勝手にアイスを食べられる


「頭痛い」


 目覚めたばかりなのにすっきりしない頭。なぜか重くだるい体。喉がひりつくほどの乾き。ぼやける視界。


 原因はなにかとかすむ記憶をたどる。家に帰ったら黒い靄が大発生していてただならぬ雰囲気になってたから、オヤシロさまをぶん投げて……、えっとこれってもしかして罰が当たった?


 不調の原因として思い当たる節がそれしかなく、ただただ首をかしげる。

 そしてひとつ気がついたことがある。あちこち土が付いた汚い服装のまま布団に入っていたようだ、どうするんだよこれ。

 土があちこちについた布団から出てまわりを見渡すと視界の端に雷太が浮かんでいる。オヤシロさまはいないようだ。


「なあなあ、状況がよく分からないんだけど俺どうなってたの? あとオヤシロさまは?」

「お前は変なのに取り憑かれてた。オヤシロさまはあっち」


 俺に目を合わせようとしない雷太がキッチン、というよりも台所といった方がしっくりくる、古くさい部屋を指さした。

 ゆっくりと視線を向けると、そこには冷蔵庫を開けて中を覗き込みつつうんうんうなるオヤシロさまが居た。


「あのー、オヤシロさまなにをお探しで?」

「おい孫よ。なんじゃこの若さのかけらもない冷蔵庫は。豆腐に梅干しに煮魚の残りに……、じじいか! あとアイスも6本入りのボックスアイスとか色気もなにもない、枯れすぎじゃ。ダッツとまではいわんが雪見だいふくとかうまか棒とか入れんかい」


 ファミリー向けアイスがお気に召さないのはわからないでもないが、代替案もなんだかちょっと聞いたことないのが入ってる。うまかとかなにそれ。


「お金が入ったら少しは充実させますのでとりあえずそれ食べててください」

「しかたないのう」


 あっいきなりふたつ開けちゃいますか。しかも交互に食べるんだ、親が旅行中の小学生かな。見た目がきれいなお姉さんだけにすごい残念な光景になってるけど放っておこう。


「あーそれで雷太さんや、“取り憑かれてた”ってことは今は大丈夫なんだよね。どんな感じだった?」

「あー、モノ壊すとか誰かに乱暴したとかそういうのは無かったから安心してくれ。ぐちぐち不幸話してただけだよ」


 雷太はなぜか目を背けている。おいこっち見ろ。


「なんか嫌なのが憑いてたんだな。なに言ってた?」

「会社の愚痴みたいなのばっかりだったよ。だからお前の記憶じゃなくて取り憑いた霊の身の上話的なのじゃないかな?」


 それは助かる、俺自身のだったら目も当てられなかった。しかしオヤシロ様がニヤニヤしつつ俺を見ているんだがあれはなにかね。


「とりあえず説得できればと話してはみたがな、不幸な俺を誰も理解してくれないとか世界で一番不幸なのは俺だとかまあ話が通じなくてな。最終的には蛇の神様が祓ってたよ」


 おおう、力技っぽいな。


「輪廻に返してやろうとかそういうんじゃないんですね」

「そう言うのは仏門の仕事じゃよ。わしゃそっちは知らん」


 もうアイス2本食べ終わりましたか。でも箱アイス全部食べるとおなか痛くなりますよ。


「でも助けてくださったんですよね。ありがとうございます」

「よきに計らえ」


 満足そうだ。でも実際危なかったんだし感謝するのはやぶさかではない。本当にありがとうございます。


「あ、そういえば、元凶とやらはどうしたんですか? またトラブルになると困るんですが。ここから引っ越しとかとてもとても」

「あー、あれな。なんかいらん物を埋めたんじゃってな? そんな事するから土地がけがれてしまっていたんじゃよ。まあごく狭い範囲だったし安心せい。丸ごと清めてもよかったんじゃが、あえて残しておくことにしたぞ」

「えっじゃあなにも解決してないんじゃ」

「お前の器の欠片とけがれた土を合わせてな、雑霊を一網打尽にするゴキブリホイホイみたいなのを設置したんじゃよ。どうしても土地柄というかこの家の性質上霊は寄ってくるからの。あえて寄せて集めてまとめて退治できるようにしておいた。ただ間違って掘り起こさんように、後で小さくてもいいから社か塚でも建てておけ」


 庭にお社できちゃうかー。物々しいのだとなんか噂になりそうだから目立たないようにしよう。

 でもまあこれで一息つけるってことなのかな。オヤシロさま家にいるってことでちょっとはトラブル減るといいんだけどなあ。一応俺を護ってくれるとは言ってたし。言ってたよね。


「なあ大丈夫か?」


 心配して覗き込む雷太に苦笑いで応えると、とりあえずとばかりに台所へと向かった。



 水飲んで一休みしたい。あとアイス全部食べないように注意しないと。


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