野生が意外と気を使う



 うーん。なんだろうかなこれは。

 喋る狸か。もしかしてまた俺にしか聞こえないとかかな。


「雷太、この狸喋ってるかな?」

(「日本語話してるなぁ」)


 そうか、俺にしか聞こえないわけじゃなくて普通に日本語喋ってる狸か、そういやこないだも喋る猫いたな、ってことは狸が喋ってもおかしくない……かな?


「日本語お上手ですね」

「ははは。拙者は日本生まれ日本育ちですからな、当然ですよ」

「なるほどー」


 自分で言っててなんだがなるほどなのかなあ。


「えーっと、そういえばうちの猪熊さんがご迷惑をおかけしまして」


 よくわからないことは先に謝っておくに限る。


「いやいや、びっくりしましたよ。山でもないのにあんな大きな熊がいるとは。前には見かけなかった気がするのですがご主人のしもべか何かで?」

「いや、そんなわけではないんですけどね。とりあえず庭に住んでもらってるだけです。見た目は怖いですが襲ったりはしないと思いますのでご安心を」


 家の周りうろちょろしてたってのは本当なんだな。あと狸さん言葉遣いが丁寧だから好感もてるな。


「それを聞いて安心しました。まあ本日はばたばたしてしまいましたし、後日改めてご挨拶に伺いますね」

「これはこれはご丁寧に」


 ……また来るって言ったよね。ってことは俺に用事があるってことかな。なんだか聞くに聞けない。

 そして渡されたリンゴを手にして、丁寧に頭を下げながら狸は帰って行った。礼儀正しいな。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「さてみなさん。報連相という物を知っているでしょうか」

(「ポパイか」)

「まだ食べたことはないな」


 まあそうだとは思った。昔からある言葉かは知らないけど、働いたりでもしてない限り聞かないだろう。


「まあなんでも報告しましょうねということだね。情報の共有は大事ですよと」


 今回は大事に至らなかったけど自分が知らない事が勝手に進行しているのは危険な気がする。この家だと特に。


「ふむ。いらぬ心配をさせたりするのは良くないかと思ってたんだがの」

(「追い払えるもんは追い払ってたしなあ。変な婆の霊が来たとかそういうのも言った方がいいのか?」)

「うっ。確かに全部言われたら言われたでストレスすごそうだな」


 雷太はつきあいがそこそこ長い分、加減を知っているはずだ。そう思おう。


「変な霊とかは追っ払えたなら報告いいや。雷太は霊以外で不自然なことあったら教えて」

(「なんか難しいこと言うな。まあわかんなかったら言うよ」)

「オヤシロさまは、取捨選択まだわからないでしょうし、とりあえず気になったことは全部教えてください。その後に考えましょう」

「うむ。それじゃあ何でも報告してみることにしよう」

「お願いしますね」



 ちなみに報告することの大切さを蛇神さまに告げた翌日のこと。

 まだ寝ているとき無理矢理起こされてされた「つがいだったカラスが1匹で寂しそうにしていた」

 朝食中にされた「でかいゴキブリが部屋に現れた」

 スマホに送られてきた「そろそろ寒くなってきたのに庭の唐辛子が実を付けた」

 帰宅直後にされた「近所の中学生が呼び鈴を鳴らしたが走って逃げていった」

 そして極めつけは寝る前にこんこんと説かれた「政府が隠している国民の5g回線による精神コントロール」


 本格的にどうでもいい話ばかりで、こうなると蛇神さまの報告だけで疲労困憊してしまう危険性がある。今後は緊急性の高そうな情報だけ報告してそれ以外は雷太に相談してから、ということにしてもらった。

 なんだか結局元の木阿弥な気がしてきたぞ。



 ちなみに、最後の陰謀論は俺に説明しているうちに自分自身でおかしな事を言っていることに気がついたようで照れながらフェードアウトしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る