第6話 日常編1

「ふぅ、想像以上に楽しかったなぁ……早く咲良と楽しさを共有したいなぁ……そうだ、咲良に連絡しよう」


 美咲は、NLOを進めてきた張本人でありながら、成績の問題から未だにNLO世界にログインしていない咲良へ電話を掛けた。

 いつもはすぐに電話に出る咲良だったが、今日に限っては中々繋がらなかった。ただ、勉強をすることを聞いているため、根気よく待っていた。


『ご、ごめん、勉強してて気づかなかった。それでどうしたの?』


「想像以上にNLOが楽しくてさ、この気持ちを咲良に共有したかったんだよ!!」


『できない人への嫌がらせかな?』


「ち、違うよ! 単純にこの気持ちを共有したかっただけだよ!!」


『ふふっ、分かっているよ。そんなこと美咲がしない事なんて知っているよ』


「もぉ」


 口を尖らせながら言う美咲だったが、その表情は満面の笑みだった。そして美咲には分からないが、電話先の咲良もまた、満面の笑みを浮かべていた。


『それで、NLOの世界でどんなことをしたの?』


「えーっとねぇ……まずは初期スキルでランダムを選んだんだけどね、神聖魔法が出たんだよ。次は――」


『ちょっと待てぇ! あまりに衝撃的過ぎて、昔のお笑い芸人みたいなツッコミをしちゃったよ!! あれだけデメリットを語ったのに、なんでランダムを選ぶなんてイカれた選択をしたの!?』


「えっ? だってランダムの方がロマンがあるじゃん」


『そうだ、こいつは子供みたいな思考の持ち主だった』


「私は全然子供なんかじゃないよ」


『確かに――じゃなくて!!』


 咲良は美咲のことを思い浮かべる。そして一か所だけ子供と呼ぶには不適切な部分があったため、賛同の意を口から漏らしてしまったが、すぐに頭を振って、会話を本線に戻そうとする。


『もうランダムのことは良いから、続きを聞かせてよ』


「そっちが聞いてきたのに……えーっと、次は初期スキルで聖女が出てきたから、聖女を選んで……次が――」


『ごめん、これ以上話の途中で止めたくなかったけど、これをスルーはできないよ!!』


「えっ? 聖女になった話? それなら、選べたから選んだだけだよ」


『確かにそうなのかもしれないけど!! 私が聞きたいのは、どうして聖女が出てきたかだよ!!』


「あ、そっち?」


「そっちでしかないでしょ!!」


 咲良はツッコミの連続に、息を切らしていた。それでもツッコミを止めないのは、幼いころから天然美咲と付き合ってきた弊害だろう。


「確か――」


「美咲ー、早く風呂に入っちゃいなさーい」


「あっ、はーい。ごめん、お風呂に入らないといけないから、電話切るね」


『聖女になれた理由だ――』


 電話が切られる直前、咲良は何かを言っていた。しかし美咲はお風呂に入りたいことを咲良に伝えた時点で、電話を耳から離していたため、何を言っていたのか聞き取ることはできなかった。


「何か言おうとしていたけど、重要なことなら電話してくるよね」


 そう言って美咲はお風呂へと向かった。彼女の手に電子機器は一つもなかった。


 ――翌日、咲良は職業のことなど、諸々問い詰めるために自宅のマンションに美咲を呼び出していた。


「みーさーきー、今日は逃がさないよ!」


 美咲が家の中に入った途端、咲良が抱きしめて来た。当然剣術を学んでいる美咲であれば、抱擁から逃げ出すのは容易であるが、抱きしめられることに満更でもない様子だった。


「逃げてないんだってばぁ」


「私が逃げたと思った時点で逃げてる!」


「なんて傲慢な思考!?」


「それに、追い電話をしてくるかもと思いながら、携帯を放置して風呂に入るなんて、着拒とほぼ同じでしょ! しかも風呂上り後に確認することもなく寝るなんて、私が嫌いなんだ!!」


「何言ってんの! 私が咲良のことを嫌うわけないじゃん!!」


 美咲が抱きしめ返す。

 無言の時間が数秒続き、離れた後に二人は盛大に笑っていた。


「それで、この部屋に呼んだってことは、一緒に遊ぶってわけではないんでしょ?」


「そう、勉強の息抜きとして、徹底的にNLOで何が起きたかを聞き出そうと思って」


「徹底的にって、そんなに変なことはしていないよ?」


「美咲が変と思っていなくても、一般的には変なことなんていっぱいあるんだよ!!」


「私が変みたいな扱いして……確か、聖女になった後は――」


 美咲はNLOで行ったことを淡々と説明していった。


「うーん、まず聞きたいのは、どうしてランダムを選んだの?」


「ロマンって言わなかったっけ?」


「来たけど、普通はロマンでランダムを選ばないの! だってこのゲームはリセットできないんだよ! だから戦闘スキルが一つも出ない可能性があるランダムを選ぶ人なんていないの!」


「スキルがなくても、刀でモンスターを倒せたよ?」


「それは、あんたが春風道場の7代目師範だからでしょ!」


「あっ、確かに」


「話を戻すけど……あれ? 私たちって何について話していたっけ?」


「えっ? うーん、確か咲良がゲームをやりたいって話じゃない?」


 二人の会話はノリで話されることが多く、本筋がズレることが日常であった。


「やばいよ、ゲームをやりた過ぎて、禁断症状が出そうだよ!!」


「禁断症状って、流石に引くよ」


「大丈夫だよ。禁断症状と言っても勉強に手が付かなくなるだけだから」


「今に限っては大ピンチじゃん!」


「確かに!!」


「これ以上、美咲の話を聞いていると本当にやばいから、今日は帰って!!」


「うん、それじゃあね」


 美咲は雑な扱い方をされても、機嫌を悪くすることはなかった。咲良のことが好きというのが一番の理由だが、二人の家がとても近いというのも理由の1つだった。


 そして帰宅した美咲はお風呂に入ってから自室に戻ってきた。


「今日もやってみようかな」


 部屋に入ってすぐにVRヘッドセットを付けた。そしてNLOを開いた。


『ログインしました』


――あとがき――

次回からゲームの世界に戻ります。


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