たけど国王かもしくは賢者の差し金だろうね。まあ途中で急に僕と御前さんが見えなくなって慌てただろうね。


 それからその人たちが見えなくなるまで僕と御前さんは街道を進んだんだ。それから少ししてお腹が空いてきた僕は御前さんに身ぶりで街道をれる事を知らせたよ。

 御前さんは街道を外れる事に驚いた顔をしたけれども僕が言ったようにその場では声を出さなかったよ。

 うん、僕は御前さんのそういう律儀な性格が大好きだよ。


 それから街道を離れて僕は御前さんに声をかけた。


「御前さん、門から五キロぐらいは離れたし、街道からも外れたからもう話をしても良いよ」


 僕がそう言うと御前さんから矢継ぎ早に質問が飛んできたんだ。


「万っち!! どうしてアタシたち検問を受けずに外に出れたの? それに書いてた文字が読めたけど賢者さんが言ってた西門じゃなくて東門だったよ? それにそれに、どうして街道を外れたの?」


「まあ、待ってよ御前さん。お腹空いてない? 先ずは腹ごしらえしようよ」


 呑気な僕の言葉に御前さんは少し怒り気味に僕を呼ぶ。


「万っち!!」


 けれどもその瞬間に御前さんのお腹が盛大な音を出したんだ。


 怒った顔のまま真っ赤になる御前さん。器用だし可愛いね。


「ほら、お腹が空いてるからそんなに怒りっぽくなってるんだよ。さあ先ずは何か食べよう。御前さんは何が食べたい?」


「ッ!? 食べたいって言ったってアタシたち食べ物なんて持ってないじゃない!」


 御前さんがそう言ってる間に僕は準備を進めたんだ。このままだとずっと怒られそうだからね。


「えっと先ずは聖域。それからテーブル、椅子二脚。そうだ食べた後はトイレに行きたくなるよね。だからトイレ」


 僕が言葉に出した物がパッと現れるのを見て口をパクパクさせる御前さん。ホントに可愛いね。


「さあ、御前さん準備できたよ。何が食べたい。何でも言ってみてよ」


 僕がそう言うと御前さんは


「わけ分かんない…… 万っちって職能が貴族だったんだよね? それにスキルが五十一音だったっけ? 何でこんな……」


「それについては腹ごしらえをしてから説明するよ。先ずは何を食べたいか教えてよ、御前さん」


 再度僕がそう言うと観念したかのようにため息を吐いて御前さんはポツリと言った。


「無理だろうけど、ホテルのカレーライスが食べたい……」


「オーケー、オーケー、ホテルで出される西洋カレーライスだね。任せて! グランシェフのカレーライスを二つ、大盛り!」


 僕がそう言うとテーブルの上にホテルで作られるカレーライスがちゃんとスプーンなどの食器と一緒に現れたんだ。


「さあ、御前さん。ご要望のカレーライスだよ。食べよう!」


 僕が明るくそう言ったんだけど御前さんは動かずに固まってしまったんだ。何か間違えたかな?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る