第26話 "深紅の刃" vs "黒王戦艦" ③
"深紅の刃"と"黒王戦艦"の模擬戦のフィールド。
その外では冒険者が集まり、それぞれが解説、展開などの戦略について話し合っていた。
しかし、戦略に乏しい低ランク冒険者達は度肝を抜かれるような駆け引きの繰り返しに困惑の色を見せており、中ランク冒険者達も徐々に表情を険しくしていく。
それ程までに両パーティの強さは際立っていた。
そして、それを見ている私とレアード。
レアードは冷静に状況分析が出来ているが、私にはそれが出来ていなかった。
彼らの情報をほとんど知らなかったこともあるが、一番の原因は冒険者とのコミュニケーション不足による知識不足であった。
多くの冒険者は同じ冒険者との関わり合いの中から個人の戦い方、パーティの戦い方の幅を広げていくことが出来る。
これは冒険者に限った話ではなく、騎士団も同様、仲間との訓練や会話の中で理解を深めていくものであった。
しかし、関わり合いを避けてきた私には、我流の戦い方しか知らない。
ソロの為、戦略を知らず、ただ淡々と死に物狂いの生活をしてきていた。
だからこそ、高ランクでありながら、圧倒的知識不足という矛盾を抱えてしまっていた。
今フィールド内では状況が変わりつつある。
深紅が集まり、これから何かを仕掛けるのだろう。
何をしてくるのか楽しみではあるが、それが全く分からないというのが自分の無力さを強調する。
「カノンは何をするつもりなの?」
恥を忍んでレアードに尋ねる。
家族にならなんでも聞ける。
「カーフェ、両パーティは誰が中心となっているか分かるか?」
質問を質問で返される。
誰が中心?
そんなのは誰でも分かることだ。
「カノンとルーファス・・・・・・」
「正解だ。なら、勝利を手にする為には誰を落とすべきだ?」
誰をはじめに狙うか?
私は思考する。
まず深紅。
カノンはどちらかといえば前衛タイプ。
前衛をやりながら指示も出せる。
ローラは完全な前衛タイプ。
戦いを好み、手綱を握る必要がありそう。
ロンドはサポーター。
スキルは厄介。
出来れば早めに潰したい相手。
アキトはオールラウンダー?
奇襲を仕掛けるタイプでほっとくと厄介。
全員が煙幕などの妨害を行うから連携力が必要。
そして、その連携を可能にしているのがカノンの指示。
次に黒王。
ルーファスは前衛タイプ。
ナイトを召喚し数で有利を生み出す。
アイゼも前衛タイプ。
武器を自在に操り、援護と奇襲を同時に行える器用さを持つ。
ロッサも前衛タイプ。
武器を変化させ攻撃力を上げている。
しかし、攻撃の幅が広く、読みにくい。
けれど最警戒すべき相手ではない。
メイデルはサポーター。
強力な魔眼スキルを駆使して、戦況をコントロールする。
しかし、困難ではあるが対処法が無いわけではない。
全体を通して見ると、メイデルがやはり厄介かもしれない。
しかし、ルーファスがいてこそだ。
「カノンとルーファスね」
私は思考の末に答えを出す。
「ハズレだ」
残念。
「答えは黒王陣営で落とされてはいけないのはカノン。深紅陣営で落とされてはいけないのは全員だ」
「全員?どうして?」
「簡単な話だ。現状カノンがフィールドをコントロールしているように見える。だが実際にコントロールしているのはルーファスの方だ。正確には五体のナイトが、だかな。そのせいでギリギリの戦いを強いられている。誰か一人でも落ちたら敗北が決定づけられるほどにな」
「そうなのね・・・・・・」
「そこんところを踏まえて、見てみな。そうすれば何かを掴めるかもしれないぜ」
私はフォールドに目を向けた。
深紅が今動き出す。
⭐︎
カノンはフォールドの半分に目を向ける。
まずフィールド中央。
そこにはアイゼが今だ煙幕に囚われており、姿が見えない。
フィールド奥右手には、煙幕が晴れ、耳を抑えて膝を地面につけているルーファスとロッサの姿が見える。
二人はゆっくりと起き上がると体をこちらに向けてくる。
その瞳は圧迫感を覚えるほどである。
そして、フィールド奥左手には二体のナイト。
既に再生を終え、掛けてきている。
速度の速いクロスセイバーは既に中央までやってきている。
クロスセイバーがアイゼの囚われている煙幕を越え、こちらに向かってくる。
「よし、行くぞ!」
カノンの合図で深紅の全員が駆け出した。
右からローラ、カノン、アキトが順に横並びになりその背後からロンドが付いてくる形となっている。
クロスセイバーが跳躍する。
作戦その一。
まずはナイトの狙いを明確にする。
今までと同じでロンド狙いなのか?
それを確認する為にあえてロンドを後ろに下げている。
クロスセイバーとの距離感から狙いはロンドだと分かる。
だからこそ、切れる!
カノンとローラ、アキトは同時に跳躍する。
クロスセイバーの狙いがロンドならば我々が攻撃を受けることはない。
その狙いが的中し、剣を振り上げた状態のクロスセイバーの四肢と胴体を切断することに成功した。
第一段階終了。
そのまま着地するとそのままルーファス目掛けて駆ける。
アイゼの囚われている煙幕まであと少しというところで今度は奇襲のように姿を現す。
「行かせない!」
アイゼは右手に持つ剣を前突き付けると、空中の六本の剣が向かってくる。
と同時に発砲音と金属音が鳴り響く。
カノンとロンドが魔導銃を放ち、剣を二本落とす。
そして、アキトにより残りの四本がなす術もなく地面に落ちる。
「流石!」
アイゼが飛びかかると同時に、遅れてやってきたセイバーも同時にかかってくる。
しかし、セイバーの存在に気づいていたカノンは冷静に対処する。
魔導銃をセイバーに放ち、直撃により動きを緩めたところをアキトと共に迎撃する。
同じくロンド狙いであった為、同じように四肢を切り裂き、時間稼ぎをする。
アイゼに一瞬目を向けると既にロンドのスキルによって透明な空間によって閉じ込められており、身動きが出来なくなっていた。
それにより作戦の成功を確信する。
尚も止まらず駆ける。
狙いはルーファス。
まずはロッサを引き離さなければならない。
魔導銃を放ち、ロッサの動きを止める。
僅かに動きが鈍れば充分。
煙幕と音玉をルーファスとロッサの間に投げ込む。
ルーファスとロッサは互いに違う方向に躱したことで距離が出来る。
既に仕込みは出来ている。
ロッサが後ろに引いた時、既にロンドの透明な空間を着地地点に敷いていた。
ロッサはそこに足を踏み入れてしまい。
身体の感覚を失い、膝をついている。
作戦完了。
遂にこの状況を作ることに成功した。
今4対1の構図が出来上がった。
⭐︎
「してやられちまったってわけか・・・・・・」
一人となったルーファスが嘆く。
「ふっ、相変わらず嫌なとこをついてきやがる。戦いに卑怯なんてものはねぇと思ってるが4対1とならば文句の一つも言いたくなる」
「文句なら終わった後にしてください。すみませんが時間が無いので、今、この場で、倒させて頂きます」
「面白れぇ。全員のしてやるぜぇ!」
時間稼ぎも無駄だと悟ったのか、ルーファスは剣を片手に飛びかかる。
叫びながらの突撃ではあるが、頭は冷静であった。
ルーファスはカノン達の動きに注視しつつ、カノンを狙う。
カノンを狙えば必ず誰かが前に出る。
カノンが中心と分かっているからこそそれをさせまいと誰かが前に出てくる。
そして、それが誰かも分かりきっていた。
「させるわけないだろ!」
ルーファスとローラの武器がぶつかり合う。
ルーファスのほうが筋力は上だが、手数はローラが上だ。
力と手数の勝負。
しかし、徐々にルーファスは自身が推され始めていることに気づいた。
「はははははは!どうした、ルーファス!戦いはこれからだ!」
ローラの猛攻は徐々に速度を増していく。
それだ同時に身体が赤いオーラに包まれ、髪がどんどん逆立っていくのに気づく。
「ちっ!強化スキルかっ!」
ルーファスは一度距離を取ろうとするがローラは速度も更に上がっている。
大きく後退したつもりであったルーファスであったがあっという間に距離を詰められてしまった。
ちっ!厄介なスキルだ!
ルーファスは切り傷を身体に作りながらも辛うじて猛攻に耐え切っていた。
そんな時であった。
足元で何か音がした。
一瞬視線を向けると、そこには煙が撒いている玉。
煙玉!
気づいた時には全身を包み込むほどの煙に視界が封じられる。
だが、こんな時でもルーファスは冷静だった。
目を瞑り、耳を澄ませる。
空気の音を聞く。
「!!」
僅かに空気を切り裂く音に反応し、体を逸らす。
胸の鎧にほんの僅かに傷が付く。
煙幕の中でもローラの狙いは正確か・・・・・・。
この状況、他の三人が何もしないはずがない。
そう考えた瞬間であった。
急に腕に衝撃が走る。
と同時に感じる痛み。
じわじわと痛み、血が流れているだろうことが分かる。
魔導銃かっ!?
正体に気づいたルーファスはすぐに煙幕からの脱出を図る。
冗談じゃねぇ。
空気弾は早すぎて音だけじゃ追えねぇ。
ルーファスは適当な方向に走る。
そして、すぐに朝日が目の前に映る。
だが、気づけばすぐさま煙幕の包囲を受ける。
この繰り返しとなっていた。
既にルーファスはかなりのダメージを負っていた。
だが、その顔には笑みがあった。
魔導銃と槍、そして飛び道具の猛攻を耐え切ったルーファスは自身の勝ちを悟ったのであった。
⭐︎
マズい。
カノンは焦燥感を露わにしていた。
目の前には辺り一面に広がっている煙幕がある。
音を頼りに魔導銃を打ち込んでいる。
ローラやロンド、アキトも出来ることをしている。
実際、当たっている実感はある。
だというのに、倒れる気配がないのだ。
カノンは攻撃の頻度を増やしていく。
この際全てが当たらなくても良い。
1秒でも早くルーファスを落とすことさへ出来れば・・・・・・。
しかし、無情にもタイムアップがやってくる。
カノンはしゃがみ込み何かを躱す。
「よくもルーファスをっ!」
そこには激昂した様子でカノンに剣を振るうロッサの姿があった。
カノンはロッサの攻撃を躱しつづける。
カノンにはロッサの攻撃の全てが見えていた。
隙を見て魔導銃を放つ。
「ぐっ!」
ロッサは空気弾をまともに受けて、後ずさる。
腹部に手を抑えて睨みつけてくる。
カノンは今のうちにロッサを落とそうと剣を振るう。
「!!」
「ようやく隙を見せましたね」
「ぐふっ!」
突如割り込んできた剣。
それはアイゼが操っていた剣の一つ。
そして、背後から聞こえた声にカノンは反応することが出来なかった。
カノンはまともに腹部に攻撃を受け、膝を付いた。
危険察知は出来ていた。
しかし、突如防がれた剣に動揺し、僅かに動きが遅れた為に躱すことが出来なかったのだ。
「はぁはぁ・・・・・・」
肩で息をしながら視線を変える。
ナイト二体。
メイデルと護衛のナイト三体が集まっていた。
そして・・・・・・。
「最終決戦だ」
煙の中から傷だらけのルーファスが姿を現す。
形勢が完全に逆転した瞬間であった。
⭐︎
連射する銃声がフィールド全体に響き渡る。
ガンマンは両手に持った二丁拳銃を放ち続ける。
「くっ!」
深紅の四人はそれを躱しながらそれぞれ別の相手をしていた。
カノンにはアイゼとロッサ、そしてアーチャー。
ローラとロンド、アキトにはルーファス、セイバー、クロスセイバー、タンク、メイデルとなっていた。
これでは指示が出せない。
アイゼとロッサの猛攻と弓矢、弾丸の嵐を辛うじて躱しながらカノンは心の中で嘆く。
致命傷になりそうなものだけを確実に躱し、他は許容していることで傷が増え始める。
他の三人も同様のようで苦しんでいるが完全に分断されてしまい指示が出せずにいた。
隣ではルーファスをと狙おうとアキトが仕掛けるが全てタンクに塞がれてしまっていた。
アキトがすぐにそこを離れるとそこを無数の弾丸が襲っていた。
セイバーとクロスセイバーは執拗にロンドを狙い、その隙を狙う形でローラがロンドの補佐をしている。
現状、彼等にはルーファスを倒す事はできない。
だからこそカノンは戦いの中で思考を巡らせていた。
この状況を打開する方法を。
しかし、考えるままなく事態は終焉に向かう。
「ぐっ!!」
遂に弾丸を受けたアキトが膝をつく。
そしてあろうことか二体のナイトに追われているロンドがアキトの救出に動いてしまったのだ。
これはロンドの体が勝手に動いてしまったことであり、仲間思いであることがこの状況を作り出してしまった。
ロンドがアキトに手を伸ばそうとする時、セイバーもまたロンドを狙い剣を振り上げていた。
「くうっ!」
カノンは急いで援護に向かおうとするが既に間に合いそうもない。
カノンが表情を歪めると、視界にローラの姿が映る。
ローラはセイバーの背後に迫り、頭部目掛けて槍を突き出そうとしていた。
これなら!とカノンが考えるが、ここで初めて自分達が操られていたことに気づく。
セイバーは剣を振り上げたまま、急に方向転換をし、身体の向きを変える。
まさか!
このタイミングで標的を変えられるのか!?
カノンは驚愕する。
そしてセイバーの目の前には槍を振り下ろそうとするローラの姿。
ローラの槍は止まることが出来ず、セイバの頭部を貫くが、それと同時にローラの背中を剣が強打する。
「ぐはっ!」
ローラは勢いよく地面に叩きつけられ僅かに声が漏れる。
そのままローラは動きを止める。
「止まれ」
尚も攻撃を加えようとするセイバーにルーファスは一声かけた。
と同時に、フィールド内にいたすべてのものの動きが止まり武器を下す。
辺りはしんと静まりかえるが、時間をおいて我に帰ると、カノンは急いでローラに駆け寄る。
この光景を観たこの場にいる全員が勝敗が付いたことを悟ったのであった。
ルーファスはナイトを消すとカノンに声をかける。
「模擬戦は終わりだ。早くローラを治療室に」
「ああ、そうだね。私達の負けだ。気遣い感謝する」
そう言い残してカノンはローラを担いでその場を後にした。
⭐︎
「黒王戦艦の勝利・・・・・・」
「まぁ、善戦したほうなんじゃねぇの?」
私の嘆きにレアードは一言告げる。
最後はスキルゴリ押して数で押し切った形となった。
"黒王戦艦"の強みを発揮した戦いだったと云えよう。
「結局、深紅は賭けに負けたということになるのね」
「賭けも何も、初めから無謀だったけどな」
「けど、ひょっとするかもって・・・・・・」
レアードの発言の矛盾点を突く。
「カノンにはそれだけの知識と説得力があるってことだ。あいつがやるっつったら、出来そうって感じちまうってことだ」
「そう」
カノンの姿が完全に見えなくなり、視線を戻すとロンドとアキトは"黒王戦艦"のメンバー全員と笑みを浮かべながら会話をしていた。
終盤、ロッサなんかはキレてるように見えたけど、今はそんな様子を感じない。
昨日の敵は今日の友ってやつなのだろうか?
周りで模擬戦を見ていた冒険者も、「すげー」やら「いいもん見た」と興奮収まらない様子のまま各自行動を開始していく。
私達も昼食を食べるべく、レアードと別れ、グループの冒険者と共に移動していく。
私はスッキリしたかのように笑みを浮かべ合う深紅と黒王のパーティを見て羨ましさを感じていた。
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