第2話 秘密の作戦会議、始まる!

 キララと手をつないだまま、健太はドキドキしていた。まさか本当に異世界から来た人がクラスにいるなんて。夢みたいだけど、キララの悲しそうな顔を見ると、夢なんかじゃないってわかる。


「あのさ、キララ。まずは何から始めればいいんだろう?」


 図書室の静かな一角で、健太はキララに問いかけた。窓の外では、午後の柔らかな陽射しが校庭の桜の木々を照らしている。


「そうですね……。まずは、わたくしの使える魔法が、この世界でどの程度通用するのか試してみる必要があるでしょうね」


 キララは少し考えてから言った。彼女の大きな瞳が、真剣な光を宿している。


「でも、学校の中で魔法なんて使ったら、先生に怒られるんじゃない?」


 ユウキが心配そうに顔を覗かせた。彼はいつの間にか、健太とキララの秘密の会話に加わっていた。どうやら、放課後も健太と一緒に図書館に来ていたらしい。


「ふむ……確かに、不用意に魔法を使うのは危険かもしれませんわね。地球の方々は、魔法というものをあまりご存じないようですから」


 キララは顎に手を当てて、難しい顔をした。


「じゃあ、どうすれば?」


 健太が尋ねると、キララは少し微笑んで言った。


「ふふ、ご心配なく。わたくし、簡単な魔法なら、人目を忍んで使うことができますわ。例えば……」


 そう言うと、キララはそっと手のひらを健太とユウキに向けた。次の瞬間、二人の目の前で、小さな光の粒がきらめきながら現れた。それはまるで、夜空の星屑をそのまま小さくしたような、美しい光だった。


「これは、『光の精の囁き』という、ごく初歩的な魔法ですわ。ほんの少しの間だけ、光を発することができるのです」


 キララの説明に、健太とユウキは目を丸くした。本当に魔法だ! 自分たちの目の前で、魔法が使われたことに、二人は興奮を隠せない。


「すげえ! キラキラしてる!」


 ユウキは手を伸ばして光の粒に触れようとしたが、それはふわりと消えてしまった。


「これは、わたくしの魔力がまだ十分にこの世界に馴染んでいない証拠ですわ。故郷では、もっと長く、もっと強い光を放つことができるのですけれど……」


 キララは少し残念そうに言った。


「それでもすごいよ! 俺、本物の魔法を見るの初めてだ!」


 健太は目を輝かせた。キララの言葉を聞いて、彼女が本当に異世界から来たのだということを、改めて実感した。

「ありがとう、健太さん。ユウキさんも。お二人とも、わたくしの話を受け入れてくださって、本当に感謝していますわ」


 キララは深々と頭を下げた。健太とユウキは慌てて顔を見合わせた。


「そんなの、気にしないでよ! それより、これからどうするんだ?」


 健太は身を乗り出して尋ねた。


「そうですね……。まずは、この世界で安全に魔法を使う方法を探る必要がありますわ。そして、故郷の魔物についての情報を集めたいのですけれど……」


「魔物の情報?」


 ユウキが不思議そうに首を傾げた。


「はい。わたくしの故郷を苦しめている魔物は、とても狡猾で、強い力を持っています。もしかしたら、この世界にも、何らかの痕跡を残しているかもしれません」


 キララの言葉に、健太は背筋がゾッとした。異世界の魔物が、この地球にもいるかもしれないなんて……。


「でも、どうやって探すんだ? そんなの、手がかりもないじゃないか」


 健太が不安そうに言うと、キララは少し考えてから、あることを思いついたようにパッと顔を上げた。


「そうだわ! この世界には、『インターネット』という、とても便利な道具があると聞きましたわ。もしかしたら、そこに何か情報があるかもしれません!」


「インターネット?」


 健太とユウキは顔を見合わせた。もちろん、二人はインターネットのことは知っている。家でゲームをしたり、調べ物をしたりする時に使うものだ。でも、それが異世界の魔物の情報に繋がるなんて、想像もしていなかった。


「ええ。地球の皆さんは、様々な情報をそこに記録し、共有していると聞きましたわ。もしかしたら、『未確認生物』とか、『奇妙な事件』といった情報の中に、魔物に関する何かが隠されているかもしれません」


 キララの言葉に、健太はワクワクしてきた。まるで、謎解きゲームみたいだ!


「よし! 早速、インターネットで調べてみよう!」


 健太は立ち上がった。ユウキも目を輝かせている。


「でも、どうやって調べるんだ? そんなこと、やったことないぞ」


 ユウキが言うと、健太は少し得意げに胸を張った。


「大丈夫! 俺の家にはパソコンがあるし、お母さんに教えてもらったことがあるんだ!」


 こうして、小学4年生の健太とユウキ、そして異世界から来たキララの、秘密の作戦会議が始まった。

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