第24話 "深紅の刃" vs "黒王戦艦"

騎士団長ジーク・パトライアが去ったのち、早々に説明が始まった。

その内容は連携訓練の変更点についてであった。

主な変更点は二つ。

一つ目は、冒険者を三つのグループに分け、それを一つの隊として運用できる様にする事である。

三つのグループには"希望の守り手"のレアード、"深紅の刃"のカノン、"黒王戦艦"のルーファスがそれぞれ隊長を務めることとなった。

そして、二つ目は騎士団兵の参加である。

今回参加している冒険者の数はおよそ120人。

一グループ約40人となっている。

そして各グループをさらに10人4グループに分け、そこに経験豊富な騎士団兵を1人づつつけることとなった。

これにより、連携への理解を基礎から深めるのが狙いである。


私は予想通りレアード率いる"希望の守り手"のグループに入ることとなった。


「よろしくお願いします!!」


「よろしくな、アネさん!」


偶然にも"大海の灯籠"、"樹海平原"、"4つ子の魂"の面々も同じグループとなった。


リーダーがAランクパーティとあってDグループ以下のパーティがメインでグループを作られている。


その他の主要パーティだが、"深紅の刃"にはCランクパーティの"燃え盛る真光"。

そして"黒王戦艦"には、同じくCランクパーティの"戦巫女"がいる。


"燃え盛る真光"は英雄志向の者で創設されたパーティで皆癖は強いが、仲間思いの人達だ。

"戦巫女"は皆巫女装束に薙刀と言う格好をしたパーティで全員女性のパーティである。

連携力が発軍で薙刀の長いリーチでの戦い方は流石の一言である。


さて、早速私達はレアードの指示のもと10人1組を作る。

これからは基本的にこのグループでの連携訓練が固定化されるみたいだ。


今回は10人なので昨日と同じ組み合わせは作れない。

結果、私のグループは私、"樹海平原"、"4つ子の魂"、ソロ冒険者となった。

このグループに騎士団兵を加えて11名。

私達はこのメンバーで大樹の森へ入って行った。






⭐︎






結論から言うと、すごくやりやすくなった。

昨日と違って、"大海の灯籠"、そしてソロ冒険者が数人減っただけの違いではあったが、昨日より慣れと人数の減少があり、連携をとりやすくなっていた。

そして何より騎士団兵の存在が大きかった。

彼は常に背後におり、戦闘には基本参加していなかったが、洞察力が優れているのようで、逐一アドバイスをくれる。

物腰も柔らかく、あの騎士団長の部下かと思うほどやりやすかった。

聞いてみると、騎士団長が反面教師となっていた様だ。

しかし、騎士団長の事はとても信頼している様で、嫌いにならない様にと何度も言われてしまった。


成長を感じる半日で、気分良く森から出てくると模擬戦を行なっている姿が目に入る。

複数のパーティが模擬戦を出来るだけの空間の確保が出来ているのにそれをせず、たった一箇所に冒険者が集まっている光景を目にして、私達もそこに集まる。


「あ、レアード・・・・・・」


森に入っていたはずのレアードも戻ってきていた様で集まっている冒険者パーティの一つとなって模擬戦に目を向けていた。


「よぉ、お前のとこも早めに終わったんだな」


今日は連携訓練変更の初日と言う事で騎士団兵のアドバイスにより初日は早めに戻り休息を取る事となった。

どうやら、それは騎士団兵全体で浸透していた様で、どのグループも早めに戻り始めてきている様だ。


レアードは会話をしながらも目線をこちらに移す事はしていない。

私も気になり、視線を移した。


そこには横並びで向かい合っている"深紅の刃"と"黒王戦艦"の面々であった。


様子を見る限りこれから模擬戦が始まると言うところだ。


高ランク同士のパーティの戦闘を見れる機会はこんな時でなければなかなか無い。

だからこそ皆の注目を浴びている事を理解した。


「始まるぜ」


両パーティがそれぞれ正面の人と握手をして、各々距離を取る。


模擬戦は10メートル四方の範囲で行われる。

障害物も何も無い平原での模擬戦という事もあり、条件はどちらも一緒だ。


まあすぐ始まると思うとなんだか緊張してくる。


「どっちが勝つと思う?」


両パーティの戦い方を知らない私はレアードに尋ねる。


「ん?そうだな。まず両パーティは戦い方が全く異なる。"深紅の刃"は連携を駆使した機動力と多数でじわじわと削っていくタイプの戦い方をする。それは昨日の模擬戦をみて分かっただろう?」


確かに彼らの戦い方には戦略があった。

力押しではなく、相手の癖や思考を読んでの戦い方だったと思う。

じゃあ"黒王戦艦"は?


「"黒王戦艦"はどうなの?」


「あいつらは深紅と逆で、スキル頼り、身体能力頼りのゴリ押し戦法が得意だな。常に有利な状況を維持していく」


戦略と力のぶつかり合いね。


「けど、それだと深紅の方が有利じゃ無い?スキル頼りなとこを逆に利用して攻めていくんじゃない?」


「ふっ」


レアードは笑みを見せる。

何か可笑しなことを言っただろうか?


「普通はそう思うだろうな。だが、今回に限っては深紅に勝ち目は薄いだろうな」


「なぜ?」


何故そう思うのか、私には想像が付かない。

深紅からしたら黒王の戦い方はカモなんじゃ無いのか?


「まず条件面で既に不利だ。フィールドは何も無いただの平原。その上三十メートル四方だ」


「それが?」


何が言いたいのか分からない。


「つまり、単純な実力の差が大きいってことだ。フィールドが荒野や森なんかの複雑な地形なら深紅に軍配が上がるだろうが何も無い平原じゃあ、戦略の立てようが無い」


そこは聞いていて理解できた。

けどまだ納得のいかないところがある。


「けど、深紅は黒王の戦い方を熟知してるんじゃ無いの?だったらそこを逆に突いて・・・・・・」


「いや、残念だがそれは難しい」


「どういうこと?」


「黒王の攻撃力ははっきり言って俺達Aランクパーティより上だ。つまり、戦略も力で押し切っちまうってことだ」


「それほどの差があるのね・・・・・・」


「まあ、見てれば分かる」


深紅の面々と黒王の面々が定位置につき、笛の音と共に模擬戦が開始される。


それぞれが武器を構え、早速動きが見られる。


「まず最初に動くのはロンドだろうな」


レアードの予想通り笛の音と同時にロンドが腕を掲げる。

すると、何も無い空間に突如何かが生まれる。

透明であるがハッキリ見える。

それは黒王の間に出現して早速4人を分断する。


「あれは?」


「あれはロンドのスキルだ。あんな感じで透明な空間を出現させる。あの中に入ると動きが鈍り、身体の感覚が無くなる。だからこそ黒王はあれを躱さざるを得ない。その結果、透明な壁が出来上がる」


身体の鈍りと感覚の消失。

目まぐるしく変わる戦闘中にそんなことが起きれば命に関わることだ。

直接的に命の危機はないけど、躱さざるを得ない・・・・・・ということか。


黒王の4人の間に突如現れた透明な空間によって四方に飛び退く黒王の面々。

その隙に深紅は次の一手を打つ。


「!!ローラさんがルーファスさんとぶつかる!」


ローラは一直線にルーファスに向かっていく。

ローラは槍、ルーファスの剣が音を立ててぶつかる。


「黒王はスキルゴリ押しだが、その全てを担っているのはルーファスだ。黒王に勝つ為にはルーファスを抑え、スキルを使わせないことが必須となる」


つまり、ルーファスのスキルはそれほどに強力であり、全体に影響を及ぼすものであることが分かる。

そして、スキルを使わせないという言葉。

戦闘中の間は使えないということなのだろうか」


「ルーファスさんのスキルはどんなの?」


「あー、うまく説明出来ないなぁ。発動したら教えてやる。それよりルーファスのやつやっとスイッチが入ったみたいだな」


頭を掻いて困った表情を見せていたレアード。

しかし、状況が変わることを察知したのか笑みを見せる。


ルーファスに目を向けると彼はいつもの気だるげな表情とは一転、覇気を帯びた獰猛な顔に豹変する。


「どうした!?そんなもんか!?」


「ちっ!」


ローラは激しく槍を突き出すがその全てをルーファスによって簡単にいなされてしまう。

まるで実力差がハッキリと見える様だ。


「ローラのやつもまだスイッチが入ってねぇ。本当の実力はまだまだ先って感じだ」


ロンドのスキルによって四方に散った黒王戦艦の面々がルーファスに向かって集まろうとしている。

ルーファスが、スキルを使える様に援護する気なのだろう。


すると対極のフィールド、深紅のカノンが全体に指示を与える。


「ロンド、スキルをロッサにのみ集中させろ!彼女のスキルは攻撃系、妨害されれば動きが鈍り、援護に意識を割けなくなる。アキトはアイゼの時間稼ぎをしろ!十分に距離を取れ!距離を見誤れば失敗するぞ!ローラはそのままルーファスに当たれ!ローラの援護は僕がする!メイデルと目だけは合わせるなよ!」


カノンは的確に全員に指示を出していく。

全てはルーファスを抑える為のものだと言うことが行動から理解出来る。


「カノンはとことんルーファスを抑えるつもりの様だな」


レアードは腕を組んでフィールド全体に目を向けていた。


カノンは懐に手を入れて何かを取り出した。

それは木製の模造品ではなく実物であった。


「あれはっ!?」


カノンはそれをルーファスに向けると音が鳴り、何かが放たれた。

するとルーファスはその見えない何かを身を翻して躱していた。

しかし、その隙をローラに攻められ、防戦一方になりつつあった。


「レアード」


私はレアードに説明を求める。

しかしそれに応えたのは別の人物だった。


「あれは魔導銃。古代遺物の劣化複製品だな」


いつの間にか隣にギルドマスターが並んでおり、模擬戦に目を向けていた。


「そうなんだ。けど見たことない」


「あれはそんないいもんじゃない。小型で持ち運びはいいが、やはり劣化版ということが大きい。まず威力。あの魔導銃には大体2cmほどの弾丸を装填しないといけない。だが、劣化版の為、その威力は実用的ではない。応用が効かない上に唯一の攻撃性能である空気弾でさえ皮膚が少し割けて血が出る程度だ。その為、殺傷性が無いと判断して、そのままの使用を認めている。まあ、木製では作れないってのもあるがな。本来なら連射式や貫通弾などバラエティ豊富なんがだ、まだその領域に至っていない。その上、射程も狭く中距離から近距離の距離感でしか使用出来ない。そして、最後に価格が高い。魔導銃自体も高いが、弾丸も高い。あれを使えているのはアキトのスキルによるところが大きいな」


レアードも魔導銃についてはあまり理解していなかった様で、首を傾けながら聞き耳を立てている。


「アキトさんのスキルって?」


「アキトのスキルは物体を作り出すものだ。そのスキルを用いて、弾丸を作り出している。まあ、仕組みやらなんやら色々理解してないと作れないらしいから汎用性は高く無いらしいけどな」


色々と聞いているうちに一つの疑問が上がってきた。


「なんで煙幕使わないの?」


煙幕による攻撃は私から見てとても脅威的なものであった。

視界が封じられ、見えないところから無限に攻撃を受ける。

ルーファスを一気に倒すチャンスのはずなのに。


「使わないんじゃねぇ、使えないんだ」


「どういうこと?」


「煙幕ってのは戦術の一つに組み込まれたもんだ。そして、煙幕には重大なデメリットが存在する」


「デメリット?」


「ルーファスにスキルを使う機会を与えちまうってことだ」


「何故位置は特定しているはずでしょ?間髪与えずに攻撃出来るはず・・・・・・」


「確かにな。だがその間髪ってとこが肝だ」


「つまり、その僅かな隙を突かれるってこと?」


しかしその間髪の間だってコンマ数秒以下の世界のはず。

それが出来るってこと?


私は目を凝らしてルーファスに視線を向ける。

ルーファスは防戦一方ではあるが何かを待っている様に見える。


そして、その時は訪れた。

ルーファスは隙を見て、ローラに足を掛ける。

ローラは体勢を崩され、咄嗟に身体を引いてしまう。

これにより余裕が出来る。

カノンはその隙を埋めようと魔導銃を打ち出す。

しかし射出してすぐ何かに当たる。


「ナイス、タイミング」


その声は、アキトが相手していたはずのアイゼであった。

アイゼは自身の持つ剣とその周囲に浮いている剣を操作していた。

そのうちの一本が空から落ちてきて魔導銃の一撃を弾いたのだ。


その隙を逃さないルーファスでは無い。

ルーファスは地面に膝を付き、右拳を押し付けると勢いよく言い放つ。


「スキル発動!」


すると正面の地面がルーファスに対し垂直に割れる。

その中から白いオーラを纏った5つの武器が浮き出てきた。

剣、双剣、盾、二丁拳銃、弓だ。

そして、その武器を中心に身体が出来上がり、その武器を扱う5体のナイトが出来上がった。


「プランBに移行する。全員下がれ!」


即座にカノンが全員に指示を出す。

そして、指示通りに全員が一旦下がり、一箇所に集合した。


「さて、ここからは俺たちのターンだ」


ルーファスの声がフィールド全体に響き渡った。






⭐︎






「何が起きたの?」


ルーファスに意識を集中させていた私には何が起きたのか分からなかった。


「アイゼが、ルーファスがスキルを発動出来るだけの隙を作ったんだ」


そして、レアードが説明を始める。


「アイゼのスキルは物体を操作するもの。それによって両手で持たない分の剣を浮かせて八刀流を再現していた。だからこそカノンはアキトに近づきすぎるなと警告をしていた。一方アキトもそれを知った上で、十分に距離をとって、飛び道具で注意を自分に向けていた。だが、アキトはその時一つのミスを犯した。アイゼは剣の一つを天高く飛ばしていた。そして、アキトはそのことに気づいていたが、それを自分の隙を狙うものだと決めつけていたことだ。だからこそ、してやられた。その天高く飛ばした剣はアキトを狙うものではなく、ルーファスの援護をするものだった。そして、ルーファスがローラの足をかけ、転ばせたことでカノンの行動を再現させた。そこまですればあとは、タイミングより剣をカノンとルーファスの間に落とすだけ。そして、見事に成功させた。それが一連の流れだ」


正直驚いた。

アイゼという人物について何も知らないが、黒王は脳筋だというイメージがあった、だからこそこの様な連携をしたことに驚きを隠せなかった。


「さて、目を離すなよ、カーフェ。ここからは両パーティ戦い方が全く異なるぞ」


私は息を呑んでフィールドに向けた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る