第3話 インターネットの海へ、いざ出発!
放課後、健太は急いで家に帰った。玄関を開けると、いい匂いがする。母さんが夕飯の支度をしている音だ。
「ただいまー!」
「おかえりー、健太。あら、今日は早いじゃない」
キッチンから母さんの声が聞こえる。健太は「うん!」とだけ答えて、自分の部屋へ駆け込んだ。部屋の机には、いつも使っているノートパソコンが置いてある。少し古くなってきたけれど、健太にとっては大切な相棒だ。電源ボタンを押すと、「ブーン」という音と共に画面が明るくなった。
しばらくして、ピンポーン、とチャイムが鳴った。健太がドアを開けると、そこにはユウキと、なぜか少し緊張した様子のキララが立っていた。
「よお、健太! 来たぜ!」
「健太さん、お邪魔いたしますわ……」
ユウキはいつもの調子だが、キララは少しだけ落ち着かない様子だ。初めての健太の家に、少しだけ戸惑っているのかもしれない。
「いらっしゃい! さあ、上がって!」
健太は二人を部屋に招き入れた。ユウキは慣れた様子で、健太の部屋に置いてある漫画を手に取ったが、キララは部屋の中をキョロキョロと見回している。
「これが……地球の『お家』ですのね。わたくしの故郷では、家はもっと自然の木材や石で造られていて、こんなに機械が多くはありませんでしたわ」
キララはそう言って、健太の部屋の隅に置かれたエアコンや、壁にかけられた時計を不思議そうに見つめた。確かに、異世界では電気もガスもなかっただろう。
「さ、座って座って! 早速だけど、このパソコンで魔物のこと、調べてみようぜ!」
健太が椅子を指すと、ユウキとキララが並んで座った。健太がパソコンの前に座り、キーボードに指を置く。その指先が少し震えているのがわかった。これから何が見つかるのか、期待と不安が入り混じっていた。
「えっと……どんな言葉で調べたらいいかな?」
健太が尋ねると、キララは少し考えてから言った。
「そうですね……『未確認生物』や『UMA』、あとは『奇妙な現象』といった言葉で調べてみてはいかがでしょうか? もしかしたら、わたくしの故郷の魔物と似た特徴を持つ存在が、この世界でも目撃されているかもしれません」
健太は頷き、早速キーボードを叩き始めた。「未確認生物」と入力してエンターキーを押す。すると、画面にはたくさんの情報が表示された。ツチノコ、ネッシー、雪男……聞いたことのある名前がずらりと並ぶ。
「わあ、たくさん出てきたわね……!」
キララが画面を覗き込む。ユウキも興味津々で画面を見つめている。しかし、どれもこれも、キララの故郷の魔物とは、どうも違うようだ。
「うーん……これじゃ、いまいちピンとこないな」
健太が首をひねった。すると、キララが人差し指で画面を指した。
「健太さん、この『都市伝説』という項目も見ていただけますかしら? わたくしの故郷でも、魔物の目撃談が、いつしか伝説として語り継がれるようになることがありますわ」
健太は言われた通り、「都市伝説」のリンクをクリックした。すると、今度は「口裂け女」や「人面犬」など、少し不気味な話が並んだ。ユウキが「うわっ!」と声を上げた。
「これ、なんか怖えぞ……」
健太も思わず体を震わせた。そこに魔物の情報はなさそうだ。
「よし、次は『UMA』で検索してみよう!」
健太が次に打ち込んだのは「UMA」というキーワード。すると、今度は「カッパ目撃情報、久留米市筑後川河川敷!」という見出しが目に飛び込んできた。
「えっ、カッパ?」
思わず健太が声を上げると、キララが身を乗り出した。
「カッパ……? その言葉、わたくしの故郷の文献にも出てきましたわ! 水辺に潜み、人の魂を奪うと言われる魔物……!」
キララの言葉に、健太とユウキは顔を見合わせた。カッパが異世界の魔物と関係があるなんて、想像もしていなかった。
「ま、マジかよ……カッパって、本当は魔物だったのか!?」
ユウキが目を丸くした。健太の心臓はドキドキと音を立てる。もしかしたら、本当に手がかりが見つかったのかもしれない。
「記事によると、数年前から筑後川でカッパの目撃情報が相次いでるって……。しかも、目撃者たちはみんな、何かを『奪われた』ような、記憶が曖沢になっているって書いてある!」
健太は記事を読み上げていく。記事の最後には、地域の人々がカッパの被害に怯えている、という記述があった。特に、夜になると、川辺に近づくのをためらう人が増えたという。漁師たちは網に奇妙な傷跡が見つかったと話し、農家の人たちは、夜中に畑から作物が消える被害も出ていると嘆いている。
「魂を奪う……。やはり、わたくしの故郷に現れた魔物の一種に違いありませんわ……!」
キララが固唾を飲んで言った。その顔は、故郷を襲う魔物への怒りと、この世界でも同じような被害が出ていることへの悲しみでいっぱいだった。
「じゃあ、このカッパをどうにかすれば、キララの故郷も救われるってこと?」
健太が尋ねると、キララは首を振った。
「いいえ。これは、あくまで魔物の一種に過ぎません。故郷に現れたのは、もっと強大な存在……。しかし、このカッパがもし故郷の魔物と関連があるのなら、何か手掛かりが見つかるかもしれません。それに、この久留米の方々も、カッパの被害で苦しんでいるようですし……」
キララの瞳に、強い決意の光が宿った。健太も、ユウキも、キララの言葉に引き込まれるように、画面の「カッパ目撃情報」を見つめた。筑後川。久留米市の中心を流れる、あの大きな川だ。
「よし! 俺たちで、カッパを調べてみよう!」
健太がそう言うと、ユウキも頷いた。
「おう! 面白くなってきたじゃねーか!」
キララも健太とユウキを見て、小さく微笑んだ。
「ありがとう、健太さん。ユウキさん。お二人とも、わたくしの無茶な願いに付き合ってくださって……。わたくし、必ずこの世界に恩返しをいたしますわ!」
キララの言葉に、健太の胸は熱くなった。
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