ソラノ
玉藻の言葉を遮るようにして俺の部屋に勢いよく入ってきたのは、妹のソラノだった。
ソラノは中等部に通う13歳。
俺とは違って魔力もあるし、成績も優秀な自慢の妹だ。
「え、お兄ちゃん、この子は?」
ドアを開けたまま固まってしまった妹の視線は玉藻へと注がれていた。
ナターシャやリーナならまだしも、部屋に、そして俺と同じベッドに幼女が寝ていたら疑問に思うのは当たり前のことだろう。
「わっちは――」
「ちょ、お前は少し黙ってろ」
俺は自然な流れで自己紹介でも始めそうな玉藻の口を押さえた。
まだ今後どうするかすら決めてないっていうのに、何かおかしなことを言い出したら大変だ。
普段から同じ家に住む妹ゆえに、返答は慎重にならざるを得ない。
「お兄ちゃん……もしかして、そういう趣味が……? でも……いくらそうだからって誘拐なんて……」
「するかっ! こいつは……」
「こいつは?」
ソラノは俺に軽蔑の眼差しを向けたまま聞き返してくる。
落ち着け俺。
ここで返答を誤ったら面倒なことになる。
ソラノに知られたということはナターシャやリーナに知られたも同然。
頭を使ってよーく考えるんだ。
「……こいつは、玉藻は俺の使い魔だ」
妹の冷たい視線を受けながら、俺がこの僅かな間で考えて出した答えは【使い魔】だった。
使い魔とは基本的には召喚魔法で呼び出されたモノ達の総称だが、時にはダンジョンで飼い慣らした魔物を使い魔として扱う者もいる。
「へぇ〜、魔力のないお兄ちゃんが使い魔ねぇ」
「魔力がなくても召喚できる事だってあるんだよ。まだ中等部では習っていないかもしれないけどな」
俺も学院で教わったわけではないが、噂では魔力がなくても魔力を宿した媒体があれば呼び出すことは可能だと聞いたことがある。
召喚魔法についてはまだまだ未知のことも多い。
魔力のない俺には召喚魔法を絶対に使えない、と自信を持って言い切れる奴はそうはいないはずだ。
他の細かいことは後々考えるとして、今はこれで乗り切るしかない。
「そうなんだ。まぁなにか隠してるような気がしなくもないけど、そういうことにしておいてあげるね」
怪しまれてはいるようだが、ソラノは何とか納得してくれたようだ。
頭がいい妹を持つと苦労するな。
ソラノには、俺なんかの浅い考えは何もかも見透かされているんじゃないかと思う時が多々ある。
「おし、じゃあこの話は終わりだ。で、お前は何の用で俺の部屋にノックもせずに突入してきたんだ?」
「もうお兄ちゃんたらまだ寝ぼけてるの? 時間」
呆れたように部屋の時計を指差すソラノにつられて俺も時計を見る。
「ヤバっ……急がねぇと遅刻じゃねぇか」
時計の針はいつも俺が起きる時間を余裕で過ぎていた。
「もうずっと前から声かけてたのに起きないんだもん。だから仕方なく部屋まで起こしにきたら、ベッドでこーんな可愛い子と一緒に寝てるんだもん。玉藻ちゃんだっけ? お兄ちゃんをよろしくね」
ベッドに腰掛けたソラノは玉藻の二本の尻尾をわさわさと撫で始めた。
「任せるがよい! こやつは昔からわっちがおらんと駄目な奴じゃったからな」
「え? 昔?」
あー……またこいつはわけのわからないことを。
「こ、こいつはまだ召喚の影響か頭がちょっとおかしいんだ」
「わっちはおかしくなんぞな――――」
「お前は少し黙ってろ、じゃあソラノ、俺達は一足先に学院に行くわ」
俺は玉藻の口を押さえたまま、小脇に抱えて部屋を出た。
本当は玉藻は置いていきたいところだが、使い魔と言ってしまった以上連れていかないわけにはいかない。
それに俺がいない間に何をしでかすかわからないし、目の届く距離で見張っておいたほうがいいだろう。
話もまだ途中だしな。
「朝ご飯テーブルにあるからね」
「おう、いつもありがとうな!」
魔力ゼロの俺は大妖怪九尾の狐(幼女)とダンジョンに挑む あんてんしぃ @anten
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔力ゼロの俺は大妖怪九尾の狐(幼女)とダンジョンに挑むの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます