ZIP! ZAP! BANG! 2

「はい、被疑者は『死ね』と何度も叫びながら繰り返し銃爪を引いていたので、彼女を狙っていたのは間違いないと思います。ただ、誰かの指示命令でやったことのようで、あの銃も、その誰かに渡された物でしょう。装弾数が五発なのも知らなかったようだし、あのグリップの仕方は正規の訓練どころか、ちゃんと撃った経験も無いようでしたね。私の生徒なら、銃爪に指を掛けることも許さないレベルですよ」

 もっと言えば、実弾を装填するのも許さないレベルだ。立射片手射を身体に覚えさせるために、小一時間基本姿勢とホルスターからのクイックドローだけやらせ、その後は机上で模擬弾の薬莢の装填と排莢だけ延々と繰り返しやらせたい。

 使い捨ての下っ端を、極道ヤクザの世界では鉄砲玉(敵に飛んで行って帰って来ないヤツ)と言うらしいが、私に言わせれば、弾丸タマ一つ真っ直ぐに飛ばせない鉄砲玉などお笑い草以下だ。


「では、神宮寺警部補、調書作成の際は再度ご協力をお願いします」

 現場で説明できることは済んだ。書類仕事はまた別だが。

「その節は、県警本部銃火器対策課にご連絡を」


「係長、お帰り。自衛隊から神宮寺准尉あてに電話入ってたよ。メールが既読になってないってさ」

「ありがとうございます。今週は、自衛隊の仕事は入ってなかったはずなんですが」

 立場上、被らないようにスケジュールが組んであるはずだが、たまにこういうことも起きる。

 

 メールを確認すると、警察とは調整済みで急遽の対応を明後日から、と言うことになったらしい。明後日朝6時に迎えの車が来るとのこと。


 警察での仕事の時は警部補の階級のIDが、自衛隊での仕事の時は准尉のIDが通用するようになっている。

 一般企業での係長、偉くても課長補佐くらいの指導的立場、と言うことらしい。課長以上の、決裁権が無いと言う点も一緒だ。

 警察学校か自衛隊の教導部隊の教官で、幹部候補だろうと兵卒や巡査だろうと、そこにいる間は、上官だから絶対服従しろということだが、厳密な命令権は無い。


 ここらへんが実務の限界だろう。元傭兵の銃器インストラクターが、警察官や自衛官の組織に組み込まれていることが、既に異例中の異例なのだから。


 来週は最寄りの教導隊での指導になるはずだったが、急遽明後日からと言われるとどこになるのやら、話を聞かなければ皆目わからない。

 嫌な予感。こうした場合は大抵当たることが多いが、今日の事案とは無関係であってほしい。


 自作銃ジップガンと一口に言っても、マニアが自宅で組み立てるようなレベルのものと、市販の正規品に伍するようなものを出して来る密造工場・密造工房では、次元が違って来る。

 特に、後者の場合は、出荷される数も桁違いだし、作って出来映えに満足するマニアと違い、入手したのは使気満々の無法者達イリーガルズだ。


 刻印〜シリアルナンバーの無い銃は把握もできないし、使われた後の線条痕で識別こそできるものの、後手であり、その一丁を押さえれば済む問題では無い。まだ、事件になっていない大量の銃が、その後に控えている。


 それを私が追うのも因果な話だが。


 何故、それを因果な話と言うかは、私の身の上にある。







 


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